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てんやわんやで御座います。

 伊邪那美は踵を返し、低く太い声を発した――


「もう良い……案内ご苦労であった。帰るぞ」


「…………」


 めぐみは声を出す事も出来なかった。そして、胸の内では「何か恐ろしい事」が起こる予感がしていた――


「どうしたのじゃ? 早う道案内を……」


「はい、た、た、只今……」


 めぐみは、右足と左足の区別もつかぬまま歩き始めた。そして、喜多美神社に到着すると、お役御免となり解放された――


「ほぇえ。参ったぁ……」


「あれ? めぐみ姐さん、どうしたんですか?」


「どうしたって、言われても……」 


「鏡。見たほうが良いですよ」


「えぇっ? 何で……」


「何か、目の下に隈が出来ているし、頬もげっそりって云うか……やつれた感じがします」


「ま、マジか?!」


 めぐみは、慌てて御手洗いに行くと、鏡に映る自分の顔を見て愕然とした――


「本当だっ! やんなっちゃうなぁ……もう、馬鹿っ!」



 ‶ めぐみちゃん、直ぐに回復するから大丈夫だよ ″



「えっ、本当に? 直ぐに回復するなら良かったぁ……でも、ショーティ。時間を移動しただけで、こんなに体力を消耗するなんて、ガッカリだよ……」



 ‶ 安心して。時間の移動だけなら殆ど体力は消耗しないよ。時間を移動する事で伊邪那美様の神力を無効化したから、体力を消耗したんだよ ″



「そう云う事なのかぁ……ショーティは何でも知っているのねっ! 助かるよぉ。可愛いっ!」



 ‶ エヘヘ。どういたしまして ″



 日も傾き、仕事を終える頃にはショーティの言う通り、だいぶ顔色が良くなっていた――


「はぁ。しっかし、疲れたよ……さっさと帰って、美味しい物でも食べて、お風呂に入って寝ようっと」



 めぐみが帰路に就く頃、W・S・U・S本部に異変が有った――


「お父さん。お話が有ります」


「どうした、マックス。何か欲しい物でも有るのか? お小遣いなら幾らでも使って良いんだよ」


「いえ、そんな個人的な話しでは有りません」


「ん? 一体、どうしたと言うんだ?」


「コレを見て下さいっ!」


「うむ……ん? これは?」


「時間軸にバグが発生しています」


「それなら、きっと、鯉乃めぐみが時間を操作したからだろう。心配する事は無い」


「いえ、彼女が時間を操作したとしても、こんなバグは発生しません」


「何だと?」


「これは大きな力の歪みを読み込んだ結果と思われます」


「大きな力と言っても、これほど大きな力となると……まさかっ!」


「その『まさか』だと思われます。伊邪那美と伊邪那岐が、地上に降臨しているようです」


「伊邪那美が地上に現れたと云う事は、日本の神話の新たな歴史の幕開けと云う事か……」


「伊邪那美と伊邪那岐のおふたりは、おそらく鯉乃めぐみの居る喜多美神社に身を寄せていると思われます」


「大変な事が起こりそうだな……」


「はい」



 めぐみのアパートにて――



「ただいまぁ……」


「めぐみお姉ちゃん、お帰りっ! あれ? 元気ないじゃんよ―ぉ。どうかしたん?」


「うん。お偉いさんの接待って云うか、案内係。もうヘトヘトよ」


「本当だ、何か、やつれた感じがするお……」


「これでも良くなったの。さっきまで、ゾンビみたいだったんだから」


「マジか? そんなに圧が強いん?」


「圧なんてぇ、モンじゃないのよっ! 右手と右足が一緒に出る感じ。口調は丁寧だけど、やる事が恐ろしいんだよ、スケールがデカいからさぁ……」


「夕飯食べたら、お風呂でゆっくり温まって、早く寝る事よな」


「うん。夕飯は?」


「天婦羅と蕎麦」


「おや? 天ぷらそばじゃなくて、天婦羅と蕎麦なの?」


「このクソ寒いのに、ざるもどうかと思って。天婦羅と小御飯と蕎麦。蕎麦は温かいのもお好みで」


「あら、親切ねぇ。熱々のプラテン食って、冷たいそばが良いかなぁ。ご飯は穴子で行くか」


「OK。ほんじゃ待っててね」


 めぐみは、七海が何時もとは違うアップリケの付いた可愛いエプロン姿で、天婦羅を揚げているのをぼんやりと眺めていた――


「しかし、その銅鍋。凄いね。」


「父ちゃんが拘るんよねぇ『食材に幾ら拘ったって、道具に拘らなけりゃ完成しない料理の代表が天婦羅よっ!』って、うるせぇんだわ」


「男って、そう云う事を言うの好きよなぁ……」


「違いの分かる男っつーの? 通ぶっちゃって、蘊蓄垂れまくりなんよ」


「まぁ、事実なんだけどねぇ。銅の打ち出し鍋に、白絞油なんて一般家庭では使わないよね」


 タイミング良くレミが帰って来た――


「ただいま」


「レミさんお帰りなさい。ちょうど夕飯だお」


「ナイス。お腹が空いたわ……あら? めぐみちゃん、どうしたの? 痩せたみたいだけど?」


「話せば長いんですよ……」


 三人は食卓に並んだ天婦羅に舌鼓を打っていた――


「サックサクね」


「香りが最高だわ」


「やっぱ、旨いんよねぇ」


「お蕎麦も良いわね。山葵と浅草海苔が、一気にステージを上げているわ」



 めぐみは、食事を終えると、ゆっくりと湯船に浸かり、何時もの作法でコーヒー牛乳を飲むと泥の様に眠ってしまい、レミに伊邪那美が地上に居る事を伝えられなかった。そして、三人が眠りについた頃、喜多美神社の本殿は、まだ灯りが消えずにいた――



「お話が有ります」


「改まって何でしょう?」


「とぼけないで下さい」


「まぁ。長い間、離れ離れだったとは言え、何が言いたいのか位は……夫婦ですからねぇ。分かりますよ」


「この、地上の淀んだ空気を、何とかせねばなりますまい」


「えぇ。そのために、私もあのお嬢さんも……」


天国主大神アメクニヌシノオオカミに、鯉乃めぐみと名乗るあの娘の事を聞きました。縁結命エニシムスビノミコト。後の時読命トキヨミノミコトであると」


「はい。しかし、何故、天国主大神アメクニヌシノオオカミに?」


「今日、世田谷の案内をしている時、時を動かしましたから」


「時を動かした位なら、何も天国主大神アメクニヌシノオオカミにお伺いをする必要など有りませんねぇ」


「フッ。時を動かす事によって、私の神力を無効化した故、お尋ねしました」


「ほぅ。なるほど、無効化しましたか。そう云う事ですか……そうですか」


 伊邪那岐は、めぐみの神力が巨大化している事を確認出来た事が嬉しくて、思わず笑みが零れた――


「あなた。何やら、とても、嬉しそうですねぇ……」



 伊邪那美は、微笑を浮かべつつ、その表情はどんどん険しくなり、突然、カッと眼を見開き、睨み付けた。伊邪那岐は「ゴクリ」と息を飲み込んで、身構えた――






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