諦めたらアカンでぇ!
伊邪那美は好奇心旺盛なギャルの様に、小走りで黒テントの列に並んだ――
「並ぶんかぁ――いっ!」
「不服か? これが地上の人間生活のルールだと申したでは無いか?」
「えぇ……でも、伊邪那美様に占いなんて無意味ですよぉ。先を見通す事も、何でも出来るじゃないですか? 何なら全部、書き変える気満々じゃないですかぁ」
「うむ。それは……それじゃ」
「それはそれ?」
「人間が八卦見に頼る理由を知りたいのじゃ。きっと、何か心惹かれる事でもあるのであろう?」
「有りませんて『だから、なんやねんっ!』って、感じですよぉ」
「分からぬ事を申すな。依存すると云う事は、救いを求めているのであろう?」
「はぁ……」
「何故、神を頼らぬのじゃ。何故、神に救いを求めぬのじゃ?}
「まぁ、ぶっちゃけ、宗教に頼る人も多いんですけど……」
「多いとな?」
「そうですねぇ……宗教ほど厳格なモノではなく、あぁっ! ライト・ユーザーみたいな?」
「ん? 何を申しておるのじゃ? ライト・ユーザー? それは、何じゃ?」
「もっと手軽な……感じって、感じです」
「むむむ。信ずる事に手軽とは、これ如何に?」
「あぁっ、つまり……」
めぐみは、説明に疲れてしまい、最早、体験するしか無いと確信した。暫くすると列は進み、伊邪那美の前に並んでいた女性が中に入って行った――
「いよいよ、次じゃのぅ……」
「期待しないで下さいよ。面白くない結果でも太刀は抜かないで下さいね」
「おや? これ、中から、すすり泣く声が聞こえるではないか?」
「まぁ、色々な人が居るのが、人間社会ですから」
「ちと……」
「あぁっ! 覗いちゃ駄目ですよっ!」
「女子が泣いておるのじゃ、見過ごせまいて」
伊邪那美は耳をそばだてて中の様子を伺った。すると、エセ関西弁の男の声が聞こえて来た――
「あんた、騙されやすいなぁ……アホかっ! ちゅう話やで」
「だぁってぇ――――えっ! 誰も信じられない、見放された時『最後にお前を守ってやるのは俺だ』って、言ってくれてぇ……」
「あんなぁ。そのパターン、多過ぎやねんって。分らんか? 最後っちゅう事はな、それまで放置やで? 最後の最後に助けて、恩を売るコスパ重視のやり方やねん。クズ男の常套手段やんか……」
「そんな事ないもん、友達だって、いっぱい居るし、人望だって有るもん」
「ちゃう、ちゃう、ちゃうって。分からん娘やなぁ……ほな、言うたるわ。あんなぁ、友達や仲間が多いって事はな」
「多いって事は?」
「皆、グルやで」
「えぇっ!」
女性の顔色が、一瞬にして曇った――
「なぁ。心当りあるやろ? 誰々ちゃんが困っていると云っては、金の無心や」
「でもぉ、皆、良い人なんですよ、私に感謝のパーティとか、やってくれてぇ……」
「そのパーティな、キミから引っ張り出した金でやってんねんで?」
「…………」
「なんぼ?」
「三百万」
「アホやなぁ、分らんか? パティーちゅうのは、ゆうても何十万やんか? まぁ、せいぜい一割っちゅうとこや。あんた、良い様に利用されてるだけやねんって」
「ぅっが―――っ! うえぇ―――ん、えんえんえん、びえぇ―――――んっ、すんすんっ」
「あんなぁ。風俗で働いている汚れやからって、自分を卑下したらアカンねんで、もっと、自分を大切にせな。なぁ? クズ男なら引け目を感じず気が楽やからと、ゆうてもなぁ、キミがしている事は、ゴミ拾いやで?」
「だって、家庭崩壊で、家出して、就職したけど騙されて、借金して、返済するために風俗で働いている様なダメ女だよ。まともな人は相手にしてくれないよ? 相手にされたとしても、真剣交際して身バレしたら、結局、傷付くだけじゃん」
「あ――ぁ、あかんなぁ。分かったわ」
占い師の眼光が鋭くなり、冷酷な視線を向けた――
「何よぉ」
「キミな、真剣交際して身バレして傷付くの、自分だけや思ってるやろ?」
「…………」
「その、真剣交際していた彼氏が傷付くとか、一個も考えてないやろ?」
「相手が傷付く?」
「そうや。好きになった人が、どんな出自出生だろうと、愛している気持ちっちゅうのんはなぁ、変わらへんねんで?」
「えぇっ……」
「『良い人やから、これ以上、好きになったらアカン』って思うて、身を引いた事が何度も有るやろ?」
「……うん」
「その中に、運命の人が居たら、どないすんねん」
「ドキッ! ホントにぃ?」
「そうや。相手も傷付いてるでぇ……突然、キミが目の前から消えてI lost youちゅう奴や。な? Love とLostは字の雰囲気は似てるけど、天と地の違いやで」
「でも……」
「自信、持たんかいっ! 卑下したらアカン、悪い方、悪い方に自分で向かってんねん、自分に相応しい相手かどうか、自分で決めるのが間違いの元やねんっ!」
「だけど……私は馬鹿だし、汚れだし、何をやってもダメなんです」
「そうやって、決め付けてんねん。逃げてんねん。駄目かどうか、分からんやろ? 駄目かどうか決めるのは相手や、キミやないねんっ!」
‶ 私は美咲、中学三年生、シングルマザーの…… ‶
「ほれ見てみぃ。このCMの冒頭を聞いただけで『何とかしてあげたい』って、思うたやろ?」
「うん……」
「そんで、寄付したやろ?」
「…………」
「キミはな、優しいねん。でもな。その優しさに付け込んで商売する人間が、ぎょうさんおる事を、知らなアカンわ」
「やっぱり馬鹿だし、何度でも騙されるし、こんな私に、自信なんて持てないよぉ」
「キミはな。誰よりも傷付いて来たやんか? 皆が、暖かい家族の愛に包まれて、笑っている時も、たったひとりで、踏み付けられながら、必死に働いて、生きて来たんやで? 凄いやん。凄いやろ? 誰よりも傷付いて来たから、他人に優しく出来るねん。その自分を、誇らなアカンでっ!」
「……うぐっ」
「今日、この占いに来たのは、未だ、人生を諦めてへん証拠や。前を向いて、胸張って、確り生きて行かなアカンで」
「はい……」
めぐみは、占い師が騙され易い花マル印の女の子を、更に手練手管で騙す手法に呆れていた。だが、話を聞いていた伊邪那美が目頭を押さえるのを見て「マジで、シャレになんねぇーなぁ、おいっ!」と、心の中でツッコミを入れていた――
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