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天罰はダメなんですっ!

 案の定、伊邪那美は呼吸する間を与えず、太刀を抜き、意見をした者達を切り落とした――



 ‶ シャキィ―――――――ンッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパァ―――――――――――――――――――――――――ッ、



「ひぃい、いきなり八つ裂きにするなんて、惨いっ!」


「フッ、良く見るが良いぞ。八つに切ったのでは無い、二十四に切り分けたのじゃ」


「そんな細かい事は、どーでも良いんですよっ! 何て事をしてくれ……」



 ‶ キャァ―――――――――――――――――アッ、助けてぇ、人殺しぃ―――――っ! ″



 行列に並んでいた者達は、脱兎の如く逃げて行き、店内で見ていた者達は食べかけのまま店を飛び出して逃げて行き、中には、その場でリバースする者も居た――


「あららららららぁ……あのですね、人間の生活にはルールが有るんですよっ! 並んでいただけなのに、切り殺すなんて、絶対に許されないんですよっ!」


「切り殺すとな? これこれ、それは言い掛かりと言うものじゃ。この伊邪那美に向かって『クソババア』などと……これは、殺人ではなく天罰じゃっ!」


「天罰なんて人間のルールでは通用しませんよ。好き勝手な振る舞いは、混乱を来たすだけです」


「ふんっ、混乱を来たすなどと戯けた事を。誰も居なくなって、都合が良いのではないかぇ?一石二鳥とは正にこの事よのぅ。おほほほほ」


「あのですねぇっ!」


 

 ‶ めぐみちゃん、余計に拗れるから、早く時間を戻して ″



「ショーティ、忠告あんがと。そうするよ」


 めぐみは、惨劇の前に時間を戻した―――


「むむっ。その方、時間を戻したな?」


「勿論でぇ――――す」


「戻す必要など有るまいに……」


「いいえ。警察官が来たら、問答無用で全員、切り殺しそうなので。ラーメンが食べたいのなら並んで下さい。並ぶのが嫌なら先に参ります。どーしますか?」


「うーむ、並ぶ甲斐が有れば良いのじゃが、食した後、怒りが込み上げて来る事も有ろうて……しかし、素通りと云うのは如何なものか……食べたいが、並びたくはないのぅ……何とか出来ぬ物かのぅ……」


「出来ませんよっ!」



 ‶ めぐみちゃん、口開けの一番最初の時間に戻せば、並ばないで食べられるよ ″



「あっ! そっか、一番客になれば良いのか。ショーティ、有難う」



 ‶ どういたしまして ″



「もうっ。可愛いんだからぁ。後で遊ぼうね」


「その方、誰と喋っておるじゃ? 私の話を聞いておるのかぇ?」


「勿論です。それでは、ラーメンを食べる事にしましょう」


「しかし……並ぶのは嫌なのじゃ」


「分かっております。時間を移動します。ほいっ!」


 めぐみと伊邪那美は先頭に立っていた――


「お待たせしましたぁ―――――っ! 開店です」


 伊邪那美は、一番乗りで店内に入ると、フル・カスタムを注文した。店主が一生懸命、湯切りをして、完成すると伊邪那美の眼前に差し出した――


「お待たせしました。マシマシ、多め、濃いめ、固め、MAX乗せです」


 伊邪那美はめぐみに聞かされた通りに、天日塩をひと摘まみ掛けて食した――


「うむ。良い香りじゃ。その方の言う通りの味と香り、この繊細な味わいを堪能せねば、このラーメンを味わったとは言えまい……これは?」


「はい。焼豚の代わりにコーチンのもも肉と胸肉が乗っています。そのお肉を十二時の位置に移動して、蓮華の焼き味噌を沈めて下さい」


「十二時の位置に移動するのは何故じゃ?」


「蓮華を沈めるスペースを作るためです。そして、移動したお肉を軽く箸で押してスープに浸して温度を馴染ませます」


「ふむ……奥深いものよのぅ。むむっ、何という柔らかさ、口当たりの良さじゃ! まるで解ける様に形が無くなって行く……」


「はい。このもも肉はコンフィにした後、炭火で炙り、特製の醤油ダレで煮込んでおりますので、とても柔らかいのです。ほら、柳刃ですうっと、引いているのが見えるでしょう?」


「ふむ。形を崩さずに美しく切り分けておる。しかし、胸肉は更に薄切りじゃのぅ……」


「胸肉は淡泊なので、パサパサにならない様に低温のスープでふっくらと煮て、もも肉のコンフィを作る時に出来た『旨味の油』で和えて有ります」


「薬味の山椒も納得じゃ……」


「人間生活には目に見えない作法とルールが有るんです。いきなり天罰など言語道断なのです」


「相分かった。その方、見かけに寄らず頼りになるのぅ。この先も案内を任せたぞ」


 めぐみは、お会計を済ませて店を出ると、現在の時間に戻した。そして、ラーメンを堪能した伊邪那美の案内を続けた――


 

「あれは何じゃ?」


「はい。あれは予備校で御座います」


「学校が有るのに予備校とはこれ如何に?」


「はい。学校の勉強だけでは進学する事が出来ないために通うので御座います」


「学校の勉強で進学出来ない様なら、諦めるが良いであろう?」


「そうは参りません。良い大学を卒業するかしないかで、後の人生が大きく変わってしまいます。その為、親御さんは高額な費用を負担して通わせているので御座います」


「解せぬのぅ。無理をして身の丈以上を求めても、不幸を呼び込むだけだと云うのに」


「はい。家族関係が破綻してしまうご家庭も多く存在しますが、競争社会で生き抜くためには、止む終えぬ事と存じます」


「せんない事よのぅ。これ、アレに見えるは何じゃ?」


「あぁっ、アレは……」


 めぐみは、心の中で「変なものに食いついてんじゃねぇよっ!」と呟いた――


「何を口籠っておる。はっきりと答えぃ」


「アレは、占いの黒テントです」


「占い? 昼間から八卦見なんぞに並んでおるのは、どう云う事じゃ?}


「まぁ、ぶっちゃけ、メンヘラって云うか、騙されやすいって云うか、ピュアって云うか、依存症みたいな?」


「これ。その方、何を言っておるのか、分からぬぞ?」


「はい。精神的な救いを求めて並んでいるのです」


「八卦見が救いとは此れ如何に?」



 めぐみは、何でも「これ如何に?」と聞いて来る伊邪那美に辟易しつつ、切り抜ける方法を模索していた。スマート・ウォッチの画面に目をやると、ショーティがHOUSEで転寝をしていた。可愛い寝顔を見ると、起こすのも気の毒なので、適当に胡麻化して切り抜けようと思っていた―――








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