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レインメーカーじゃダメなんです。

 伊邪那美の東京見物の案内係など真っ平御免だった。それは、考えるまでも無く、聞かれたら何でも答え、反論されたら得心するまで説明しなければならない事が容易に想像が出来たからであり、そして、トラブルが発生した時の対処法が無い事を恐れ、何としても避けたかった――


「あの、地上は変な人や危険な人も多くおりますので……東京は特に……」


「変な人も危険人物も、全てこの私が生んだ作品と言って差し支えない。成長した子供たちの晴れ姿を見たいと思うのは親としては当然の事ぞ……」


「あぁ、はい。ですが……」


「何か不都合な事でも有るのかぇ?」


 めぐみは、反論出来ないトークを展開しながら、グイグイ押して来る伊邪那美の存在が不都合だとは言えなかった。そして、閃いた――


「せっかくですから、新婚旅行気分で、おふたりだけで出かけてみたら如何ですか?」


「ほほう。妙案じゃのぅ。そう云えば……」


 伊邪那岐は背中を向けて草むしりをしていた――


「伊邪那岐さん、ふたりで銀ブラは如何ですかぁ?」


「銀ブラとは。銀座をぶらぶら歩く事ではなく、銀座のカフェ・パウリスタでブラジル・コーヒーを飲む事位は教えてあげられますが、地上から冥府に連行していただけですから不案内です。それに、私は今更、東京見物などしたくありません」


「銀座、カフェ、ブラジルコーヒー……全て耳馴染みの無い言葉よのぅ」


「家庭サービスでお出掛けになったら、リフレッシュできること請け合いますよ。うふふふ」


「そうしたいのですが、実は……死ぬ寸前だったせいなのか、私は今、酷く疲れています。ですので……お嬢さんが案内して頂ければ伊邪那美も喜びますので、宜しくお願い致します」


 めぐみは、伊邪那岐に深々と頭を下げてお願いをされてしまった。助けを求めた相手に、逃れられないダメを押された格好だった――


「あぁ……はぃ……」


「うむっ! 思い立ったが吉日、参ろうぞ」


「いやいやいやいや、まだ仕事が有りますので、どうか、ご勘弁を……」


 伊邪那美は天に手を翳し、ふぅっと息を吐いた。すると小さな竜巻が起こり、身の丈ほどの大きさになるとサッと風に変化して喜多美神社を吹き抜けて行った――


「これで大丈夫。その方の仕事は終わったぞ、さぁ、参ろうぞ」


「でぇっ! ほっ、本当ですかぁ?」


 めぐみは、伊邪那美に言われるがまま、東京見物に出かけた――


「うーむ、発展しておる。快適な生活が出来る様に工夫がしてあるのが見事じゃ」


「はぁ。生活は便利ですけどぉ、お金が無いと辛いのが東京の暮らしなので……」


「ほほう。お金? 必要ならば、バラ撒けば良いのではないかぇ?」


「天からお金が降って来たら……そんな夢みたいな事が出来たら嬉しいでしょうけど……『そう願っても無駄だから、good-bye!』って事で、皆、一生懸命働いている訳です」


「その方、めぐみと申したな」


「はい……」


「『そんな夢みたいな事が出来たら嬉しい』と申すのは、産みに産んだ、この私にもその様な事は出来まいと云う挑発と受け止めたが……?」


「めっ、滅相も御座いません。挑発だなんて……」


「ならば、真意を申せっ!」


「あの……もしも、お金が天から降って来たら誰も働きませんから。ほら、あのトラックの運転手も、小売店も、働くのが馬鹿馬鹿しくて遊んで暮らす様になりますので……」


「そんな事になるとは思えぬが?」


「人間は皆、お金で解決しようとしますが、全員が大金持ちになったら逆に貧乏になってしまいます」


「無礼者っ! その方、知らぬ事を幸いに騙そうとしておるな?」 


「そんな事は有りません」


「お金が降って来れば、全ての民が公平に大金持ちになるのに、何故、貧乏になるのじゃ?」


「はい。たぶん、バスの初乗り運賃が二百万とか? コンビニのパンが百五十万とか? お金が有るのに働いてお金を稼ごうと云う人間は強欲且つ貪欲。お金という権力を欲しておりますので……はい」


「ぬぬぅ? お金が有り余っている以上、運賃が高くなろうが、パンが高くなろうが、どうと云う事はないではないか? お金と言う権力とは此れ如何に?」


「はい。強欲且つ貪欲な人間が、お金を独占する様になり、何時の間にか貧富の差を付けて、貧乏人を支配する様になるのは時間の問題ですので、結局、元の木阿弥で御座います」


「フッフッフッフ、ハッハッハ。甘い甘い……この私が本気になればお金は途切れる事無く降り続けるのじゃっ! それこそ、貧富の差など意味が無い程にのぅ……見るが良いっ!」


 伊邪那美は両手を天に突き上げ、両手を広げてフゥ――ッと息を吹いた。天空の星がキラリと光ると、地上に諭吉が舞い降りた――


「いやっ、ちょっと、無茶な事しないで下さいっ!」


 通行人はヒラヒラと舞い落ちるお札を、悪戯だと思いスルーをしていたが、直ぐに本物のお札だと気付くと、我先にと奪い合いが始まった――


「金だ、金だっ!」


「おいっ! 誰かの物なんだから、警察に届けないと犯罪者になるぞっ!」


「バーカっ! そんな事は分っているよ、謝礼の一割だって大変な金額だよっ! ボーっとしている場合かっ!」


「そうだな、仕事なんかやってらんないよ」


 あっと言う間に街は阿鼻叫喚、地獄絵図の様相になって行った――


「ほらぁ……もうっ! 案内係の私の云う事を聴いて下さいっ!」


「世のため人のために働く異議を忘れ、仕事を投げ出し、血眼になるとは、何という事であろう……」


 伊邪那美のお金の雨は留まる事を知らなかった。街中がお札で埋め尽くされ、拾う者達が疲労困憊して、手を止め、放置されると、足の踏み場も無いほどになって行った。



 ‶ ドッカ―ン、ガッシャ――――ンッ! ″



「おいっ! どうしてくれるんだよっ! 他人の大切な車を傷付けやがってっ!」


「撒き散らされた紙のせいで、ハンドルを取られて、慌ててブレーキを踏んだのですが、ブレーキがロックして全く効かなかったんです。紙の上を滑ってしまったんです……」


 その紙が、お札に気付くのに時間は掛からなかった――


「金だっ! すみません、これで勘弁して下さい」


「本当だっ! こうしちゃいられない、早く拾わないと」


「あの……」


「事故の事なんかどうでも良い、早く拾うんだっ!」



 

 道路を走る車やバイクが、道路上のお札にハンドルを取られて次々に事故を起こして大惨事になって行った――






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