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覗いちゃダメなんです。

 時は、ゆったりと過ぎて行き、疲れは帰宅する頃には、すっかり癒えていた――


「やっぱり、地上に居ると回復が早いよ。すっかり元気になちゃったもんね。さぁて、帰ろっと」 


「あっ、めぐみさん、ピースケさんを見なかったかしら?」


「典子さん。ピースケちゃんなら、さっき、拝殿に居ましたけど?」


「そう。有難う」


「何か用事でも?」


「いえ、手を付けた仕事をやりっぱなしで行方不明なのよ。紗耶香さんに聞いても知らないって言うし……拝殿に何の様かしら?」


 めぐみは、直ぐにピースケは本殿に居ると確信した――


「典子さん、それなら、私が呼んで来ますよ」


「そう? 助かるわぁ。帰り際に申し訳ないけど、お願いしますね。それが済んだら、めぐみさんは上がってね。お疲れ様ぁ」


「お疲れ様でした」


 めぐみは、拝殿に昇殿すると本殿へ向かった。すると、身を屈めて中の様子を伺うピースケが居た――


「わぁっ!」


「うわぁあっ! めぐみ姐さん、ビックリさせないで下さいよぉ……心臓が止まるかと思いましたよぉ……」


「こんな所で、油を売っていないで、授与所の仕事を片付けなさいっ! 典子さんが心配して探していたわよ?」


「あぁっ!? いっけねぇ……すっかり忘れていましたよ」


「職務放棄して、覗き見だなんて……紗耶香さんに知れたら、破局確定だよ?」


「えぇっ! マジですか? めぐみ姐さん、この事は内緒にして下さい」


「しょうがないわねぇ……」


 めぐみは腕組みをして、ピースケを睨んだ――


「だって……神の中の神、僕達、みんなの生みの親なんですよ? 天地を創造した神ですよ? その御姿を、ひと目見たいと思うのは人情……いえ、神情じゃ有りませんか?」


「うーん、まぁねぇ。てか、伊邪那岐にはもう会っているじゃないの」


「えぇっ! 会っているって、ど、どう云う事ですか?」



 めぐみは、これまでの経緯を話した――



「な、な、な、何ですって――――ぇ!! 死神さんの正体が伊邪那岐だなんて……でも、僕が、得も言われぬ恐怖を感じたのは、そのせいだったんですね……」


「そうかもね。兎に角、覗き見したところで、何時出て来るか分からないよ? それに、ずっと、出て来ないかもしれないよ」


「はぁ……」


「仕事を片付けなさいっ!」


「でも……」


「もうっ! その内、会いたくなくても会えるって」


「分かりました」


 めぐみは、ピースを連れて授与所に行き、皆に帰りの挨拶をして社務所に向かい、着替えを済ませると帰路に就いた――


「あぁっ、ペダルが重く感じるし、腰も重い……やっぱ、疲れているんだなぁ……」


 めぐみは、一生懸命、ペダルを漕いだが中々前に進まなかった。そして、坂道に差し掛かった時、異変に気付いた――


「何時もは余裕で登り切るこの坂が、今日は無理っぽい。立ち漕ぎなんて、初めてだよ」


 しかし、立ち漕ぎをしようとしたが、腰が上がらなかった――


「おや? あれ? あら? ちょっと、あんた誰っ! 何時の間に後ろに乗っていたのよぉっ!」 


「お嬢ちゃん、最初っから乗っているよ。気が付かない方がどうかしているよ?」


 めぐみの腰が上がらなかったのは、後ろに乗っていた男が腰に摑まっていたからだった――


「降りなさいよっ!」


「まぁまぁ。落ち着きなさいよ。この坂を登り切った左手に、街灯の無い小径が有る? そこへ着いてから、お話しましょう」


 めぐみは、とりあえず男の言う通りにした――


「ちょっと、おじさん。あなた、一体何者なの?」


「おっと。出自出生は御勘弁、願いたいねぇ……詮索は止めて貰おうか」


「大丈夫よ。私も大抵の事じゃ驚かなくなっているから」


「フッフ。そいつは口が裂けても言えないんでねぇ」


 めぐみは、小径に入って自転車を降りると男と正対した。近所の家から漏れる微かな灯りに浮かび上がる男の姿は、夜だと云うのにサングラスを掛け、ハンチングを被り、黒の外套にチャコール・グレーのパンツで、張り込みの中の刑事の様だった――


「うーん、怪しい。まるで昭和の刑事。それも、俳優さんが考えた架空の刑事スタイル」


「おっと、手厳しいなぁ。察しは付いているだろうけど、俺は天国主大神アメクニヌシノオオカミの使いだよ。郵便屋、宅配、買い取り屋。まぁ、色んな形で接触して来た訳だが、今回は特別だぁ……上物のブツだからなぁ……」


「上物?」


 男は、コートの内ポケットに大切に仕舞っていた小袋を取り出した。そのビロードの小袋には、金色の紐で口を結んであった――


「こいつを、そいつと交換だ……おっと、そいつをそっと外して前カゴに入れるんだ。気付かれると不味いんでなぁ。そして、もう一度二人乗りをする。その時に、ブツをさりげなくお嬢ちゃんのジャケットのポケットに入れて置くから安心しな……」


 めぐみは、言われるまま二人乗りをして家路を急いだ――


「二人乗りは、しちゃダメなのよ?」


「心配御無用。こちとら神様なんだ。びくびくする事は、何も無いさ」


「ねぇ、ブツって、どんな物なの?」


「新しいクロノ・ウォッチだと云う事は分るだろ?」


「えぇ」


「これまでのクロノ・ウォッチの様な制約の無い、快適なクロノ・ウォッチとだけ答えておこうか……あぁ。その角で止めてくれ。そこで降りる」



 ‶ キイ―――――――――――――ィッ! ″



「じゃあ、お嬢ちゃん、気を付けて帰んなよ。あばよ」



 怪しい男を降ろすと、ペダルは軽くなり、自転車をスイスイと走らせて帰宅した――


「おや? 七海ちゃんも、レミさんも居ない感じ?」


 めぐみは、誰も居ない真っ暗な部屋に入ると、灯りを着けた。ダイニング・テーブルには「外出して遅くなるから夕飯は要らない」と、レミが書置きを残していた。そして、その書置きに「レミさんも居ないから駿ちゃんとデートすることにしたお。冷蔵庫の中に鱈と豆腐が有るから、湯豆腐で我慢してちょ」更に書置きが付け足してあった――


「何だ、夕飯準備してあるじゃん。上等上等、湯豆腐大歓迎、寒い日は鍋に限るねぇ」


 湯豆腐の準備を整え、鍋に火をかけると、コートハンガーに掛けたジャケットのポケットからビロードの小袋を取り出し、紐を解いて新しいクロノ・ウォッチの取説だけを取り出した――






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