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出たり入ったりするモノなんです。

 素戔嗚尊スサノオノミコトが居なくなった本殿には、冷たい空気が充満していた――



 ‶ ガコンッ、キィ――――――――――ィ ″



「どうぞ此方へ。うっひっひ」


「何やら、建屋は立派であるが、冷たい空気が充満しているではないか……」


「空き家ですから。そこはぁ、新婚さんのおふたりで暖めて頂ければ、よろしいかと……クックック」


「新婚だなどと……こそばゆいのぅ。しかし、神社の本殿と云うのは……何か、牢屋の様では無いか?」


「愛し合うふたり……牢屋だろうが、コテージだろうが、同じ事と存じます。ぐふっ」


「うーむ、もっと、Cozyな感じであれば、良しとしたのだが……」


「まぁまぁ。せっかく、お嬢さんが案内をしてくれたのですから……」


「だって、あなた……せっかく地上に来たのです。住まいが本殿では、ShabbyChicの意味が違って来てしまいます……もっと、開放的な感じの、明るいお部屋を案内してはもらえぬのかぇ?」


「此方の物件。ちょうど空いていたので、おふたりにピッタリかと」


「何か、こう、畏まってしまうではないか……そうは思わぬか?」


「伊邪那美様は御存じ無い御様子。令和の今、現代の日本社会は危険が一杯で御座います。セキュリティーの面ではタワマンが充実しておりますが、地震に対して不安を払拭する事は出来ません」


「普通の住宅で良いのだぞ? まぁ、ふたりだけであるから……平屋が良いのぅ。お庭も小さくてよいから、季節感の在る植栽で、鹿威しといわずとも水琴窟位は欲しいのぅ……」


「そんなに、贅沢を言うものでは有りませんよ。お嬢さんが困っているでは有りませんか」


「住宅とひと口に申されましても、東京の住宅事情はちょっと複雑でして、半径五百メート―ル以内に小児性愛者、変質者、暴力団、新興宗教の信者、野良猫嫌い、除夜の鐘や幼稚園児の声がうるさいなどと言うクレーマー、マイルド・ヤンキー、政治団体、ムスリムに支那人に朝鮮人を含む外国人……環境によっては人生がBAD・ENDに……」


「もう、良いっ! キリが無いっ! 普通の住宅に住む事すら、ままならぬ世とは……悲しい事よのぅ……」


「此方の物件でしたらセキュリティ的には万全っ! 最強と存じます。ひっひっひ」 


「仕方あるまい」



 めぐみは、ふたりを本殿に住まわせる事に成功すると、一日の疲れがどっと出て、早く帰ろうと思った――


「あら? まだ典子さんも紗耶香さんも働いているよ……そっか、時間を戻しちゃったからなぁ……」


 めぐみは、クロノ・ウォッチを使って時間を進めようとした。すると、音声で警告が出た――



 ‶ 戻した時間を進めると、プロセスが失われます。よろしければエンターを押して下さい ″



「あぁっ、そりゃ不味いよ、危ない危ない。折角、終わらせた事が台無しになっちゃうよぉ。使えねぇなぁ……」


 めぐみは、諦めて仕事を続けることにした。すると、ピースケに呼び止められた――


「あのっ、めぐみ姐さん。ちょっと……」


「あら、ピースケちゃん、どうしたの?」


「めぐみ姐さん、感じませんか?」


「感じるって……いやらしいっ!」


「スケベな事じゃ有りませんよっ! この神社の雰囲気ですよっ!」


「雰囲気??」


「何か荘厳な……畏怖の念を抱くような……重々しくも清々しい、言葉では形容しがたい何かですよ」


「さぁ? 別に何にも変わりは無いけど……」


「とぼけないで下さいよっ! そんな事無いですよ、空気が変わっていますよ。めぐみ姐さん、何かしたでしょう? 何か知っているでしょう? 違いますか?」


「とぼけてなんかいないわよ。うーん、まぁ、そうねぇ。そう言えば、素戔嗚尊スサノオノミコトが出て行ったのは知ってる?」 


「えぇっ! 出て行ったって、どう云う事ですか?」


「うーん、何か……愛を探しに旅に出るって。探さないで下さいって」


「嘘でしょう!? そんな事が、出来るんですか? 祀られているのに?」


「出来るも何も、出て行っちゃたんだから」


「だとすると、この神社の本殿は空っぽになったと云う事ですよね? それなら、邪気が充満するはずなのに、まるで逆ですよ? 神聖な空気を吸い込むと、身体が浄化されるような感じさえするのは何故なのでしょう……」


「あぁ。それなら、きっと、素戔嗚尊スサノオノミコトの代わりに伊邪那美と伊邪那岐夫婦が居るからじゃない?」


「どえぇぇ―――――――――――――――――――ぇっ!! めぐみ姐さん、今、なんて言いました? 伊邪那美と伊邪那岐夫婦って? いやいや、まさか。神の中の神、てっぺんの神様がこんな所に居るなんて、信じられませんよ……」 


「んじゃ、見てくれば?」


「ゴクリ……」


「まぁ、一応、新婚だからさぁ……お取り込み中って事も有るから、気を付けてね」


「お、お取り込み中……万が一そんな場面だったら、どうなってしまうのでしょう?」


「そうさなぁ。まぁ、場合にもよるけど……」


「その場合ってのが、どんな場合なのか……気になります」


「そりゃ、もう、クライマックスに『こんにちは』なんて言って、入って行った日にゃ、コレもんよ」


「コレもんって……何なんですか?」


「あのさぁ、お取り込み中に、あんたが爽やかな笑顔で入って行ったら、どーなる?」


「どーなるって……こんにちはって挨拶を返すのが常識では?」


「馬鹿ねぇ。その挨拶をする前に、入っていた物を出しちゃうでしょう?」


「あぁっ! そう云う事ですか……そんな、コンニチハは嫌ですよ」


「そりゃそうよ。本来、入っていた物と云うのはだな、入っている状態で出したい訳よ」


「エクスタシーの寸前で邪魔をしたら、すべてが台無し。その上、気不味いし、慌てて服を着る事よりも、その場の空気がハズいと……」


「女の恨みは怖いぜ……まっ、無礼打ちかなぁ……一瞬にして、切り刻まれるって事かなぁ……」


「怖い怖い、恐ろしくて近寄れませんよぉ……」



 ピースケは、恐れ戦きながらも、伊邪那岐と伊邪那美の姿を、ひと目で良いから、見てみたいと思っていた――













お読み頂き有難う御座います。


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