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愛とは信じる事。

 地上へ抜け出ると、そこは、神聖な空気と静寂に包まれた喜多美神社の参道だった――


「いやぁ、多くの犠牲を払ったカァ……それでも無事に、使命を果たしたカァ」


「我が家に帰った感じだアンッ!」


「何事も無かった様な静寂が、ホッとするウンッ!」


 一息吐くウッチャンを尻目に、アッチャンは、気を失っているめぐみを起こした――


「めぐみちゃん? めぐみちゃん、起きてっ!」 


「うっ……うぅん、あれ? 此処は……勝手知ったる私の職場? あぁっ! 生きてるよ???」


「喜多美神社に、戻ったんだアンッ!」


「あら? 皆、無事だったんだね……良かったぁ」


「ひとりだけ、無事じゃないアンッ! 早く、伊邪那岐さんを助けてアンッ!」


 伊邪那岐は生気を無くし、失血死寸前だった――


「あぁっ! そうだった。今直ぐ……あっ! ちょっと、待っててっ!」


 めぐみは、社務所に向かい、ロッカー・ルームのクロノ・ウォッチを腕に嵌めると、大急ぎで戻って来た――


「これで、地上の時間を戻せば大丈夫よ。ポチっとな」


 地上時間を戻すと、琴切れる寸前の伊邪那岐は意識が戻り、何事も無かった様に元気になっていた――


「おやおや。すっかり、元通りですよ?」


「伊邪那岐さん、良かったですね」


 伊邪那岐は、大きく伸びをした――


「うーん、良く寝た気分ですよ。気力体力、充実して、まるで……楽しい夢でも見ていた様な心持ですねぇ」


「それは、良かったです」


「お嬢さん、助けてくれて有難う」


「何を言ってるんですか、最初に助けてくれたのは伊邪那岐さんですよ。これで恩返しが出来ましたね。うふっ」


 めぐみは、伊邪那美の後ろに回ると、髪の中に隠した指輪を取り出した――


「何時の間に? 私の髪の中に隠していたとは……」


「すり替えた時に、サッと隠したんですよ」


 めぐみは、その指輪を伊邪那岐に渡した――


「夢の続きは……これからですよ」


「これは……」


「この指輪が相応しいのは、私じゃないでしょう? うふふふ」


「お嬢さん……」


 伊邪那岐は伊邪那美の手を取ると、そっと優しく指輪を嵌めた――


「あなた……」


「これでまた、夫婦に戻れたんだね……」


「えぇ……長いお別れでした」


 伊邪那美は、瞳一杯に涙を溜めて、伊邪那岐の胸に飛び込んだ――



 ‶ ガシッ! HOLD ME TIGHT! ″



「あーら、あらぁ、普通にイチャイチャしているだけなのに、後光が差しているよぉ……流石、伊邪那美と伊邪那岐は格が違うのねぇ。アッチャンもそう思うでしょう? あれ? アッチャン? ウッチャン? ねぇ、アッチャンてばぁ……」


 アッチャンとウッチャンは、シレっと定ポジに着いていた。そして、八咫烏は手水舎で水浴びをすると、喉を潤していた――


「ふぅ……疲れたぁ。そんじゃ、めぐみちゃん、またな。バイバイカァッ!」


 八咫烏はサッと飛び上がると、美しく羽ばたいて、東の空へ消えて行って――


「あぁ……行っちゃったぁ。はぁ――あ、私も帰ろうっと……」


「あいや、待たれいっ!」


「えっ?」


「この伊邪那美を、放っておいて帰ると申すか?」


「あいやぁ、そのぉ、私には私の生活と云う物が有りますので、これから先の事は、夫婦水入らずでどうぞ。うっひっひ」


「『うっひっひ』などと下品な笑い。地上に戻しておいて、後は知らぬと申すか? 何と云う無責任、何と云う非道」


「あらぁ? 無責任? 非道って? あのっ、言わせて頂きますけど……」


 伊邪那美は、めぐみの頬をつねった――


「痛たたたたたたぁ」


「馴れ馴れしい口を聞くで無いっ! 何故、申し上げますと言えぬのか、うぅん?」


「あのぉ、それでは申し上げますけど、地上に戻れたのは、誰のお陰だと思っているんですか?」


 めぐみは、えっへんと胸を張り、瞳を閉じて勝ち誇りのポーズを決めて、感謝の言葉を期待した。だが、伊邪那美は何時まで経っても声を掛けてくれなかった――


「おや?」


 めぐみが目を開けると、伊邪那美は潤んだ瞳で伊邪那岐を見つめていた――


「そっちかぁ――――いっ!」


「お嬢さん。私も冥府に潜入し、地上と言ったり来たりを繰り返していましたが、もう、冥府に入る事は出来ません。夫婦ふたりで地上に居る以上、住む所が必要です」


「まぁ。そうですよね……でも、それ位、おふたりの力なら、何とかなると思いますけど?」


 伊邪那美はめぐみに詰め寄った――


「何とかなる? 私はどうすれば良いのじゃ? どうしろと云うのじゃ」


「いやぁ、神力で御殿でも建てて、悠々自適に……」


「まぁ、嫌だっ! ちょっと、あなた、聞きましたか?」


 伊邪那美は驚いて伊邪那岐の顔を見た――


「お嬢さん。私たち夫婦は祀られている存在です。地上で勝手な事は出来ないのです」


「ねぇ、あなた。噂には聞いておりましたが、これが、創造主をぞんざいに扱う世代なんですねぇ……恐ろしいっ!」


 伊邪那美は、悲しそうな表情で伊邪那岐を見つめたかと思うと、めぐみを白い目で見て落胆と絶望を表現した。伊邪那美は女優だった――


「えぇっ! 世代間ギャップの話ではないと思いますけど……」


 めぐみは、自分の部屋には七海が泊まりに来るし、レミが居候で居るので、五人で雑魚寝をしようものなら、創造主のふたりがクレーマーになる事は、日の目を見るより明らかだと思った―――


「うーん、どうしよう……」


 その時、アッチャンが「アンッ!」と吠えて、頭を振って本殿を指し、ウッチャンがウインクをした――


「あぁっ! そうか、その手が有ったかっ!」


 めぐみは、にんまりと笑うと、地上のコンシェルジュに早変わりして、ふたりに優しく話し掛けた――


「伊邪那美さん、伊邪那岐さん。おふたりの新居にふさわしい場所が、御用意出来ましたので、ご案内致します。どうぞ此方へ」


 突然、態度の変わっためぐみに、ふたりは驚いたが、案内を拒否する事も出来ず、されるがままに付いて行く事にした――


「さぁ。さぁ。うっひっひ」


「あなた、あの下品な笑いは危険では?」


「言うがまま、されるがまま。それが信じる事です」




 めぐみは、拝殿に昇殿すると奥へ奥へ進んで、本殿に案内した――

 





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