地上へGO!
伊邪那美は、出産して死んだ後、黄泉の国の竈で煮炊きした物を食べる黄泉戸喫をした為、地上へ戻る事が出来なくなっていた。めぐみは、立花伊代に貰った飴ちゃんを食べさせれば、きっと、地上に戻れるに違いないと、一縷の望みに賭けた――
「おいっ! 動くなって、今、動いたら見つかっちゃう、カァ――ッ!」
「この飴ちゃんを食べさせるのよっ!」
「無茶だ、アンッ!」
「無理だ、ウンッ!」
「良いから。私に考えが有るの、付いて来てっ!」
めぐみは、八咫烏の死骸を掻き分けて、伊邪那美の前に出て行った――
「むむっ、お前は……先程の小娘」
「伊邪那美さん、伊邪那岐さんを死なせる訳には行かないの。さぁ、そこをどいてよっ!」
「この私に向かって、そんな口を聞くとは、身の程知らずも甚だしいのぅ……」
「身の程知らずは、あんたの方よっ!」
「何っ! 産みに産んだ、この私に向かって、あんたとは無礼千万っ!」
「ふんっ! 死んで尚、愛する人を忘れられず、黄泉の国まで命懸けで迎えに来た伊邪那岐さんの思いを踏み躙ったのはあんたでしょうっ! あんたなんか、あんたで沢山なのよっ!」
「猪口才な小娘が……死ねっ!」
伊邪那美が太刀に手を掛けると、めぐみは、宙返りをして間合いを離すと、首に掛けた婚約指輪のチェーンを引き千切った――
‶ ビシッ―――――ツ! ″
「伊邪那岐さんを食べても、この指輪が無ければ、再び契りは結べないわっ! それでも良いの?」
「何をっ……」
めぐみは、ボコボコと音を立てて吹き出す、地獄の業火に放り込もうとした――
「待てっ! 止めろっ……えぇいっ!」
突然、伊邪那美の首がろくろ首の様に伸びて、口が耳まで裂けると、めぐみの腕ごと噛み付いて指輪を飲み込もうとした。めぐみは、黄泉の国の支配者である伊邪那美に、太刀打ち出来る筈が無い事が分かっていたので、それを逆手に取って罠に嵌めたのだった――
「来たなっ!」
背を向けると、指輪と飴ちゃんをすり替えて、宙に投げた――
‶ ガブッ―――――――――ゥツ!! ″
「ん? これはっ! この、懐かしい味は……」
‶ シュッワァ――――――――――――――――ァ――――――アッ! ″
「ふっふっふっ。その飴ちゃんは、コーラ味よっ! コッカ・コーラ――――ァ、潤いの世界―――いっ!」
「うわぁ―――ぁ、何と云う事でしょう? 八匹の蛇も、憑りついていた八雷神も……全て消え去ったではないか……」
「フッフッフ。 これで、地上に戻れるよっ! 伊邪那美の完全復活っ! 黄泉戸喫返し―――っ!」
「うむ……俄かに信じ難い事ではあるが、これまでの腐臭が消えて、爽やかで甘い香りに包まれている……それに、鉛の様に重い身体が嘘のように軽い……これが、生きていると云う事ねっ!」
「話しは後にしてっ! 伊邪那美さんが復活しても、伊邪那岐さんが死んじゃったら何にもならないよ、早く地上へっ!」
「よぉ―――しっ! 参ろうぞっ!」
「さぁっ、皆っ! 出て来てっ! 地上へ戻るわよっ!」
アッチャンとウッチャンが駆けて来ると、八咫烏は仲間を招集した――
「おーい、皆っ! もう空を塞がなくて良いぜ。地上へ戻るから、全員で援護してくれ、カァ――――ッ!」
すると、空を埋め尽くす程の八咫烏が編隊を組んでドンドン集まって来た――
‶ シュッゴォ―――――――――――――――ォオッ!! ゴォ―――――――――――――――ォオッ!! ゴォ―――――――――――――――ォオッ!! ″
「それでは皆さん、確り摑まって下さいね。レッツ・ゴーだ、カァ―――アッ!」
‶ バサバサバサバサァ――――――――――――――――アッ! ″
八咫烏の編隊は、巨大な黒い塊となって冥府から飛び立った。しかし、死に絶えたと思った八雷神は、気を失っていただけだった。伊邪那美の支配力が消える事と同時に、憑りついていた八雷神は力を取り戻していた――
「うぅっ、酷い事をしやがるぜ……」
「火雷、伏雷、大丈夫か?」
「あぁ……頭がジンジンするが、大丈夫だ。それより、大雷、全員の無事を確認した方が良いんじゃないか?」
「ウッス。黒雷、折雷、若雷、土雷、鳴雷、全員集合せよっ!」
大雷の号令で全員が集まり、互いの無事を確認して安堵した――
「全く、酷ぇ事ぉ、しやがるぜっ! 許せねぇっ!」
「突然、あんな物を体内に取り込まれたら、死んじまうよっ!」
「おうっ! そんな事より、伊邪那美は何処へ行ったんだよ?」
「この、有り様を見れば分かるだろ――がっ! 黄泉の国の呪縛から解放された以上、目指すは地上っ!」
「絶対阻止っ!」
「断固粉砕っ!」
「追うぞっ!」
‶ うおぉ――――――――――――――ぉっ! ″
編隊を組んで飛んでいた八咫烏と伊邪那美様御一行。一羽の八咫烏が異変に気付いた――
「隊長っ! 六時二十五分に敵機襲来っ!」
「迎撃態勢に入れっ!」
「了解っ!」
八咫烏は八雷神にアタックしたが、モーレツな電気ショックに次々と死んで行った――
「あぁっ! 皆、頑張れっ! カァ――――アッ」
「ふんっ! 八咫烏如き、我ら八雷神の相手では無いっ! 食らえっ!」
大雷の稲妻に八咫烏が目を回して編隊が乱れると、黒雷、折雷のコンビネーション攻撃で撃墜されて行った――
「あわわわ、八咫烏ちゃん、このままじゃ、全滅だよ……伊邪那美さんも伊邪那岐さんも、死んじゃうよっ!」
「大丈夫。後、もう少しで地上に出られるカァ。犠牲を払ってでも、前に進むしかないんだ、カァッ!」
八雷神も、伊邪那美達を逃がしてなる物かと、猛追して攻撃の激しさを増して行った――
「冥府から脱出するなどと、戯けた事を考えおって……フッフッフ、止めを刺してやるぜっ! オクタゴン・サンダー・スプレ―――――――ッド!」
八雷神が八角形の隊形になると、稲妻が起こり、竜巻の様にどんどん大きくなって行った――
「アララ、こりゃぁ、もう、本当にダメかもしれないカァ……」
「そんな弱気で、どーすんのっ! 国ごと全部、消えて無くなっちゃうよっ!」
迫り来るオクタゴン・サンダー・スプレッドに、護衛の八咫烏は飲み込まれて行った。バリバリと音を立てて燃え落ちて行くその姿を見て、めぐみは覚悟を決めた――
お読み頂き有難う御座います。
気に入って頂けたなら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と
ブックマークも頂けると嬉しいです。
次回もお楽しみに。