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探偵ごっこは自転車に乗って。

 めぐみは気分転換に何時ものカフェに寄る事にした。


「いらっしゃいませ! スター・ブルックスへようこそ! 御注文をどうぞ!」


 傷ついた心に鬱陶しい笑顔が「キラッキラ」していた――


「この鬱陶しい笑顔以上に他人を傷つけてしまったのか……申し訳ない事をしてしまったのぅ。この鬱陶しい笑顔に救われている者がいる事を忘れてしまった、私の馬鹿!」


 カフェ・ラテのトールでお待ちのお客様――


「本当にすみませんでした。何時もありがとうございまーす」


「こちらこそ、毎度お買い上げ有難う御座います!」


 めぐみは一息ついてカフェを後にした――



 部屋に戻ると「日報」を書き始めたが、直ぐに手が止まった。天の国から離れて地上で生活する様になって、自分が人間の影響を受けている事に思いを巡らせた。


「めぐみさんがヤンキーみたいな言葉を使うなんて驚きだな、汚い言葉は直ぐに覚えるというのは本当だな。でも、神様が使うと面白いよ!」


 再会した津村にそう言われた事を思い出した―― 


 あの時は気にもしなかったのに。


 気を取り直して日報を書いて神官に送った。そして湯船に浸かりながら思った――


「地上に来てから人間ぽくなって来たのかなぁ……でも、神として生活する訳にも行かないしなぁ……『鬱』です!」


 めぐみは風呂から上がると、正しい作法でコーヒー牛乳を飲み干した。


「ふぅ―っ! ん旨いっ!」


 パソコンをチェックすると神官から返信が有った――


「喜多美神社の祈りは受け付けております。住所は東京都稲城市向陽台……名前は須藤玲子。ちなみにエラー・コードのチェックもお願い致します」


 めぐみは慌ててケータイを取り出し電源を入れた。すると「599Error」と画面に表示された。


「うわぁっ! 恋人がいない人のエラー・コードって何! どうすれば……」


すると「ピン・ポーン」と呼び鈴が鳴った――


「ピン・ポーン!」「ピン・ポーン!」「めぐみ姉ちゃん、息してる? 死んでんの?」


 めぐみは気を取り直してドアを開けた――


「息もしてるし、生きてるしっ!『ついで』に寄ってくれて、あんがとっ!」


「そう云う事言うんだぁ……じゃあ、総長から貰ったスーパー・ハード・プリンのお土産あげないよっ」


 めぐみは人間の口調を改めた――


「まあまあ、苦しゅうない,近う寄れ。ささっ、ほれ、」


 七海は部屋に入ると、お土産を冷蔵庫に入れて、お風呂に入った。


 風呂上がりにコーヒー牛乳を正しい作法で飲み干して「ん旨いっ! ごっつあんです!」と礼を言ったが、めぐみは返事をすると黙り込んでいた――


 七海は何時もと様子が違うので心配になり、めぐみが今日の出来事を話すと、すっかり立場が逆転して、七海が怒った――


「そんなの、分っかる訳ないじゃんっ! 相手がどう受け取るかなんてぇー、相手次第なんだからさぁ、気にしたって仕方ねぇーっつうの。そんなこと気にすんなって!」


「ありがとう七海ちゃん。でも、このままと云う訳にはいかない。明日、彼女に会いに行こうと思っているのよ。そうすればきっと、手掛かりが掴めると思うの」


 七海は冷蔵庫で良く冷えたスーパー・ハード・プリンをお盆に乗せて持ってきた――


「巫女さんって大変なんだねぇー、そんな事を気にしてたら商売なんて出来ないよっ、マジで。でもさぁ……手掛かりって何なん?」


「あははは……七海ちゃん、このプリン凄いよ! スプーンが突き刺さって立っているよ。うわぁ、濃厚ね、美味しい! 口福、口福!」


 その日は遅くなったので、七海の母親に連絡をして、めぐみの部屋に泊めた。パン屋の朝が早いのも好都合だった。



――翌日


 めぐみは七海と一緒に出掛けるため支度を整えた――


「めぐみお姉ちゃん、なんで、そんな変な格好してるの?」


 めぐみは愛菜未に貰ったトラック・スーツにフリーマーケットで買ったウインドブレーカーを羽織り、頭にニットキャップを被って、サングラスをしていた――


「身元がバレると困るんでねぇ、地上勤務は孤独なものさぁ……フッ」


「なに格好付けてんの? 変装して探偵ごっこなら、あっシも混ぜてよぉ」


「ダメ、ゼッタイ! 仕事が有るでしょう? ほらっ、サッサと行くよ!」


 めぐみは七海を駅前のパン屋まで送って行くと、強くペダルを踏んだ――


「目指すは稲城市! 須藤玲子殿! いざ行かん!」


 しかし、二〇キロ近い距離を走るのは容易では無かった――


 めぐみの電動アシスト自転車はスイスイ走ったが、早朝の空いた道路を車がビュンビュンと走っていてとても怖かった。


 途中、コンビニに寄って飲み物を買い、乾いた喉を潤した。すると、休憩をしていたサイクリスト達が「お先に」と言って車道へ出て行った――


「私はサイクリングしている訳じゃないのっ! これがマナーって奴か……? さて、私も出発しよう!」



 めぐみは川崎街道を西へ向かっていた。ペダルを力強く踏んでクランクを回し続けると、さっきのサイクリストたちが目に入り、スゥーッと軽やかに追い抜いた。


「お先に」


 サイクリストたちは狼狽した――


「電アシに、チギられた!」


「オレのロードレーサーがっ、二百万が負けるなんて……」


「女に負けて堪るかっ! 追い駆けるぞっ!」


「おうっ!」



 めぐみは信号で止まると、GPSで現在位置の確認をしていた。サイクリスト達が追い着きそうになると、信号が変わり、めぐみはロケット・スタートをして去って行った。


「あの女、化け物かっ!」


「幾ら電アシでも、あのギア比で何故……」


「足が超高速回転をしているぞ! だが、疲労が溜まっているはずだ! 天神山通りで仕掛けるぞっ!」


「おうっ!」


めぐみは川崎街道から天神山通りに入ると、のんびりと坂を上りながら考えていた――


「突然、現れて『昨日はすみませんでした』とも言えないし、唐突な自己紹介も変だし……当たって砕けるしかないなぁ……よし、行くぞ!」


 再び、めぐみが強くペダルを踏むと、後ろに迫っていたサイクリスト達は、仕掛けたと思って猛追したが、一気に引き離されて潰れてしまった――





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