越権行為で謁見は故意?
何よりも驚いたのは、三貴神の存在が消えてしまうと云う事だった――
「そんな事になったら、大変だよ。神話が書き換えられちゃう……」
「アンアン、冥府に行ってみるアンっ!」
「ウンウン、くたばらない男をやっつけるウンっ!」
「そっか! 伊邪那美は怖いけど、死神さんを襲う刺客を退治する事なら出来るかもしれないって事ね……よぉ――しっ! 行ってみようっ!」
アッチャンとウッチャンが、ひょいと参道へ飛び降りると、二の鳥居まで走って行った。めぐみは、その鳥居の真下に立って、拝殿を向いて手を合わせ『冥府へ、いざ参らんっ!』と声を発すると、敷石が波打ち、ぽっかりと冥府への入口が開いた――
「うわぁっ……相変わらず、気味が悪いわねぇ……」
「ダンジョン、ダンジョン、ダンジョンジョンっ、アンッ!」
「アッチャン。そんな歌を口ずさんでも、不気味さは変わらないわよ?」
「アッチャンは、ちょっとビビってるウンッ!」
―― 冥府 一丁目 一番地
「パスポートは無いけど、アッチャン、ウッチャン。ヨロシクねっ!」
「任せるアンッ!」
「余裕だウンッ!」
アッチャンとウッチャンが吠えると、冥府の番人達は悲鳴を上げて逃げて行った――
「さてと、侵入したのは良いけど、どこに居るんだろうね?」
「きっと、伊邪那美の所だアンッ!」
「一番奥の御殿だウンッ!」
「あー、そう云う事? ヤバくない? やっぱ、帰ろっと」
「駄目だ、アンッ!」
「だって、その辺に居るなら良いけど、御殿なんかに行って、見つかったらどうなるか分からないじゃないの?」
「もう戻れない、ウンッ!」
「えぇっ? 戻れないって……アッチャン、ウッチャン、私を騙したのね?」
「騙してない、アンッ!」
「結局、逃げられない、ウンッ!」
「はぁ……逃げられなくしておいて、良く言うわねぇ……もうっ、こうなったら、行ってやるわよっ!」
「そう来なくっちゃ、アンッ!」
「考えるより、まず行動、ウンッ!」
―― 伊邪那美御殿
「うわぁっ! ビックリ。てっきり、ゴシックのおどろおどろしい建物を想像しちゃったけど、皇居みたいで綺麗なのね」
「お堀の下は血の池地獄、アンッ!」
「あっちのお池は、硫酸、ウンッ!」
「怖っ! で?」
「あの橋を渡って中へ入る、アンッ!」
「ちょっと待ってください。あのね、あの太鼓橋、どう見ても怪しいんですけど?」
「大丈夫だと……思うウン」
「急に消極的にならないでよっ! もうっ、ちゃんと調べてよ、渡っている最中に落ちたらアウトでしょう?」
「…………」
「ノープランなのね、分かったわよっ!」
目を凝らして良く見ると、太鼓橋を渡った先の門にも近衛兵の姿は無かった――
「これほどの御殿にしては警備が手薄に感じる。と云う事は、何か仕掛けが有るに決まっているわ」
「入っても殺される事が分かっているから、此処へは誰も入らない、アンッ!」
「侵入者が存在しないから、警備もしてない、ウンッ!」
「じゃぁ、先に行ってよ」
「…………」
「何よっ、頼りないわねぇ。私の立場無いじゃないの……あっ!」
めぐみは、伊代ちゃんに貰った飴を懐から取り出した――
「今回は、パッション・フルーツにしようっと」
伊代ちゃんに貰った飴を口に頬張ると、とてつもない力が湧いて来た――
「おぉっ! 爽やかな柑橘系のフレーバーが、やる気にさせるわねっ!」
「アンアンッ!」
「ウンウンッ!」
めぐみはアッチャンとウッチャンを両脇に抱えると、太鼓橋を飛び超えた――
‶ トオゥ――――――――――ッ! シュタッ! ″
「フッ。やってやったわ『この、はし渡るべからず』なんて、一休さんの頓智には引っ掛からない私よ」
「格好良い。アンッ!」
「決まった、ウンッ!」
振り返ると、其処に橋は無かった――
「もう引き返せない、さぁ、行くよっ!」
「そっちじゃない、アンッ!」
「あっちの本丸御殿だ、ウンッ!」
御殿へ向かうと、その周囲には大勢の鬼やモンスターが居た。アッチャンとウッチャンは植え込みの陰に身を隠し、めぐみは野次馬の中に入って行った――
「あの? 何か有ったんですか?」
「何って、お前さん、知らねぇのかい? べらぼーめ。血の池地獄で水遊び、業火に焼かれて死ぬかと思えば、豪華なキャンプ・ファイヤーだって大喜び、死んでも死んでもクタバラナイ野郎が伊邪那美様に謁見するってんで、そりゃぁ、もう、大騒ぎよぉ」
「馬鹿だなテメーは、その野郎が死んでもクタバラナイなんてぇ事ぁ、どーでも良いんだよ。野郎が鬼に取引を持ち掛けたってぇのが大問題だってんだっ!」
「鬼さん達。取引って何?」
「おう、なんでもよぉ、娑婆の地獄ってぇのは、そりゃあもう、えげつないモンだからってんで、此処の地獄じゃ物足りないらしいんだなぁ。んで、もっぺん、娑婆で地獄を味わいたいってんでねぇ。何でも、くれてやるから娑婆に戻してくれって、言ったらしいんだなぁ」
「あら? 大変。まるで『饅頭怖い』的な?」
「まぁ、いっぺん話だけでも、してみようじゃないかってんでねぇ、伊邪那美様に報告したって訳よ」
「それで、どーなったんですか?」
「どーもこーも無い、見ての通りよ。伊邪那美様は『良しっ! 気に入った。その者を此処へ』となって、今から謁見ってぇ事よ」
暫くすると、武器を持った鬼達に連れられて男がやって来た。拘束こそされていなかったが、鬼に取り囲まれていて、観念した様子だった――
「えぇいっ! 下がれ下がれっ! 野次馬共っ!」
「見世物ではない、下がれっ!」
連行してきた鬼が棍棒で地面を突くと、その反動で見物に来ていた鬼達は飛び上がった――
「ひぃいっ! あっしらは、伊邪那美様を、ひと目見ようと思っただけでして……」
「よかろう。但し、その敷石より前には出るなっ! 一歩でも前に出た者は容赦なく殺す。分かったな」
‶ はは――――ぁっ! ″
男は正座をさせられ、鬼が太鼓を叩いて合図を送ると、御殿の奥から女中が現れ、いよいよ謁見となった――
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