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美味しいだけじゃ、ダメですか?

 生気を失い、青白い顔をした天海徹の左半身は血だらけだった――


「レミさん、ズボンもパンツも靴下まで血でびっしょり。一体、何が有ったんですか?」


「私の彼を殺した連中に襲われたのよ。彼が助けてくれたんだけど、その時に撃たれたの」


「どえっ! こっ、殺した連中? 撃たれた? どーなってんの?」


「うぅっ……」


「あっ、確りしてっ! レミさん、意識が朦朧としている、このままじゃ死んじゃうよっ!」


「お願い、助けて」


「撃たれたのは何時ですか?」


「今から一時間程前よ」


 めぐみは、調理の前に外して引き出しに仕舞っておいたクロノ・ウォッチを取り出して、時間を戻した――


「ポチっとな」


 すると、天海徹の傷は消え元通りの身体になった――


「はぁ……助かった」


「掠り傷だなんて言っていたクセに、死ぬ寸前だったじゃない」


「まぁ、死なない限り、掠り傷ですからねぇ」


「フゥ。命拾いをしたな……鯉乃めぐみ、恩に着るぜ」


「恩に着たのなら、ついでにお伺いしますけど? レミさんの彼氏を殺した連中とか、物騒な話ですよね。ちゃんと話して貰えますか?」


 天海徹は、これまでの経緯を説明し、伊邪那岐イザナギ伊邪那美イザナミの紛争が激化している事、天照大御神アマテラスオオミカミ偽物フェイクだと打ち明けた――


「ふーん。死神さんが伊邪那岐イザナギだったとはねぇ。それで、伊邪那美イザナミが地上に放った刺客を退治していたと云う事なのね……でも、そんなの直ぐに、やっつけられそうだけど?」


「あぁ。そう思うのは無理もない。だが、伊邪那美イザナミは決して自分の手を汚したりはしない、伊邪那岐イザナギにバレるからな。巧妙に死に追いやっていくステルス作戦だ。気が付いた時には貧困化して抵抗すら出来なくなり、依存させて、自らの命を差し出すように仕向けている。人間を奴隷化し家畜化しているんだ。そして、証拠を残さない伊邪那美イザナミのステルス作戦に対応して、伊邪那岐イザナギは死神となって刺客を冥府に連行して始末していると云う事だ」


「面倒臭っ! お互い正面切ってやり合えば直ぐに済むのにっ!」


「フッ。残念ながら、そんな単純ではないんだよ。天国主大神アメクニヌシノオオカミが、お前を地上に派遣したのも、その任務のためだ」


「何だか、気が重くなって来たよ……」


「あの日、お前が死者と生者の縁結びをするかどうかが最終試験だった。そして、お前は合格した。今更、後には引けないぜ」


「後には引けないって、全然、前にも進んでいないんですけど……」


「フッフッフ。それで良いんだよ。お前は何も考える必要は無い。そのまま流れるままにしていれば良い。では、オレは、これで失礼する。またな」


 ‶ ガチャ、キイ――――ッ、バタンッ! ″


「あら、行っちゃったよ……レミさんにお礼も言わないで、何なのアイツ『恩に着るぜ』なんて……格好付けちゃって、感じ悪っ!」


「私の事は良いのよ。気にしないで」


「はぁ。お腹空いたぁ。あっ! いけねっ、チャーハン冷めちゃったじゃんよぉ……」


「ごめんね。そう言えば、七海ちゃんは?」


「あ、駿さんとガチ中華デートの真っ最中です」


「そう。私も何だかお腹が空いたわ。私の分は有る?」


「えっ? まぁ、材料は有りますから……」


「じゃぁ、作って。一緒に食べましょう」


「あ、はい……」


「なんだか汗を掻いちゃったから、その前に、お風呂にするわ。ヨロシクね」


 めぐみは、納得がいかなかったが、とりあえず調理を再開した――


「あら? ガッツリ男飯ねぇ」


「食べきれなければ、私が食べますから大丈夫ですよ」


 レミは、ボリューム満点な家中華に恐る恐る箸を付けた――


「うんっ! パーコー、イケてるっ! 山椒塩が効いているわね。このエビ・チャーハンも、ふっくらしていて理想的だわ。水餃子もぷるぷるしていて良い感じ」


「エヘヘ。そうでしょう? 七海ちゃんは料理上手なんですよ」


 レミは、七海を褒めるめぐみを、ぼんやりと眺めていた――


「レミさん? どうかしましたか?」


「あっ、いえっ、何でもないわ……」


「無理して食べなくて良いですよ。私が食べますから」


 レミは、めぐみに守られている事、そして、何よりもめぐみが時読命トキヨミノミコトになる事が信じられずにいた――



 ‶ ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ″



「あっ! 噂をすれば、七海ちゃんが帰って来た」


「めぐみお姉ちゃん、ただいま」


「お帰り」


「レミさんも、帰ってたんだ? 丁度良かった。お土産だお」


「何よ?」


「北京ダックと点心に決まってんじゃんよ――ぉ。旨いぜ」


「あぁ……また後でね」


「何でよっ!」


「ゴメン、ガチ中華に対抗して家中華だったの。しかも、今食べ終わったの。だから……」


「だから……って、何にしたん?」


 七海は少し慌てた表情で、冷蔵庫の中をチェックをした――


「えっ? 何って、豚肉をパーコーにしてぇ、海老を使ってエビ・チャーハンにしてぇ、冷凍餃子を水餃子にしたの。美味しかったぁ。七海ちゃん、あんがと」


「ちょ、何で、ばっか、もうっ! 肩ロースは御殿場の金華豚だっちゅーのっ!」


「だって、下味も付いていたし丁度良かったよ? ねぇ、レミさん」


「えぇ。抜群だったわ」


「チッ、下味じゃねぇ――っつ―のっ! あんだお、金華ハムにしてスープにしようと思っていたのにぃ! しかもエビも冷凍じゃないヤツ使ってんじゃんよぉ――っ!」


「だって……」


「あのね、めぐみお姉ちゃん。冷凍庫に有るのがチャーハン用の芝エビなの、あのエビはエビチリ用だおっ! ったくセンスねぇなぁ。無駄に贅沢食いしやがって!」


「何よっ! 自分ばっか、デートで美味し物食べて、イチャイチャしやがって『冷蔵庫の物食べて』って言うから、食べただけでしょう」


「あ。だから、お土産、買って来たじゃんよぉっ!」


「エビチリなんかよりエビ・チャーハンの方が美味しいんだもんねぇ――だっ!」 


「ちょっと、ふたりとも落ち着きなさい。めぐみさん、七海ちゃんは私達のためにお土産を買って来てくれたの。素直に感謝すれば良いでしょう? 七海ちゃんもめぐみさんが何を作ろうと好きにさせれば良いじゃない? 胃袋に入ればエビチリもチャーハンも同じよ」



 レミは、時間を戻せば全てが解決するのに、時間を戻そうとしないめぐみを不思議に思った。だが、直ぐに天海徹と自分だけの時間を戻したと云う事に気が付いた――







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