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第370話 Misty in blue.

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次回もお楽しみに。

 No Harassment in Tokyoは壮大なエンディングで幕を下ろした。めぐみは、喜多美神社に戻ると、クロノ・ウォッチで時間を戻した――


「見なかった事にしようっと」


「あっ、めぐみ姐さん。時間を戻さなくたって、良いじゃないですか」


「もう、分ったから良いの。結果は同じなんだからさ」


「でも、西野木誠は凄かったですね。あんな風に人間の心を開放するなんで、思ってもみませんでしたよ」


「下品過ぎるよ。見てらんないよ」


「いやぁ、確かに荒療治とも言えますけど、でも、同じ人間同士。胸襟を開いて、裸の付き合いって良い物ですよね」


「股を開いて、裸の突き合いだったろ――がっ! ドスケベっ!」


「良いじゃないですかぁ。そんなに、怒る事では有りませんよぉ……皆、楽しそうで、幸せそうで、羨ましかったですよ」


「あんたも、楽しそうねぇ」


「そりゃぁ、僕は童貞の思考力、理解力を超えたんですからハッピーですよ。昨日までの自分とは違う自分に出会えた喜びは何物にも代えられません。そして、ヒキニートは思い込みの中で理想だけがどんどん高くなってしまっていた自分に気付き、拗らせ女子は、犬や猫なら、どんな犬や猫でも可愛くって、目を細めて無条件で愛するのに、人間の男だけは理由を付けて選別していた事に気付かされた。覚醒したんですよ」


「あっそ。私は一生懸命、恋のキューピッドをやって来たと云うのに、あんな風にいきなり合体じゃあ、もうね。立場無いよ。あんな神力、私には無いからさぁ……」


「めぐみ姐さん。何を言っているんですか? 西野木誠と萌絵ちゃん、珠美に、駿さんに、和樹兄貴。そして夕子と弥生も、皆、地上に降りて来たのは、めぐみ姐さんの縁結びの力によるものですよ。これ以上の神力は有りませんよっ!」


「あら?」


「……何ですか?」


「ピースケちゃん、慰めてくれるなんて、あんた大人になったね。成長したんだね……ひと皮剥けて、大きくなったんだねぇ」


「慰めて、成長? ひと皮剥けて、大きくなっただなんて……恥ずかしいっ! いつの間に……見たんですか?」


「見てねぇ――よっ!」


「でも、みんなでサライを合唱して。夕日に向かって、走って行くあの感じ……青春って、傷つく事ばかりじゃなかったんですね」


 めぐみは、ピースケに呆れつつも、自分の神力を改めて意識していた。そして、レミと天海徹を引き寄せた意味を考えていた――




 ‶ カラン、コロン、カララララ――――ンッ! ″



「いらしゃいませ」


「こんにちは」


「お好きな席にどうぞ」


「はい」


 レミは、天海徹と出会った喫茶店に再び訪れていた。店内は、それほど混んではいなかったが、厨房からの心地よい音と香りが店内に充満していた。ホールは高齢の女性がひとりで注文、提供、会計の対応をしていたため、忙しそうだった。そして、レミは徹のアドバイス通り、ドライカレーを注文した――


「ご注文をどうぞ」


「ドライカレーをスープとサラダ付きでお願いします」


「お飲み物は?」


「コーヒーで」


「正解です。アフターでよろしいですね」


「はい、そうして下さい」


「ちょっと、お時間頂きますが、よろしいですか?」


「えぇ。マダムも忙しくて大変ですね」


「マダムだなんて、只の年寄りですよぉ、ほほほ。今日は、こんな時間にお食事のお客様が多くて、ビックリなんですよ」


 レミは注文をすると店内を見回した――


「この間は、全く気が付かなかったけど……高級でもない昭和レトロとも言えない、不思議な雰囲気の有るお店だわ……厨房にオーナーが居るのかしら?」


 レミは、席を立ち、探検をする事にした。厨房を覗くと、サイド・メニューを作るマダムとフライパンを振り、オーブンの火加減を操る中年男性の姿が見えた――


「あの人は、従業員ではなさそうね……息子さんかしら? 安い材料を使っていると言っても、大型の六口コンロはダブル・オーブン……サラマンダーにチーズ専用の物まであるわ……シノワに銅鍋とフライパン、フードプロセッサー、リーチ・イン・ケースの中も外もピカピカに拭きあげられている……厨房設備は本格的ね。仕事は一切手を抜かないプロの戦場だわ」


 すると、マダムが覗き込むレミに気が付いた――


「あら、お客様、お手洗いなら突き当りです」


「あぁ、どうもありがとう」


 レミは言われるまま、お手洗いに向かった。その時に通路の向かいに部屋が有る事に気付いた。アール・ヌーボーでもデコでも無く、ミッドセンチュリー・モダンでも無い店内の装飾は明らかに日本の大工の作った物だった――


「額縁仕上げの窓枠に型押しのガラスには切子の模様、所々ちぐはぐな感じさえするのに、不思議な一体感が有って、調和しているわ……」


 レミが真鍮製の個室のドアハンドルに手を掛けると、マダムが背中越しに声を掛けた――


「説明不足でごめんなさいね、お手洗いは左側です」


「あぁ、すみません」


 レミは、お手洗いに行ったフリをして席に戻った。暫くすると、お待ちかねのドライカレーが提供された。八角形のお皿はレースの飾りが有り、カレー・ソースを敷いた真ん中に、セルクルで丸く型抜きしたライスとドライカレーが鎮座していた――


「まぁ、想像していたのとは全く違う、可愛い盛り付けだわ……ふぅ――――んっ、何て、良い香りかしら……」


 レミは、ドライカレーを、そっとスプーンで崩して口中へ運んだ――


「うんっ! これは……スパイシーでインパクトが有るけど優しい味だわ……そして後から辛味が二次曲線的に立ち上がって来る……」


 そして、ライスと一緒に口中に運ぶと、更に驚いた――


「うんっ! 美味しい……これは、色味からサフラン・ライスだと思っていたけど違うわ。バター・ライスの様な……まろやかな旨味と甘みを感じる」


 そして、興奮冷めやらぬまま、カレー・ソースを纏わせて口中に運んだ――


「あぁっ! これは、このソースは塩味を殆ど感じない、ターメリックとスパイスのコクだけ……ドライカレーとライスとソースのトリオのジャムセッション……そして、お客自身の手で、そのボリュームを調整する事でアドリブ・プレイが出来るのねっ!」

 


 レミは、徹の言葉の意味とドライカレーを同時に噛み締めていた。そして、一見、どこの街にでも有りそうな、古びた平凡な喫茶店の名に思いを馳せていた――









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