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無神論者の神頼み。


 めぐみは津村と再会をして、結婚の報告と結婚式と披露宴に招待をされ「吉田さんも曾孫と玄孫を連れて出席する予定だよ」と聞いて嬉しくなった。


 コインランドリーも新装開店で大賑わいで、チラシやクーポンを配るために葉子が手伝いに来て、ふたりとも楽しそうに仕事をしていた。




 街には平和が戻っていた――


 美織と耕太の仲は言うまでも無いが、七海は栞と仲良くなって、一緒に遊んだり、下の妹のつかさと詩音、弟の崇介の世話をする様になると、宿題を手伝ったり、勉強も教える様になっていた。



 そんなある日の午後だった――


 喜多美神社にめぐみが待ち望んだ、恋愛成就の祈願にひとりの女性が訪れ、参拝を済ませると授与所に来た。


「この御守りを下さい」


 その女性は恋愛成就のお守りを買った――


 典子と紗耶香が目で合図を送ると、めぐみは心の中で叫んだ――


「遂に、この時が来た! 時代が私に追い着いたのだ!」


 めぐみは嬉しくて、にっこりと笑ってお辞儀をすると、意に反して女性は怒った――


「何よっ! 馬鹿にしないでよっ! ふんっ!」


 そう言って、走り去って行った――


 典子と紗耶香は放心状態のめぐみを気遣って授与所から飛び出した。


「今の何! 何なのよ、あの人」


「めぐみさぁーん、やらかしましたねぇ、不味いよぉ、あれはぁ」


 めぐみは気を取り直した――


「私が何をやらかしたって? えっ、意味がわからないよ! どうして?」


 神職が出て来て言った――


「めぐみさん。女性はデリケートなのですよ。特に……恋愛関係は……私の口から、これ以上は……」


「笑顔でお辞儀しただけですよっ! 何がいけないの? 何で私が怒られるの?」



 紗耶香と神職の者に続き、典子も悟った。そして、声を揃えて言った――


「アラサー女子に、若くて神々しく美しいめぐみさんが『にっこり』と笑ったのが悪かったのですよ!」


「…………ん?」


 もう一度、声を揃えて言った――


「ブスだったろうがっ! あの人! 言わせんなっ!」


「ブスって何? だったら何っ! アラサーって何なの? 私、バカになんかして無いのにぃー!」


 神職がガッチリと説明をした――


「ですから『いい歳をしたブスがっ! 恋愛成就の神頼みとか、笑わせんなよっ!』 って感じたわけですよ。はい」


「めぐみさん、この人、散々やらかしているからね、普通にしていると『優しくない、もっと寄り添った対応をして欲しい』と苦情が有って、笑顔で親切にしたら『どうせ無理だろうと笑われた、バカにされた』と批判が殺到してトラウマになっているのよ、ふふっ」


 めぐみは頭を抱えた――


「ブスとか、アラサーとか、虎馬トラウマとか、意味が分からん、えぇぃっ! 誰も味方は居ないのかっ! もう知らないからっ! ふんっ!」




 帝都中央研究所――


 ひとりの女性がイライラしていた――


「須藤玲子、只今、戻りました!」


 所長に研究の進捗状況とデータの報告を済ませると、所属する研究室に戻った――


 研究室の人達が顔色を見て、不安になった――


「おかえりなさいませ室長。あの……結果の方が悪くても、まだ次が有りますし……」


 玲子はいかめしい表情から、何時もの柔和な表情に戻った――


「みなさん、良い結果がでました。さらに研究を進めて参りますので、今後ともよろしくお願い致します」


 研究室は歓喜に沸いた――


「やった! 流石、室長。これで開発が進めば製品化に又、一歩近付きましたね!」


「必ず良い結果が出ると、信じてやって来た甲斐が有ったね」


「遂に製品化が目前となったかっ!」


「気が早いですね、皆さんのお陰で此処まで漕ぎ着ける事が出来ました。でも、まだまだ、研究が必要です」


 玲子は研究中の微細物のデータを貰いに大学病院に赴くと、予想以上の良い結果に拍子抜けだった。一日掛かりで予定を組んでいたのが、午前中で終わったため、昼休みを利用して、途中で神社に寄って戻った。だが、神頼みをした事を深く後悔していた。


「ああっ、私とした事が、何で今日に限って、神頼みなんてしようと思ったのだろう? 馬鹿みたい……こんな私を好きになってくれる人なんて居るはずないのに! 無神論者で研究一筋の私が神頼みなんてするから罰が当たったのね、科学は絶対に裏切らない、微生物の研究こそ天命」


 玲子は矛盾していた――

 



 めぐみは参道の清掃をしながら、反省をしていた――


「とにかく、あの人に嫌な思いをさせてしまったのだ……しかし、謝罪するにも、もう二度と来ないかもしれないなぁ……何とかしなければならぬなぁ……『鬱』です」


「めぐみ姉ちゃーんっ!」


「えぇっ! もう、そんな時間かよーっ!」


 七海は焼き立てのパンをめぐみに差し出した――


「新作だよ! 四種のチーズとパンチェッタが入っているのとぉ、胡桃とキャラメルのソースが入ったデニッシュ風のやつ」


「うわぁ、凄く美味しそうだね。ありがとう! でも……これっぽっちなの? そっちの大きい袋は私のじゃないの……」


「大きい方は栞ちゃん家のだよぉ、めぐみ姉ちゃん、食いしん坊だなぁっ! でもねぇ、あっシも腕を上げたっつーの? 最近、良く売れるんだ。師匠も『若い人が買いに来るようになった』って喜んでんのっ。ふふっ、お母ちゃんも元気だし兄弟が一杯出来て毎日が充実してるっつー感じだぉ、うふっ」


 めぐみは目を潤ませて「良かった、良かった」と言って、七海の頭を撫でた。七海も照れ臭そうにしていたが本当に嬉しかった。


「じゃあ、あっシは栞ちゃん家に行くよっ! ついでに、めぐみお姉ちゃんの所にも行けたら行くからねっ!」


 めぐみは七海の後ろ姿を見送っていた――


「ついに!『ついで』になった私! ……『鬱』です」


 そして夕日に溶けて行った――






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