第369話 人攫いのサライ。
イントロが流れ、ステージ上の未菜が後方に水平になるほどのけぞり、歌が始まった。すると、会場の空気は一変した――
「パねぇっ! ヤバない?」
「歌、上手いなぁ……美声」
「おいおい、あれ、完全プロだろ?」
‶ 愛しただけで私 壊れてゆく のけぞる胸元 口づけられTango Noi――r ”
間奏に入ると、西野木誠は神力を発揮した――
‶ スッポンっ! ″
突然、ステージ上の未菜がスッポンポンになり、ヒキニート達は絶叫した――
‶ オォ――――――――――ッ! ウォ――――――――――ォッ! ″
「めぐみ姐さん、大変ですっ!」
「大変じゃなくて、変態でしょう?」
「緊急事態ですっ!」
「えぇっ!?」
「見て下さいっ! 顔はお笑い芸人なのに、身体はトップ・グラドル並みですよっ! いやっ、それ以上ですっ!」
「名探偵コナンかよっ!」
めぐみは、緊急事態の意味が解らなかった。だが、ピースケの指摘通り、ヒキニート達の股間は緊急事態が勃発していた――
「未菜ちゃん有難うっ! さぁ、審査員の皆様、如何でしょ―――ぉかっ!?」
‶ 上がった、上がったぁ―――――っ! ″
アシスタントの巫女twin'zが、定規と分度器で測定し、上位七名を選抜し、別室に案内した――
「ちょっと何? 8P? このド変態野郎がっ! 行って、ぶん殴ってやるっ!」
「待って、めぐみ姐さん、慌てないで、成り行きを見守りましょうよ」
「成り行きって、最後のひとりまで見届ける分け?」
「勿論ですよ」
「はぁ?」
「めぐみ姐さん、謎は解けましたっ! 顔なんて表出する面積のほんの僅かです。にも拘らず、僕達、童貞は顔で選んでいたんです。しかも、お笑い芸人みたいな顔とナイス・バディを脳内で一致させる事すら出来なかったんですっ!」
「単に、見る目が無いだけでしょう」
「あのお笑い芸人の様な顔が、何だかとってもエロティックで神秘的に見えて来たんですよっ! 童貞の理解力の限界を悟ったんですっ!」
「アホかっ!」
「ヒキニート達も、入れ物、寄せパイに騙されていたんですよ。そして、整形した顔とボディを持て囃す時代の終わりですっ!『天然物に原点回帰すべし』と云う、西野木誠からの強烈なボディー・ブローですよっ!」
「ちょっと……何言っているのか、分からない」
西野木誠の司会進行で、会場からヒキニート達はどんどん居なくなっていった。だが、これだけやっても、まだ、居残り組が居た――
「はぁ――いっ! 会場に残った皆様に朗報ですっ!」
「審美眼の高い皆様にはぁ、これからぁ、仮装大賞に出場する権利が与えられまぁ――すっ」
「仮装大賞?」
「出場って、まさか……」
「俺、嫌だよっ! 夕子ちゃんや弥生ちゃんみたいな女子じゃなきゃ、嫌だよっ! 帰るっ!」
脱走しようとするヒキニートの前に、西野木誠が立ちはだかった――
「フッフッフッフ。残念だが、そうは行かないんだよっ! 上から目線で人を選別しておいて、理想通りの女の子じゃなければ要らないなんてぇのは、ただの甘えだっ! お前達は、これから審査されるのだ。覚悟せいっ!」
「無理だよ、審査なんて不合格に決まっているじゃんっ! 鏡を見れば分かるよっ!」
「フッ、夕子と弥生じゃなきゃ嫌だなどと我が儘を言っても、本当は傷付きたくないだけだ。『鏡を見ろよ』と言われる前に保険掛けてんじゃねぇっ! クズ共っ!」
「だって、無理なものは無理ですよぉ……」
「夢や理想を語っても、空しいだけだぁ……そうやって、現実から逃げ続ける人生で良いのかっ!」
西野木誠は、イケメンの仮面を渡した――
「こ、コレはっ!」
「この仮面を被れば、勇気100倍だっ! 逃亡者の様な、卑屈な生き方を止める勇気を持つのだっ!」
ヒキニート達は沈黙した。そして、顔を上げると、一人、また一人と、仮面を手にして行った――
「俺、やります……」
「俺もっ!」
「オレもっ!」
「僕もっ!」
「おいらも、やるよ。皆っ! 頑張ろうぜっ!」
‶ オォ――――――――――ッ! ウォ――――――――――ォッ! ″
「ピースケちゃん、熱血先生みたいになってるよ」
「これが男の、熱い血潮、青春なんですよっ!」
「はぁ……?」
暫くすると、仮装大賞が始まった。イケメンの仮面を被ったフルチンのヒキニートが入場すると、会場に悲鳴が響き渡った――
‶ キャァ――――――――――ァッ! ヒィ――――――――――ッ! ″
「さあ、居残り組の皆さぁ――んっ! いよいよですよっ!」
「心準備は良いですかぁ――――っ!」
‶ オォ―――――――ウッ! ″
「さぁ、それではトップ・バッターは『里の春』張り切って、イってみようっ!」
めぐみは、ステージ上で寝そべるフルチン・ヒキニートを見るや、嫌な予感がした――
「これって、絶対、下ネタでしょう?」
「見たまんまですよっ!」
お百姓さんが、田んぼに出ると、春の日差しにほっこりしていた。すると――
「暖かくなったなぁ。あっ! つくしんぼうだぁ。キノコも有るよ」
‶ ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、6、7、8 ″
「あー、やっぱり下品ね」
「めぐみ姐さん、あと一息ですよ……」
すると――
「あっ! 松茸だっ!」
‶ ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、9、10、11、12、13! ″
「おめでとうっ! 合格―――――っ!」
‶ やったぁ――――――っ! オォ――――――――――ッ! ウォ――――――――――ォッ! ″
歓喜に湧くヒキニートと拗らせ女子に西野木誠は言い放った――
「さぁ、ヒキニート共っ、仮面を取るのだっ! 拗らせ女子も心を開いて股を開く時が来たのだっ! そして、オレも欽ちゃんを止めよう」
‶ オォ――――――――――ッ! ウォ――――――――――ォッ! ″
「傷つくのを恐れ、防御するが余り、何時しか自分で自分に手枷、足枷を嵌め、仮面を被り、殻に閉じ籠って生きる様になった……そして今、自分の仮面と服を脱ぎ捨て、殻を打ち破り、本当の自分で、体当たりで挑んだ君達を……オレは誇りに思う。 良くやったっ! 君達こそ、真の勇者だぁ――――っ!」
‶ オォ――――――――――ッ! ウォ――――――――――ォッ! キャァ――――――――――ァッ! ″
「何か、皆、感動してるよ?」
「当たり前じゃないですか、泣く所ですよ」
‶ 桜吹雪のぉー サライの空へー 何時かヤれる 何時かヤれるぅ― きっと ヤれるからぁー ″
めぐみは、呆れて言葉を失っていた。だが、ピースケは、童貞の理解力の限界を知り、明日への希望に股間を膨らませていた――
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