ラスト・デイは思いっきり。
―― 二月十九日 先勝 癸卯
喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――
「おざっす!」
「めぐみさん、お早う御座います」
「おはよう、ございますぅ」
「めぐみ姐さん、お早う御座いますっ!」
「おや? ピースケちゃん、ヤケに気合が入っているわねぇ?」
「えっ? 普通ですよ。嫌だなぁ……」
‶ チラッ、チラッ ″
めぐみは、ピースケと紗耶香のアイコンタクトで直ぐに状況が理解出来た――
「あ―ぁ、あ。そう云う事ね。分かっちゃったんだもんなぁ。うふふふふ」
ピースケは、めぐみの袖を掴んで授与所を出た――
「止めて下さいよぉ、めぐみ姐さん、そんな目で見ないで下さいよ」
「良いから、良いから、良かったねぇ。さらば童貞っ! 青春の煌めきっ!」
「いやっ、煌めいてなんかいませんよ」
「え?」
「まだ、実質童貞のまんまです」
「ん? だって……」
「いやぁ、キッスはしちゃたんですっ! でも、キスだけですから。あと一歩の所で人が来ちゃって、それで、何となく気不味くなって、嘘じゃ有りませんよ、本当なんですから」
「別に、私に訴えなくても良いよ。だけど、残念だったわねぇ」
「ノー・ハラ東京も今日で終わりです。でも、きっかけは掴んだって云うか……手応えは感じているんですよ」
「まぁ、童貞卒業は、まだまだ先の話ね。あははは」
「めぐみ姐さん、笑い事じゃないですよ。僕にとっては、大問題なんですから」
膨れっ面のピースケと、笑いを堪えるめぐみに御神木の陰から声が聞こえた――
「そうとも、笑い事なんかじゃあ、無いんだぁ」
「はっ、その声はっ!」
「西野木誠っ!」
「よう、おふたりさん」
「こんな所で何をしているの?」
「なぁ――に、素戔嗚尊に話が有っただけさ」
「あの、笑い事じゃないって……どう云う意味ですか?」
「ノー・ハラ東京も今日が限り。だがな、オレは納得がいかねぇんだよ……笑い事なんかじゃあ、無いんだぁ」
「納得がいかない?」
「あのぉ……充分過ぎる程、効果が有ったのでは有りませんか?」
「フッ。青い青い。まだまだ、ひよっ子だなぁ」
「そう。ピースケちゃんは実質童貞だから。ねっ!」
「止めて下さいよぉ」
「止められねぇんだ、この戦いは。このオレが、これ程までにお膳立てしてやったと云うのに、それでも自分の殻に閉じ籠っている連中が居るんだぁ」
「まぁ、何事に於いても、そういう変な人って一定数いるからねぇ。仕方が無いよ」
「チッ、これだから処女はダメなんだぁ」
「ドキッ!」
「仕方が無いなんてぇ事は、この西野木誠には通用しねぇんだよっ! コレを見よっ!」
西野木誠は懐からケータイを取り出すと、No Harassment in Tokyoの特設サイト動画を再生した――
‶ こんにちは、いやぁ、盛り上がってまぁ―――すっ! 何て言うかなぁ。スシロー食べ放題? 次から次へとギャルが回って来て、もう、ビンビンですっ!″
‶ こんにちは。もう男共が金魚の糞状態? 私は行列の出来るラーメン屋かっ! って感じ? 東京のメンズは全て私に傅く運命なのかなぁ? きゃっは ″
「めぐみ姐さん、凄まじい動画ですよ」
「うむ。これだけ盛況なら、なーんも文句無いと思うんだけど?」
「馬鹿者っ! この動画のアンチ・コメントを見るが良いっ!」
‶ あ―嫌だ嫌だ、結局、モテ杉モテ男が無双しているだけじゃねぇ――かよっ!″
‶ クソビッチが偉そうに、ナンボのモンじゃいっ! 汚れ無き乙女こそ、至高っ! ″
「あらららら、嫉妬の塊」
「めぐみ姐さん、こんなヒキニートや、拗らせ女子なんて、どーにもなりませんよねぇ?」
「やれやれ、処女と童貞は気楽で良いなぁ。だが、西野木的にはOKじゃない。パーフェクトじゃなきゃダメ、やった意味無い。OK?」
「OK? って言われても……ねぇ」
「でも、西野木さんは、あぶれた男子と女子を、どーしようって言うんですか?」
「そこだよ。全員を集めて強制的に合体させるのよ。FUCK!」
「夏の夜はバラ―ドじゃ終われない、YAZAWA的な?」
「めぐみ姐さん、ふざけないで下さいっ!」
「さーせん」
「西野木さん、強制なんて無理に決まっていますよ。ヒキニートは卑屈で最低なんですよ? 自分を愛してくれる女子は居ないと分かっていながら、愛される努力は一切しない。なのに『きっと、何時の日か、天使が舞い降りる』と信じているんですよ?『妖精が、僕の隣に座って居たんだぁ』なんて恋愛を夢見ている、死ぬ程、キモイ連中なんですよっ!」
「うーん……」
「拗らせ女子も大概です。毎日、毎日、朝から晩まで動物動画を見て癒されているんです。しかも、スナック菓子を食べながらですよ?『イッヌ、かわよっ! ヌッコ最高っ!』自分で自分を癒し過ぎて疲れ果て、癒すために更に動物動画を見る無限ループに落ち込んでいながら自覚が無いんです!『恋愛はぁ、ストレス・マックスでぇ――すっ。お茶漬け食べて、もう寝まぁ――すっ!』って。大好きなはずの犬や猫を飼おうともしないんですよ? 有り得ませんよっ!」
「……うぐっ」
「ピースケちゃんの言う通りね。無理無理くっつけたって、不幸になるだけ。大体、自分の妻さえ大切に出来なかった男に言われても説得力ゼロっ! 今回は、これで納得しなさい。ね? 萌絵ちゃんと、末永くお幸せに――ぃ」
「クソっ、処女と童貞が分った様な事を言いやがって、オレにはオレの考えが有るのだっ!」
‶ オレの――――――ぉ、考え??? ″
「あぁ、そうとも。男は仮装大賞方式、女はスタ誕方式だぁ……これで全てが解決っ! 愛は子宮を救うのだっ!」
「めぐみ姐さん、仮装大賞は分りますけど、スタ誕? って何ですか?」
「伝説のアイドルを輩出した、昭和のオーディション番組よっ!」
「そうなんですね……しかし、欽ちゃんの番組ばかりなのは、なぜでしょう?」
「知るかっ!」
「フッフッフッフ。欽ちゃん方式が、手っ取り早いのだっ!」
「意味が分からないです」
「ちょっと、あんた。一体、何をする気なの?」
めぐみもピースケも欽ちゃん方式が『愛は子宮を救う』と云う意味が分からなかった。そして、自信満々で腕組みをする西野木誠を前に呆然としていた――
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