気になる彼奴。
そして、オムライスとナポリタンとポークカツを口一杯に頬張りながら唸っているのを見て、レミが心配そうに声を掛けた――
「どう?」
「ふんっがっほっ!」
「めぐみお姉ちゃん、口の中が一杯で、何言ってっか、分かんねぇ――よっ!」
「ごっくん、旨すっ!」
めぐみがサムアップしたのでレミはホッとした――
「良かったぁ……」
「でも、レミさん、どーしてこんなに作ったんですか? 三人前を食べさせるのは、やり過ぎですよ」
「失敗した時の保険に買い過ぎたの。それで、作ってみたら、こうなったと云う訳。勘弁してね」
「なるほどです。しかし、オムライスのドミグラス・ソースも美味しいけど、ケチャップライスが最高」
「そう?」
「ナポリタンとケチャップライスって実は難しいんですよね。酸味が強かったり、べちゃっとしたり、火を通し過ぎるとマイルドになり過ぎてコクが無くなったり。でも、ポークカツはトンカツ・ソースより、このドミグラス・ソースの方が合うかなぁ」
「あぁ、そう?」
「ビフカツだったら最高ですよ」
「ビフカツ? そうね、その手も有りよね」
「その時は、ポテトと人参のグラッセでお願いしますね」
「分かったわ」
「ね。レミさん、めぐみお姉ちゃんは食い意地張ってから、余計な事を言うでしょ?」
「食べてる最中なんだから『旨い事を言う』って、言って貰いたいわねぇ」
「あはは。でも、参考になるわ。私も新たな挑戦がしたいの」
「挑戦?」
「えぇ、そうよ。あの喫茶店で食べたナポリタンは絶品だった……確かに安くても美味しい物を作る事は出来るわ。だけど、それだけじゃない、何かが有ると思ったの。インスピレーションを感じたのよ」
「ねぇ、レミさん、それってさぁ、却って安い食材じゃなければ、出来ない物が有るって事でしょ?」
「その通り。七海ちゃんは良く分かっているわね。安い食材同士のHARMONY。私は、極限を追い求めて上ばかり見ていたから、考えた事すらなかったの」
「灯台下暗しって事ですか?」
「そうね。でも、私を突き動かしたのは音楽について彼が言及したからなの。世界を意識して国内を見ていなかった、いえ、見ていたけど……私は気に入らなかったのよ」
「あ―――――ぁっ!!」
「えぇっ!」
「何よっ!」
「すっかり忘れていたけど、レミさんが出て行った後、そのナポリタン野郎が来たの」
「此処へ?」
「そうなんです。で、『喫茶店で御馳走した男が来たと言えば分かるさ』って」
めぐみは、レミに名刺を差し出した――
「葦原中国諜査部 特命係 天海徹……」
「神名は、天見通命だって」
「先を見通す力が有ると言っていたけど……きっと何か有るのね……分かったわ。私は先に寝るわ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
レミは、サッサと部屋の隅で布団を被って寝てしまった。めぐみは、満腹でお腹を太鼓のように叩いて大きな溜息を吐いた――
「はぁ―――ぁ、食った食った」
「めぐみお姉ちゃん、食休みに入る前に言っとくけど、冷蔵庫にデザートのカスタード・プリンが有るんよねぇ……どーする?」
「別腹と言いたい所だけど、ギブ・アップ」
「まぁ、明日でも大丈夫だから。良いんじゃね」
「ちなみに、どんなん?」
「今風のふわトロじゃなくて、いわゆる、昭和の鬆が入りまくりそうな、固い、固い、カスタード・プリン。ホイップクリームに真っ赤なサクランボ。缶詰めの奴」
「マジか? ちょっとイってみよっかな? どれどれ宍戸レミ?」
冷倉庫の中には通常のプリン・カップより遥かに大きい丼ぶりサイズのプリンが有った――
「うわっ、こっちも三人前かよっ! 全部は無理だけど、一口だけ頂こうかな」
めぐみは、結局、食べ切った――
「うごっふ。食った食った、食い過ぎたぁ……」
「次はお風呂だお」
「あい」
めぐみは、湯船に浸かってラッコの様にしていると、七海は汗をかきながら浴室の掃除と手入れをしていた――
「どーでも良いけどさぁ、ナポリタン野郎ってどんな感じ?」
「ん? どんなって、言われてもねぇ……」
「イケメン? ブサメン? キモメン? マッチョとか?」
「うーん、そうねぇ、体格的には和樹さんと駿さんの中間位かなぁ。一番バランスの良い体格よ」
「ふーん、やっぱね」
「やっぱ? 何よ?」
「レミさんが、惚れる男だから気になったんよ」
「えぇっ! マジで?」
「めぐみお姉ちゃんは、鈍感よな。名刺を手にした時、キュンキュンしてたじゃんよ――ぉ。乙女になってたのも気が付かねぇ――のかよっ!」
「あぁ、いや、全く。そうか、そうなのね……」
「んで、顔はよ?」
「顔? うーん、ちょっと、何て言うのかなぁ、苦み走った良い男とも言えるし……威圧感が有るのよねぇ」
「威圧感?」
「駿さんみたいにソフトで女性に優しい感じはゼロ。和樹さんみたいな体育会系の男っぽさでも無いし」
「ヤバない?」
「そう。馴れ馴れしくしたら突き放されそうな、可愛い子ぶりっ子したら、むしろ怒り出しそうな感じ。クールで渋い感じって言うのかなぁ」
「あぁ、納得。レミさんらしい」
「そうね。クセ強選手権一等同士、お似合いかもね」
「ふぅ、終わったお。出る時、浴槽を綺麗にしてね。ほんじゃ、先に寝るお」
「うん。ありがとう」
「おやすみ」
七海が出て行くと、めぐみは身体を洗いつつ浴槽もついでに洗った。そして、ふたりには言わなかったが、天海徹が現れた意味を考えていた――
「レミさんが地上に戻って来て、そして、ふたりが出会った。恋の女神は人間だけでなく、神様同士もくっつけるのかしら? 人間と神様の組み合わせなら、七海ちゃんと駿さんは順調だし、ピースケちゃんも今夜あたり、もしかすると紗耶香さんと……? 和樹さんと私は平行線のままだと云うのにねぇ」
‶ キュッツ、キュッツ、シャワワ――――――――ッ! ザザザァ―――――ッ! ザァ―――――ッ! ″
「終わった。さてと、明日は何時も通り早く起きなきゃならないし、私も寝るとするか」
めぐみは、消灯して布団に入ると、所在確認をしに来た意味を考えていた。そして、布団を被って寝ているレミも、天海徹の「先を見通す力」がどれ程の力なのか気になっていた――
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