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プッツンしちゃいましたぁ。

 上下左右、自在に飛び回るモスキート一号。太朗は南方の渡した子供騙しのオモチャに翻弄され息を切らした――


「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ。おいっ! 何とかしろっ!」


「あー、無理無理」


「止めろって!」


「だって、取り扱い方法を知らないもん」


「何だと?」



 ‶ ターゲットに、ロック・オンしましたっ! ″



「あーぁ。太郎ちゃん、ターゲットになちゃったねぇ」


「何がターゲットだ、ふざけるなっ! たかが蚊一匹、てぃっ! てぃっ! てぃっ!」



 太郎は必死にモスキート一号を捕まえようと必死で追い駆けたが、とうとう見失ってしまった――


「はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ、ぜぇ、ぜぇ……おいっ! くだらねぇ土産持たされて、ったく、しょうがねぇなぁ。それで、どーすんだよっ!」


「どうするって?」


「政策に決まってんだろっ!」


「そりゃぁ、諦めるしかないでしょう」


「諦めるだぁ? 馬鹿か手前ぇっ! ジジババを殺処分すれば、年金は払わなくて済むし、相続税で国庫は潤うって算段だろっ! 今更、後には引けねぇだろぉ――がよっ!」


「太郎ちゃん。何をやっても無駄。無駄な抵抗は止めろってさ」


「あのなっ! W・S・U・Sの南方とか、ああ云う学者連中は、政治家を馬鹿にしているんだぞ。こっちが利用しなくてどーするっ!」


「いやぁ、実際、学者に比べりゃ馬鹿なんだから。普通ですよ」


「ふざけんなっ! 待った無しなんだよ、サッサと少子化を進めろっ! 昆虫食を強制しろっ! 分かったな」


「あぁ残念。来年、東京はベビー・ラッシュだからさ」


「だったら、このコオロギを何とかしろよっ! この在庫を、どーすんだよっ!」



 ‶ バアアァ――――――ンッ! ″



 南会議室には、倉庫に入りきらない食用コオロギの在庫が積んであった。太郎は岸井田の胸座を掴んでネクタイを締め上げて睨んだ。すると、岸井田の堪忍袋の緒が切れた――



 ‶ プッツ――――――――ンッ! ″



「だからさぁっ! 無理なんだって! そんなに、コオロギが食いてぇんなら、食わせてやるよっ!」


 岸井田は段ボールの箱の中らコオロギを取り出し、開封した――

 

「おい、何をする気だ?」


「おぁ? 口開けろよ」


「何だと? 手前ぇ、このオレに……」


「サッサと、口を開けろっ!」 


「おい、落ち着け……」


「私は落ち着いてますよ? わが国で一番、権限のある総理大臣ですからねぇ。ほら? 開けろってっ! 総理の命令だよっ? オラッ! お前が責任を取って全部食えっ! はら、食うんだよっ! 食うんだろ? 食わんかいっ!」


 岸井田は鬼の形相で太郎の口を抉じ開けると、コオロギを口の中に押し込んで、しゃくれた顎を鷲掴みにして無理矢理、咀嚼させた――


「うんぐっ、うんぐっ、ゴックン。オェ――――エッ! ゲホッツ、ゲホッツ」


「汚ぇなぁ、吐くなよ。ほら」


 岸井田は吐き出したコオロギを手で掬うと、太郎の口に擦り付けた――


「この野郎っ! 誰のおかげで総理の椅子に……」



 ‶ プォォ―――――――ンッ プゥ―――――ンッ プォ――――――ンッ″


 

 太郎が反転攻勢に出ようとしたその時、耳元で華麗なF1サウンドが聞こえた。ターゲットの死角に入っていたモスキート一号の襲来だった――


「うわぁっ! 鬱陶しい蚊だ」


「その蚊はターゲットを追跡する機能と八岐大蛇ヤマタノオロチの猛毒を持っているんだってさ」


「え?」


「マウイイワスナギンチャクの千倍だって」


「マウイイワスナギンチャク? 何だそれは」


「あーねぇ、やっぱ、知らないんだ。馬鹿だなぁ。ぷぷっ!」


「笑いやがったなっ! 手前ぇ、調子に乗るなよっ!」


「おっと、マウイイワスナギンチャク毒は青酸カリの十万倍っ! そして更に千倍ドンっ! そいつに狙われたら、もうお終い。完全犯罪の暗殺ロボットなんだよ?」


「なっ……なにぃ!」



 ‶ プゥプゥ―――――ンッ プォ――――――――――ンッ プンッ。ピタッ! ″



「ぎゃぁぁ―――――っ!」


 モスキート一号が眉間に留まると、太郎は寄り目になったまま床に倒れ、猛毒で死んだ――


「あっけなく死んだねぇ。偉そうに、のさばった所で、死んでしまえば全てお終い。ただの肉塊だぁ……」





 ―― W・S・U・S本部


「しかし、驚きましたよ。お父さん、何時の間にあんな物を作っていたんですね」


「ん? マックス、あれは子供騙しのオモチャだ。毒など入っておらんよ」


「では、何故?」


「あんな物でも、信じてしまうのが人間だ」


「そうだったんですね。確かに『現在の医学では』とか『現在の科学技術では不可能』と言えば、誰も反論出来ませんからね」


「あぁ。全ての科学の最先端を把握している者など誰一人として居ないと云うのになぁ。あっはっはっはっは」


「でも、悪戯が過ぎませんか?」


「マックス、あれは予告だ。仮にもし、彼が文句を言いに来たら『本物は此処に有ります。次はあなたの番ですよ』そう言って追い返せば良いのだ」


「なるほど」



 岸井田は此れまでの恨み辛みを晴らそうと、死体蹴りをしていた――



 ‶ ドスッ、ボクッ、ガッツン! ″



「この野郎っ! ざまぁ見ろっ! 最後にサッカー・キックをお見舞いしてやる。どぉりゃ―――――――ぁ!」


 岸井田は全力で頭めがけて右足を振り抜いたが、倒れていた太郎がサッと上半身を起こした為、空振りとなった――


「あれ? 生きているの??」


「お早う御座います。本日は晴天なり。天皇陛下、万歳――ぃっ! 万歳――ぃっ! 万歳――ぃっ!」


「あらら……」


 太郎はすっかり壊れてしまい、二度と岸井田の言う事に逆らう事は出来無くなっていた――




 喜多美神社は神聖な空気と夜の闇に包まれていた――


「あーぁ。皆、帰っちゃうんだものなぁ。結局、私ひとりだよ……安請け合いしちゃったのも有るけど、後片付けと明日の準備に、こんなに時間が掛かるとは思わなかったよぉ……ふぅ」



 仕事を終え、駐輪場へ向かう為、真っ暗な参道を抜けて行くと、木々がザワザワと音を立てて揺れた――


「おや? 何だか、ちょっと、不気味ねぇ……」


 自転車に跨り、夜の街を走っていると、人混みの中に死神が見えた――


「あれ? 死神さん……死神さん、だよねぇ……」


 


 めぐみが目撃したのは、タレコミ屋から情報収集をしている死神の姿だった――






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