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人類滅亡するってよ。

 岸井田は、そのまま夜の街を歩いた。そして、やる気満々のカップルに交じり、いい歳こいて元気なババアとオッサンを見ている内に、自分のやる気スイッチがONになっている事を感じていた――


「聞く力と聞かない力か。ふ――む、しかし、結局のところ耳に入ってくるのは関係者の声ばかりで、国民の声なんて、だぁ―――れも、届けてくれないって分かっちゃったもんね。はぁ……逆らえば失脚、もしくは暗殺かぁ。どっちが良いか、よぉ――く考えてみよう」


 沈思黙考。だが、何気なく手を入れたポケットに手応えを感じた――


「おや? 何か入っているぞ。あっ? これは……何時、ポケットに入れたんだろう?」



 その時、南方は落ち込む岸井田を見かねて、シャーレを差し出し、最新のナノ・テクノロジーを披露した――


「総理。これが分かりますか?」


「これ? 何って……蚊じゃないの?」


「はい。蚊ですが、ナノ・テクノロジーを駆使した精密なロボットです」


「えぇっ! これ、機械なの?」


「はい。来年にはノミやダニのレベルまで小型する計画です」


「はぁ。凄いねぇ、こんな小さいのにロボットだなんて。でも、こんな物をどーするの?」


「この蚊は、ターゲットを認識すると追跡する事が出来ます」


「へぇ。でも、追跡なんかしたって意味無いんじゃないの? あっ! 分かった、小型のドローンって事か」


「フッ。ターゲットを捕らえ、追跡をして、そして、その体内に猛毒を注入すると……どうなるか?」


「どうなるって、まさか、暗殺が出来るって事? それ本当? いやぁ、幾ら何でも、蚊に刺されたって痒いだけだし……こんなに小さい蚊がチクッと刺した位じゃぁ、死にはしないでしょうよ」


「このロボットの猛毒は八岐大蛇ヤマタノオロチの毒なのです。それは、マウイイワスナギンチャクの千倍なのです」


「マウイイワスナギンチャク?! って、どんなのよ?」


「あ、僕から説明します。総理、マウイイワスナギンチャクの毒は青酸カリの十万倍と言われております」


「えっ? せっ、青酸カリの十万倍っ! で……その更に千倍って事は?? ひぃっ、猛毒じゃないのっ!」


「死後も毒物が何なのか分析が出来ませんから、完全犯罪が成立するのです」


「完全犯罪って……」


「『会期中に居眠りをしていたと思ったら、死んでいた』と云うのが理想かと」


「ゴクリッ……」



 南方の話を聞いた岸井田は、都合の悪い奴を殺す作戦も有りだと思った――



「ところで総理、私の『AIによる支配と管理のプロジェクト』を粉砕した竹見和樹を覚えてますか?」


「えっ? あぁ、覚えてはいるけど……」


「彼は今、武者修行をしています。そして、恐ろしい事に彼には自覚が無いのです」


「自覚が無いって……」


「珠美の様に狙い撃ちではなく、貯え続けた強大なエネルギーを、ある日突然、放出するのです」


「放出って、無自覚に?」


「はい。そして、無慈悲に……」


「無自覚で無慈悲なの? もう、勘弁してよぉ。どうなっちゃうの?」


「南から巨大な台風がやって来て、暴風があらゆる物を吹き飛ばし、落雷がインフラを破壊するでしょう。そして、最悪なのはその後。間髪入れずに大地震です」


「台風に雷に地震っ?! 暴風で屋根瓦に看板が飛んで、落雷で停電、大雨で河川氾濫からの――ぉ、大地震って、最低最悪じゃないのっ!」


「総理。無駄な抵抗は止めることですな」



 岸井田は、南方とのやり取りを反芻し「蚊」の入った小さなボックスを握りしめていた――



 ―― 首相官邸


「大臣、総理がお戻りになられました」


「おぉ」


 正面玄関入口前には官邸警務官やSPが立哨していて、エントランスホールも官邸警務官が館内の警備や警戒、来訪者の用務先確認や案内・誘導を行っていた――


「あの、何方へ?」


「おぁ? 手前っ! 誰に口利いてんだよつ! このオレが来たって、岸井田に言えやっ!」


「……はい。畏まりました」


「南会議室に来いって言えっ! 速攻だぞ、分かったなっ!」


「はっ!」


 官邸警務官が岸井田に内線で事情を説明した――


「え? まぁ――た、太郎ちゃんがオラついてんの? うん、分かった。今すぐ行く」


 ―― 南会議室


「失礼しまぁ――すっ!」


「チッ、手前ぇ、油売ってんじゃねぇ――よっ!」


「さーせん」


「何だその態度は? 謝るなら、きちんと謝れやっ!」


「遅くなって、どーも、すみませんでしたぁ」


「おぉ。何やってたんだ?」


「いやぁ、太郎ちゃんがコオロギ食をサッサとやれって言うから……W・S・U・Sの南方所長と会談をして来た訳で……」


「で?」


「太郎ちゃん。無駄だってよ」


「何が?」


「コオロギさぁ、ある日突然、孵化しなくなるんだってよ」


「嘘を吐けっ!」


「嘘じゃないですよ。九十年代から僅か三十年で地球上の昆虫の90%が居なくなったんだって。知ってた? ほっといても人類は滅亡するってさ」


「滅亡するなら、尚更……」


「調子に乗っていると大災害に見舞われるってよ。暴風、落雷、豪雨だってさぁ」


「そんな事が分かるわけないだろっ! それに、消防も警察も自衛隊だっているんだぞっ!」


「大災害で自衛隊が救助に向かっている最中に大地震が来るんだってさぁ。無駄だって、駄目だって」


「駄目じゃ済まねぇだろっ! 手前ぇ、それで手ぶらで帰って来たのか?」


 咄嗟に岸井田はポケットを抑えてしまった――


「あ。何か持ってんな?」


「いや、何も持って無いですぅ」


「飛べ」


「いや、小銭なんか持って無いって……」


「ポケットの中の物を見せろ。オラ、サッサとしろっ!」


 岸井田が拒むので、太郎は無理矢理ポケットに手を突っ込んで奪った――


「何だコレ?」 


「あぁ、それは……」


「何なのか説明しろっ!」


「それは、W・S・U・Sがナノテク技術で制作した蚊の小型ロボットで……」


「情けない奴だなぁ。こんな、子供騙しのオモチャで騙されやがって、恥を知れっ!」


 太郎は、激高し、そのボックスを床に叩き付けた。すると、ボックスの蓋が開いた――



 ‶ Good evening everyone, モスキート一号、起動しましたっ! ″



「おぉ、南方ちゃん流石だぁ。良く出来ているなぁ」


「感心するなっ! こんな物、ていっ!」


 太郎が手で叩き落そうとしても、モスキート一号はひらりひらりと躱して飛んでいた――






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