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I’m 総理. so sorry.

 喜多美神社は祈年祭を終え神職の者達が心静かに春を迎える頃、岸井田総理は秘書を怒鳴り付けていた――



 ―― 首相官邸


「おいっ! この報告書は何だっ!」


「はぁ。調べによりますと、十五歳の未成年から四十歳の成人女性まで、妊娠した可能性が有ると云う事で御座います」


「これは大問題だぞっ!」


「確かに、未成年の婚前交渉は如何な物かと存じますが、それにも増して驚きなのは出産経験の有る四十過ぎの女性が三割弱も居る事でしょうか……」


「これが事実なら来年、東京は出産ラッシュだっ!」


「お目出度い事と存じます」


「目出度い? どーする気なんだっ?」


「流石は総理。対応に心痛めているご様子。しかし、御安心下さい。産婦人科、助産師に関しましては、全国から有志の支援を受ける事で対応する準備は出来ております」


「違うだろ――――ぉっ! この、ハゲぇ――――――ぇ―――えっ! 何がノー・ハラスメント東京だ、ふざけやがってぇっ!」


「はぁ? 総理……そう申されましても……」


「男女間対立を煽り、非正規労働を推奨し、低所得化すると同時に教育費の爆上げによって、結果として未来への希望を奪い続けて来たと云うのに……何なんだっ!」


「いや、奇跡的な回復ですが……?」


「おいっ! これ迄、一体、幾ら税金を投入して来たと思っているんだっ! 少子化対策が、水の泡だぁっ!」


「はぁ? まぁ、税金と申されましても、結局、人の金ですから懐は痛まないかと。ポッケに入れている議員も沢山居るみたいですし、何より、お腹を痛めて出産するのは妊娠した女性で御座いますので、総理におかれましては、痛くも痒くも無いと思われますが?」


「かぁ―――――――ぁっ! 確かに、懐もお腹も痛くはないが、私は、この問題で頭が痛いんだっ!」


「頭痛でしたら病院に……」


「馬鹿者っ! W・S・U・Sに行って、南方所長と会談するっ!」


「はっ、それでは、お車の御用意を致します……」

 


―― W・S・U・S本部


 黒塗りの車が三台並び、大勢のSPに警護されて総理が本部を訪れた――


「総理。お待ちしておりました」


「南方君。直々のお出迎えご苦労っ!」


「総理。特別室を用意して御座いますので、どうぞ此方へ」


「うむ」


 南方とマックスに案内されて特別室の前に来ると岸井田は人払いをした――



 ‶ チュィ―――――――――ン、プッシュ―――――ンッ、カシャン、カシャン! ″



「ここなら大丈夫だね? 盗撮や盗聴は無しだよ?」


「勿論です。此処は何処よりも安全です」


「は――ぁ、良かったぁ。安心安心。ところで、南方ちゃん。どーなってんのよ?」


「どーなってるとは?」


「来年、東京は出産ラッシュだよ? 話が違うじゃないの」


「この件は瓊瓊杵尊ニニギノミコト木花咲耶姫コノハナサクヤヒメの夫婦和合に関する問題であり、私にはどーする事も出来ません」


「そんな無責任な……今からでも、何とかなるでしょ?」


「生命の誕生を阻止する事など出来ません」


「頼むよぉ……」


「例え総理のお願いであっても、無理な相談ですな」


「そうなの……じゃあ、ほら、アレ。コオロギ食で人口削減の成果を出すってのはどう? それなら、良いんじゃない?」


「それも無理ですな」


「頼むよぉ南方ちゃん、太郎がうるせぇんだ。さっさとコオロギに切り替えて農家を全滅させろって。そうすりゃ、国民の支配なんてチョロいって言うんだよ」


「はぁ……困った物ですなぁ。何度も申し上げている通り、珠美を怒らせたら手が付けられません」


「ふむ。女のヒステリーは怖いからなぁ……だけどさぁ、そこを何とか、頼むよぉ」


「総理。コオロギは昆虫ですよ」


「知ってますよ」


「昆虫を主食、若しくは食料として扱うと云う事は……つまり、食物神の管轄になると云う事なのです」


「管轄が変わると、何が駄目なの? 良いじゃないの、昆虫が食料だって」


「まぁ、私も何度も交渉はしましたがねぇ、その答えがコレです。マックス、珠美の動画を」


「はい。お父さん」


 大型スクリーンの画面いっぱいに、お多福顔の珠美が現れた――



 ‶ 夏になったら鳴きながら 必ず帰ってくるあのつばくろさえも 何かを境に ぱったり姿を見せなくなることも あるんだぜ ″



「何? この寅ちゃんのセリフみたいな奴?」


 目を閉じて深い溜息を吐き、黙り込む南方を見て、代わりにマックスが説明をした――


「総理、僭越ですが僕から説明をさせて頂きます。簡単に言うと、コオロギは無限の物では無いと……ある日突然、孵化しなくなると云う事です」


「えっ!? それって、脅し?」


「あのぉ、総理。この三十年間で地球上から九割の『虫』が消えたことを御存知でしょうか?」


「えぇっ! マックスちゃん、そんなに居なくなったの?」


「はい。陸上に生きる生物の80%は昆虫です。その昆虫が我々の生活を支えているのです。昆虫を食料にすると云う事は、破滅を意味しているのです。愚かな自殺行為かと」


「…………」


 蒼褪める総理を見て、南方が立ち上がった――


「事の重大さが、お解かり頂けた様ですな。人間にとって権力者になる事は大変、魅力的な様ですが、自然界には全く関係が有りません。虫を嫌い、農薬を使い、その上、遺伝子まで組み替えた結果、昆虫はいなくなってしまったのです」


「あの……それじゃあ」


「人類は破滅へ向かっているのです」


「そんな、馬鹿な……」


「全滅ですよっ!」


「全滅って、事は……」


「少子化など笑止千万っ! 人類は時間の問題で死に絶える運命なのです」



 岸井田は肩を落としてW・S・U・Sを後にした――



―― 車中にて


「はぁ……打つ手無しかぁ……ガックシ」


「総理、大丈夫ですか?」


「大丈夫な訳が無いだろっ! あっ、君。その先の交差点で止めてくれ給え」


「総理、お忍びですか?」


「あぁ、ゴムマスクで変装をするからSPを付ける必要は無い」


「はい。畏まりました」



 ‶ キイィ―――――ッ、ガチャ、バタンッ! ″



「このまま、官邸には戻れない……」




 岸井田は、評判の占い師の居る、あの黒テントの前に立っていた――






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