実質童貞なんです。
祈年祭を恙無く執り行い、神職の者達の心には春が訪れていた。五穀豊穣をもたらす山の神は、春になると山から降りてきて「田の神」となり、農作業を見守り、秋の収穫が終わると、また山に帰っていくと云う――
「ねぇ、ピースケちゃん、まぁ――だ、納得がいかないの? くよくよするなってっ!」
「あっ、いやぁ、違うんです……」
「違うって?」
「考えてみれば、僕の夢はガバって行くまでで、実は……その後は、未経験ゆえ、ノープランだったので……」
「あ――ねぇ――」
「めぐみ姐さん、その後、どうすれば良いんですか?」
「それ、私に聞く? これだから童貞はダメなのよねぇ」
「僕、もう童貞じゃ有りませんよっ!」
「今朝まで童貞だったんだし、珠美に無理矢理奪われたんだから、実質童貞よ」
「あぁ……はい。ガックシ」
めぐみは、ピースケが酷く落ち込む姿を見て仕方なく話を続けた――
「あのね、ガバッと行ったら、その次は唇を塞ぐの」
「あっ! チューですね。はい」
「突然、唇を奪われた女子は『えっ』てなる」
「はい。メモメモ」
「そうさなぁ、その隙に、ブラウスのボタンを三つ四つ外すとしよう」
「おぉっ! 外しちゃうんですね……やらしい」
「やらしい事がしたいんだろ―がっ!」
「はい……さーせん。で?」
「まぁ、ちょいと胸を弄るね」
「いきなりですかぁ……」
「チッ、実質童貞は焦るからダメなのよ。『ちょいと』って言っているでしょう? ここはフェイント」
「えっ? 軽いジャブみたいな感じって事ですか? メモメモ」
「胸を弄られた女子が『キャっ』て、小さな声を上げる」
「はい」
「そしたら、女子はどーする?」
「はだけた胸を両手で抑える……?」
「そう。その隙に、スカートならスッと太腿の間に手を入れる。パンツだったらベルトなり何なりを緩めるって寸法よ」
「あっ、はい。メモメモ……でも、そんなに上手く行くものでしょうか? 抵抗されたりしませんか?」
「チッ、実質童貞はこれだから困る。良い? 抵抗するなら、ガバッて行った時にビンタ、肘鉄、金的よ」
「あぁっ! そっか、それが、伝説の『嫌よ嫌よも好きのうち』ってヤツですねっ!」
「今頃気付くなんて鈍感ねえ。ふたりきりのシチュエーション自体、OKのサインなんよ」
「はぁ、なるほど。めぐみ姐さん、大人だなぁ……」
「まぁ基本、女子ってぇのは大人だから。『だってぇ、男の人に力では適わない、無理矢理にされちゃった』って事にして借りを作る訳よ」
「既成事実としてですね? 巧妙だぁ。でも、僕は大好きな女の子に抵抗されたら、怯むと云うか、申し訳ないって云うか……やっぱ、可哀想で出来ませんよ……」
「ったく、実質童貞っつーのは、どーしようも無いねぇ。股の間に手を差し込むと女子は?」
「当然、防御します……もしかして? あ――ぁっ!」
「分かった? その隙に、ブラのホックを外す」
「防御しますっ!」
「振出しに戻ってぇ」
「唇を塞ぐの繰り返しって事ですかぁ……メモメモ」
「コレを我々の業界では『三点確保』と言うのよ」
「さ、三点確保っ!? まるで、山登りの様ですね……両手片足、片手両足……そうか、分かったぞっ! 昔から、女体を山脈や渓谷に例えるのは、そういう意味が有ったんですね?」
「左様。女人を征服するのは山を征服するのと同様、険しく、そして、ヤリ甲斐のある男の仕事と言えよう」
「誰?」
「まぁ、上級者になれば二点同時攻めで陥落させるのよ」
「どっ、同時攻め!? 何か、ドキドキして来ました」
ピースケは几帳面にメモをすると、続きを期待してめぐみを見つめた――
「何?」
「えっ? その後は?」
「それは、珠美で経験済みでしょうよ」
「あぁ…………」
ピースケは顔が真っ赤になった――
「ん? ちょっと、あんた。何、想像してんのよっ!」
「いやぁ、だって、広瀬すずえちゃんや、浜辺南ちゃんが……あんな事をするのかと思うと……ヤヴァイです」
「ちょ、ちょ、ちょっと、待ていっ! あんた、珠美とどんなんだったん?」
「いやぁ、それはちょっと、恥ずかしいでぇ――す」
「でぇ――すじゃなくて、言ってみ?」
ピースケは、恥ずかしそうにめぐみの耳元でヒソヒソと話した――
「何々? ズボンとパンツを同時にスパッと一気に下ろされて? カポっと咥えて、強力バキューム? ギュっと握って跨って、ガンガン腰をグラインド……馬鹿野郎っ! するかっ! あんな可愛い、すずえちゃんや南ちゃんが、そんな下品な事をする訳ないでしょう? 可愛い子は、自分が可愛い事を知っているの。誰よりも……」
「あぁ。じゃあ、あの、もしかして、僕が?」
「当りめぇ―――だろっ! ったく、これだから実質童貞はダメなんだよ。まぁ、珠美だって黒大蛇を飲んでいなければ、きっちり女を演じていたよ」
「えっ? あの、お多福顔で? 女を演じるって……」
「想像すんなっ!」
「はい、すみません……」
ピースケは、深く反省し、落ち込んだ――
「はぁ……しかし、険しい道のりだなぁ。僕ぁ、自身が無くなりましたよ」
「そうやって、直ぐに挫けるのも実質童貞の証よ。まだ、何も始まっていないでしょう?」
「確かに……でも、話を聞いていると、何だか女性が怖くなりましたよ。結局、男は弄ばれているようで……」
「その険しい道のりを、裸一貫、勇気ひとつで進むのよっ! 行けば分かるさ、行こうじゃないかっ!」
「めぐみ姐さんっ!」
「その険しい道のりに怯まず、挑む男を『そこはダメっ! いやぁんっ! 止めてぇっ!』 と言って誘導し、ガイドをするのが女の仕事よ。分かった? むふふふふっ」
「険しい山には、山岳ガイドが必要……そう云う事なんですねっ! 女の子って、なんて優しいんだろう……愛を感じますっ! めぐみ姐さん、そこに山がある限り……僕は、頑張りますっ!」
「うむ」
ピースケは、登山家が冒険に挑む様に、何時の日か、きっと女を征服するのだと心に誓った。それは、まだ恋人も居ない春の日の出来事だった――
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