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何か損した気分です。

 神聖な本殿から萌絵のモノとも誠のモノとも判別出来ない呻き声が響き渡り、時折、聞こえる激しい音の相乗効果で、獰猛な獣の蠢きを感じずにはいられなかった――



「萌絵ちゃんとは思えない野獣の様な悲鳴っ!」


「めぐみ姐さん、パンパンパンパン言ってますよっ!」


「愛の儀式わぁ―――っ、激しいんですねっ!」


「激しいと言うよりもぉ、情熱的なんですねっ!」


「良かったのぅ。これで、全て解決じゃぁ……」


「あれっ! ちょっと、何で素戔嗚尊スサノオノミコトが居るのよっ!」


「だって、めぐみちゃん。幾ら何でも、ふたりの合体を見物する分けにはいかんじゃろ?」


「でも、ドサクサに紛れて本殿から出るなんて、ダメでしょう」


「まぁ、祀られていると退屈でのぅ。これで自由に出歩ける様になると、良いのじゃが」


「そんなのダメよっ! そんな事より、このまま此処で終わるまで待っているの?」


「そりゃそうじゃ。仕方無いじゃろ?」


「どんな罰ゲームよっ!」


「まぁまぁ。これでふたりが仲良くなれば、少子化問題も解決じゃ」



 ‶ うあぁ――――――――――んっ! イクぅ―――――――――――っ! ″


 ‶ うおぉ――――――っ! おりゃ―――――――――――ぁっ! ガクッ ″



「めぐみ様ぁ。終わったみたいですわぁ」


「あっけなく―――ぅ、果てたんですねっ!」


「早っ! 早っつ! 早漏で候? ヨーソーローみたいな?」


「きゃははははぁ」


「笑っちゃ、ダメですわぁ」




 静寂を取り戻した本殿に皆が戻ると、誠と萌絵は身なりを整えていた――



「ふたり共、ご苦労じゃったのぅ」


「お疲れちゃんっ!」


「別にぃ……私、疲れてなんてぇ、ないわぁ――ん」


「そうだね。萌絵っ!」


「おまーら、まだまだ、やる気満々やないかぁ―――いっ!」



 ‶ 愛し合う男女は求め合うっ! 夫婦和合っ! 合体っ! ″



「合体すんなっ! それって、何戦隊? 変態?」


「めぐみ姐さん、ふたり共、キャラ変していますよっ!」


「めぐみ様ぁ。黒大蛇クロオロチの威力は――――ぁ、凄いんですねっ!」


「どんな男もぉ、不能から脱却―――ぅ、出来るんですねっ! きゃはっ!」


「まぁ、コレで虐めも無くなるのなら、良しとするか」



 誠と萌絵は手を繋ぎ、ルンルン・スキップで参道を去って行き、夕子と弥生は集まったファンと握手会をしていた――


「はぁ。やっぱ祈年祭は良いなぁ。心がスッキリと洗われた気分よ。ねっ、ピースケちゃん」


 振り返ると、そこには誰も居なかった――


「あれ? さっき迄、其処に居たと思ったのに……ピースケちゃん? おーい、ピースケちゃんってばあっ!」


「めぐみさん、お疲れ様。後片付けを、ピースケさんにお願いしたいんだけど?」


「何処にも居なんですよぉ。ちょっと、探して来ます」


「お願いね」


 めぐみが授与所と社務所を行ったり来たりして、声を掛けても見つからないので参道に目をやると、狛狗のアッチャンとウッチャンがしっぽを振った――


「あっちだ、アン、アンっ!」


「竹藪だ、ウン、ウンっ!」


「アッチャン、ウッチャン、有難う」


「アン、アン、アン、アンっ!」


「ウン、ウン、ウン、ウンっ!」


 めぐみは、竹藪の中を目を凝らして見ると、ガサガサと何やら獣の蠢きを感じた――


「おや? まさか……」


 竹藪の中に分け入ってみると、ピースケは泣き崩れ、その隣で珠美が着衣を直していた――


「ちょっと、珠美っ! あんた何やってんのっ!」


「ん? ヤッてないよ。もう終わった」


「めぐみ姐さんっ! ぐっすん」


「あらら。おいっ、珠美っ! 何してくれたのよっ!」


「いや、別に……」


「めぐみ姐さん、童貞を奪われたぁ―――あっ! うぇ――ん、すんすんっ……」


「あんだよっ! 弱っち―なぁ。泣くな、男だろ?」


「童貞・イズ・オーバーか。お前、ヤッて良い事と悪い事が有るんだぞっ! この人でなしっ!」


「元々、人じゃないもんねぇ」


「最低っ! 罰が当たるかんなっ!」


「バ――カ、違うよ。火をつけたのは、


「最低っ! 罰が当たるかんなっ!」


「バ――カ、違うよ。火をつけたのは、お前だろ―がっ!」


「何ですって?」


「お前が黒大蛇クロオロチを飲ませたからだろうがっ! 罰が当たるのは、大蛇クロオロチを飲ませたからだろうがっ! 罰が当たるのは、お前だよっ!」


「被害者みたいな口ぶりで人に責任擦り付けんなっ! 飲ませたのは萌絵ちゃんで、私じゃ有りませんよっ!」


「あぁっ! 目で合図した癖に、汚ぇなぁ……」


「あれしか方法が無かったでしょう?」 


「うん。だからぁ、アレ飲んだらもう終わり。思考力無くなっちゃうのよ。ヤバない?」


「他人事みたいに……」


黒大蛇クロオロチ大山津見神オオヤマヅミノカミが持って来たんだからさぁ。ほら、祭りって色々あるじゃん? な? ピースケも男になったんだから喜べ。じゃあなっ!」


 珠美はスッキリした朗らかな表情で参道を去って行った――


「あぁーぁ。こんな形で童貞を喪失するなんて……」


「そんなに落ち込まないで。ねっ!」


「めぐみ姐さんは、何にも分かってないんですよっ!」


「くよくよしたって、しょうがないでしょう……」


「僕にだって……僕にだって、夢が有るんですよっ!」


「えっ、どんなん?」


「広瀬すずえちゃんとか、浜辺南ちゃんみたいな可愛い子とぉ、手繋ぎデートしてぇ、でぇ、それから……」


「それから?」


「ガバッ! みたいなぁ感じでぇ……」


「無い無い無い無い、無理無理無理、ありえへんから。夢通り越して妄想も大概にせぇっ! ちゅう話やで」


「何でエセ関西弁なんですかっ! だって、僕だって、夢くらい見たって良いじゃないですかぁっ!」


「まぁな。でも、もし、その夢が叶ったらどーする?」


「えっ? どーするって……それは……」


「すずえちゃんも、南ちゃんもモッテモッテの超アイドルだぞ?」


「はい」

 

「もう経験済みよ」


「えっ、嘘だ」


「青い青い。これだから子供は。そりゃぁ、処女のフリ位はしますよ? 演技でね」


「マジですか?」


「相手はとっくに経験済み。で、こっちは童貞。つまり『私が初めてだったんだぁ。可愛い』ってなるの」


「あぅっ、何か、それは嫌だなぁ。子供に見られたくはないですよ」


「でしょ? だからさぁ、例え相手が珠美でも、一応、作法は分ったでしょう?」


「えぇ……まぁ……」


「ピースケちゃん。君はまだ若いっ! これからが勝負よっ!」


「めぐみ姐さんっ!」



 ピースケは、泣きながらめぐみに抱き着き胸の谷間に顔を埋めた。そして、これからの勝負への期待に、胸と股間を膨らませつつ『でも、やっぱり、何か、損した気がする』と思った――








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