悪酔いしちゃったぁ。みたいな?
そして、めぐみが盃に注ぐと、西野木誠は更に不信感を強めた――
「何だろう? 屠蘇散の香りがしない……」
「味醂ではなく、純米酒で御座いますので……」
「うぅん、芳醇でまろやかな香りの純米酒のはずなのに……心なしか、血生臭い様な……香りが重く感じるなぁ」
「先程、お魚を三枚におろしましたので、そのせいかもしれませんわぁ。おほほほほほほほほほ」
「うーむ、黒い盃で色が確認出来ないのだが……何か、色が付いていないか?」
「そ、そんな事、有りませんよぉ。気のせいですわぁ。さぁ、萌絵ちゃんも。どうぞ」
「えぇ。ん? 彼が言う様に、このお屠蘇、ちょっと変だわ……ねぇ、珠ちゃんもそう思わない?」
「えっ! んなこたぁ無いって、全然、普通だよぉ」
「そう? じゃぁ、一口飲んでみて?」
「どえっ!?」
「私、唎酒とか出来ないし。酒豪の珠ちゃんなら、分るでしょう?」
困り果てた珠美がめぐみの顔を見ると、ぱちぱちウインクをして、飲んで証明するように即した――
「あ――ぁっ、じゃあ、一口だけ、毒見するから。そしたら、飲んでね」
西野木誠と萌絵が疑惑の視線を向ける中、珠美は一気に飲み干した――
「ぷっは―――旨っ! あ、コレ旨っ! 今まで飲んだ酒の中で最高峰だよ。醸してるねぇ……」
「あら? 珠ちゃんがそう言うなら大丈夫ね」
めぐみが、改めて萌絵の盃に黒大蛇を注ぎ入れると、ふたりは仲良く飲み干した――
‶ ウング、ウング、ウングッ、ゴックン ″
その場の全員が西野木誠と萌絵が飲み干すのを横目で確認すると、急に皆が楽しそうに談笑した――
‶ きゃっほ―――いっ! 良かった良かった、らんらんらん、 目出度し、目出度し、るんるるんるるんっ! ″
「なんだか、変な雰囲気ねぇ……」
「君もそう思うのか?」
「いよっ! おふたりさん。そんな神妙な顔して、嫌だなぁ。五穀豊穣、祈年祭。皆のお陰で無事に成功しましたよっ! 楽しい嬉しい、祈年祭っ!」
「本当にぃ、レミ様の雅楽の演奏が素晴らしくってぇ」
「最高の舞が――ぁ、奉納出来たんですねっ!」
「いいえ。ふたりの呼吸の合った舞は双子ならではの賜物。本当に見事だった……シンクロが半端ないから、私の方がミスしないように緊張した位よ。久ぶりにゾーンに入った感じ」
「きゃっは。褒められちゃったぁ!」
「レミさんに褒められるなんて、嬉しいっ!」
「いやぁ、レミさんも夕子と弥生のふたりも、本当に良かったよぉ。きっと、今年は良い年になるよ。間違い無いっ! がぁ――っはっはっはっはっは」
「まぁ? 珠ちゃん迄、あんなに上機嫌になるなんて……何か怪しい。ちょっと、あなた。こっちに来なさいよっ!」
萌絵がめぐみを呼び付けると、透かさず美世が割って入った――
「萌絵。そう云えば、あなた……随分と、めぐみさんを虐めているそうねぇ?」
「お、お姉さま……」
「『噴火してやる』って恫喝したと聞きました……」
「そ、それは、お姉さま……」
「黙らっしゃいっ! 家庭の問題を擦り付け、八つ当たりをするとは何事ですかっ! めぐみさんに、これ迄の非礼をきちんと謝りなさい。さもなくば浅間山を噴火させますよ」
「えっ、でも……」
「それで足りなければ、御嶽山も大噴火ですよっ!」
美世は萌絵の足の親指の付け根を力一杯踏んだ――
「痛いっ! あうっ……」
美世が怒ると萌絵は抵抗すら出来なかった――
「はい。分かりました……お姉さま。めぐみちゃん、今まで意地悪をして御免なさい……」
「いやぁ、分って貰えればそれで良いんですよ。ノー・サイドって事で」
「ありがとう……」
めぐみが笑顔で握手をしようと、萌絵に手を差し出したその瞬間、異変が起こった――
「うぐっ! うぅっ! 苦しい……」
「萌絵ちゃんっ!?」
「あぁっ、胸がっ……苦しい……」
萌絵は、純米血酒・黒大蛇の酔いが回って血圧が上がり、激しい動悸に呼吸困難になり、顔は真っ赤になっていた。そして、その異変に驚いためぐみは顔面蒼白となっていた――
「ドクンドクンと脈を打って、心臓の鼓動が分かる程だよ。どうしよう、救急車を……」
「めぐみさん。御安心あれ。これこそが、黒大蛇の効能。効いてる効いてるぅ!」
「美世さん、そんな暢気な事を言っている場合じゃ……」
「お任せあれ。誠殿、美世が悪酔いした様です。介抱して下さい」
「えっ! オレですか? いやぁ、後で何を言われるか分かりません、女神の皆さんが介抱した方が良いと思いますので……勘弁して下さい」
「いいえ、ダメです。誠殿、酔った妻の介抱を他人任せにするおつもりですか?」
「だって……うわっ!」
めぐみ、美世、夕子と弥生、珠美の女神陣が西野木誠を鬼の形相で睨んでいた――
「はい……分かりましたぁ……旦那として、責任取ります……」
介抱する為、萌絵の様子を伺うと、顔が紅潮して真っ赤になり、息苦しそうだった――
「はぁ…はぁ…はぁ――んっ、うっ、う――んっ……」
「コレはちょっと、様子がおかしいぞ? 萌絵っ! しっかりしろっ!」
慌てた西野木誠は、萌絵の上着を脱がすと、それを畳んで頭の下に敷き、ブラウスボタンを外して、スカートのベルトを緩めた――
「おや? 何だか、オレまで眩暈がして来たぞ……」
‶ グワァン、グワァン、グワワワァ――――――ンッ! ″
西野木誠は眼を擦り、再びを目を開けると意識が変わっていた――
「あれ? 何だかこの光景、前にも見た事が有る様な……そうだ、出会った頃、こんな風に萌絵を押し倒して……あぁあぁ—―――――っ! 勃ってるっ! オレの息子が勃ってる、勃ってる――――ぅ! うをぉ―――――おぉ――ぉっ!」
「めぐみ姐さん、効いてますっ!」
「うん。クララが立ったみたいな?」
「うむ。皆の者、後は若いふたりに任せるのじゃ」
「御意に御座います。ささ、出て出て」
美世と一緒に全員が本殿から出ると、熱くなったふたりの歓喜の舞が始まった――
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