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みんな集まれ祈年祭!

 喜多美神社は厳粛な空気と緊張感に包まれていた――


「おざっす!」


「めぐみさん、お早う御座います」


「おはようございますぅ」


「めぐみ姐さん、お早う御座います」


「皆さん、今日は舞に夕子さんと弥生さん、そして雅楽の演奏に宍戸レミさんが来てくれました。心強い応援に感謝しましょう」


「はぁい」


「はいっ!」


「はいっ!」


「ところでピースケちゃん、例のお酒をどのタイミングで飲ませるのが正解かしら?」


「そこですよねぇ。いきなりだと、その後がどうなるのか分かりませんし……かと言って、ラストに飲ませようとしたら、帰ってしまった。なーんて事にでもなれば、千載一遇のチャンスが水泡に帰す事になります。それだけは避けたいですよね」


「そうなのよ」


「珠美と美世さんの協力が必要不可欠です」




 祈年祭は、稲穂を蒔く季節の初めにあたり、その豊穣を祈願する祈年としごいの祭り。言い換えれば人間の生命のかてを恵んでくださるようにとお祈りするお祭り。したがって、一粒の米にも神さまの御霊みたまが宿ると考えられており、稲だけでなく五穀の豊穣と国の繁栄、そして皇室の安泰や国民の幸福なども祈願され、宮中の賢所かしこどころにおいても祭典が行われ、天皇が御親拝ごしんぱいになられると云う――



「珠ちゃんっ!」


「あっ! 萌絵ちゃん、久し振り」


「元気そうね」


「うん。萌絵ちゃんも今日は一段と綺麗だねぇ」


「そう? うふふふ」



 ‶ キラキラキラ―――ン、クルクルッ、シャラララ――――――――ンッ! ″



「萌絵っ! 笑っている場合ではありませんよっ!」


「はっ! お、お姉さま……」


「あの、美世さん、萌絵ちゃんが悪いんじゃなくて、私が悪い……」


「良いのよ、珠美さん。庇う必要は有りません。今日は山の神の神力を発揮する大切日なのです。神が白い歯を見せてヘラヘラしてはいけません」


「…………」


「萌絵ちゃん、そして美世さん。御免なさい」


「珠美さんが謝らなくて良いの。本来ならば父上が来るべきなのです。萌絵が毛嫌いして我が儘を言うものだから、私が来なければならなくなったのです」



 我慢と忍耐の人、人の痛みの分かる神。萌絵は美世には全く歯が立たなかった――


「ピースケちゃん、見た?」


「はい」


「萌絵ちゃんも撃沈だよ?」


「やはり、岩長姫イワナガヒメには借りが有ると云うのか……反論も出来ませんでしたねぇ。ちょっと可哀想な気さえしましたよ」


「でも、考えてみると、いじめっ子体質と云うか、意地悪な家系なのかねぇ……」


「まぁ、あとは西野木誠の到着を待つのみです」


「おや?」


「どうかしましたか?」


「何か今、鳥居の陰に、誰かが隠れた様な……?」


「誰かって? まさか、そんな事有りませんよ」


「いやぁ、スッと影が動いたんだよね。西野木誠っぽかったんだけど?」


「めぐみ姐さん。あの『漢、西野木誠』が、そんな、みみっちい事をするわけが無いじゃな……」


「ほらっ!」


 鳥居の陰からそっと参道を覗いているのは、紛れもない西木野誠だった――


「あ――ぁ。何やっているんですかねぇ、突き返した美世さんに合せる顔が無いのは理解できますけど、自分の妻の背中を見て怯えるなんて。ガッカリですよ」


「あらあら。ピースケちゃんも、まだまだ青いのぉ。天上天下、妻が怖く無い漢など、一匹も居ないのよんっ。」


「マジですかっ! つまり、結婚は人生の墓場だと……旦那は皆、死んでいるって事ですかっ!」


「そそ。ゾンビと言っても過言では無いよ」


「うっがぁーっ! 夢が壊れるっ! そんな馬鹿なぁ……」


「新婚時代が楽しければ楽しい程……顕著になるの」


「えぇっ! じゃあ、行ってらっしゃいのチューは?」


「辞め時が分からなくなるよ。そして、辞めた日の夜から豹変するよ」


「裸エプロンとか……男の夢なんですけど?」


「後で後悔するよ。黒歴史みたく、思い出したくなくなるよ」


「今夜は寝かさないぜ。なんて言ったら?」


「義務となって、苦しむだけ……先に寝た日にゃあ、朝食抜き。背中なんか向けて鼾かいて寝よう物なら、ボディだチンだチンチンだって、ボコボコに殴られるのよ」


「少子化の正体見たり家庭不和……僕は諦めますっ!」


「馬鹿ねぇ。これだから子供は嫌になっちゃう。希望を捨てちゃ駄目よっ! まぁ、純米血酒がどれ程効果が有るか分からないけど、 大山津見神おおやまづみのかみが言う様に『全てが解決』する事を祈るわ。むふふふふふふ」



 祈年祭は恙無く執り行われた。めぐみはピースケと共に珠美と美世に事情を話し、素戔嗚尊スサノオノミコトに協力を求め、お酒を飲ませる段取りを済ませると、本殿に皆を集めた――


「皆の者。よく来たのぅ。今日はご苦労じゃった。心尽くしのもてなしじゃ。めぐみちゃん。例の奴を」


「はい。畏まりましたぁ」


 めぐみは、用意した屠蘇器から銚子を手に取ると、素戔嗚尊スサノオノミコトの盃に注ぎ、その後美世、レミ、ピースケと順に注いで行った。そして西野木誠に注ごうとしたその時――


「あ。オレは酒はやらないんだ」


「えっ? 一口だけでもどうぞ」


「いやぁ、オレは筋トレをやっているんでね。アルコールは筋肉の発達を妨げるんだよ」


素戔嗚尊スサノオノミコトの厚意を無碍に断るなんて、信じられないっ! 格好ばっかり付けて最低よっ!」


「旦那が格好悪くて恥をかくのは君だろっ!」


「ふんっ! 女なら誰でも良い癖にっ!」


「無理に飲む必要は無いだろう? 正月でもないのにお屠蘇なんて変だし、それに、まず、年少者から年長者の順にするのが作法だろ?」


「そんな風に尤もらしい事ばかり言う理屈屋だからモテないのよ。柔軟な発想が無いのよ」


「ご忠告有難う。君以外には絶賛モテまくりだから安心して良いよ」


「ふんっだっ!」


「まぁまぁ、ふたり共、夫婦喧嘩は犬も食わないと言うではないか」


「本殿で夫婦喧嘩はいけませんよ」


「そうですよ。ピースケさんの言う通りです。弁えなさいっ!」


「はい……」


「まぁ、喧嘩するほど仲が良いとも言うしのぉ。おっほっほ」



 めぐみは、その隙に銚子に黒大蛇クロオロチを注いで、西野木誠と萌絵に飲ませようとした――


「どうぞ」


「めぐみちゃん、どうしてオレ達だけ、盃が黒いんだい?」


「それは、御夫婦は特別ですから……うひひ」



 めぐみの口角が上がり「うひひ」と声が漏れたその時、西野木誠は直感で怪しいと感じた――





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