これで解決なのだ。
めぐみはキャリー・ケースを差し出されて当惑した――
「これが何か?」
「何かって? リアクション薄いなぁ。めぐみちゃん、もっと、関心持って下さいよ」
「そんな、アイドルみたいな事を言われても……で?」
「で? って、開けてみそ」
「コレを??」
めぐみは言われるままにケースを開けた。すると、一合瓶の地酒がギッシリ入っていた――
「ん? なんですかコレ? お土産って事ですか?」
「違うって。よく見て」
「どう見ても地方の酒蔵で醸された日本酒にしか見えませんが?」
「だからぁ……」
松実は自分を指さして、神様アピールをした――
「あぁ、コレは、特別なお酒って事ですね?」
「そ、そ、そう、そうなんですよ。これさえ有れば全て解決。これで解決なのだ」
「そのウソ、ホントですか?」
「神様が嘘を吐く訳ないだろ?」
「だって、この地酒がどうして解決になるのか分かりませんよ」
「よく見てって、言っているだろうにっ!」
「よく見るも何も……」
めぐみは改めて目を凝らして、その地酒のラベルを確認した――
「純米血酒、黒大蛇? クロオロチ―――――――――っ!」
「そうとも。やっと分かって貰えた様だな。むふふ」
「え? いや、だから何? って感じですけど? これで何がどう解決するんですか?」
「それ聞く?」
「当たり前ですよ」
「つまりだ、この黒大蛇を飲めばだなぁ……」
「飲めば?」
「もう、バッキィ――――――ンだっ!」
「どゆこと?」
「言わせようとしているな……めぐみさんは人が悪いなぁ。うら若き乙女にオッサンの私が言うのも憚られるが、つまり、夜がギンギンになるのだ」
「ギンギン?」
「一度火が付いたら、さぁ大変。もう、寝かさないよ。爪立てる位なの」
「本当ですかぁ? そういうの眉唾物が多いんですよねぇ」
「人間で実証済み。間違いない逸品ですぞ」
「ふーん。それで?」
「それでって、つまりだ。瓊瓊杵尊に飲ませればすべて解決するという算段なのだよ。頼んだよ」
「え? 私が?」
「他に誰が居るのよ? 良いか、あのふたりは世間には仲が良いフリをするから、ふたりで乾杯をさせて飲ませるのが良かろう」
「なるほど……祈年祭で……うーん、珠美の力を借りとするか」
「うむ、よろしくな。そうすれば、木花咲耶姫も寂しい夜を過ごす事は無くなり、意地悪も止むであろう。では、これで失礼する」
大山津見神は静かに参道を去って行った――
「めぐみ姐さん、良かったですね」
「いやぁ『自分で飲ませろやっ!』って、ここまで出かかったけどね」
「まぁ、萌絵ちゃんに一番嫌われているのですからムリゲーですね」
「親子関係って、難しいよねぇ。特に娘と父親が拗れると修復に時間が掛かるのよ」
「でも、このタイミングで来たのには理由が有るのでは有りませんか?」
「さぁね。色んな人や神と縁が結ばれて行くと、考えている余裕も無いよ」
めぐみとピースがケキャリー・ケースを社務所のロッカーに仕舞っている頃、レミはメン募で集まった者達を選別していた――
「はい、STOP! STOP! 止めろってっ!」
「何か?」
「何かって? あなたドラム何年やっているの?」
「ドラムは七年ですけど……でも、子供の頃からヴァイオリンとピアノを習っていましたから……」
「プライドへし折るようで悪いけど、グルーブはおろかリズムにすらなっていない事に気が付かないの?」
「え? だって、ちゃんと……」
「あなたのはチーン、チッキ、チーンでしょう? クソダサいの。聴いていてイライラするのよ」
「いや、でも……」
「口答えなんて百年早いわ」
「…………」
「あなたのは頭重心で跳ねているの」
「跳ねてなんか……いませんよ」
「フッ、それさえ分からないのね。そこのBaseもGuitarも皆、狂っている。なのに平然と演奏しているのだから、あなた達には呆れるわ」
「だったら、手本を見せてくださいよっ!」
「良いわ」
レミがドラムを叩き始めると、全員が凍り付いた――
「WALK・THE・DOGって叩くの」
「ウォーク・ザ・ドッグ?」
「あぁ……WALK・THE・DOGって聞こえるよっ!」
「本当だっ!?」
「日本の音楽は全部ひっくり返っているの。そして、あなたの様に叩きまくるから、煩いだけなの。何なの?」
「あうっ…………」
「我武者羅に必死で叩いて、オーディエンスに同情して欲しいの? 熱いプレイとか称賛されたいの? 熱いプレイは冷静と情熱の拮抗する中で生まれるの。一生懸命な自分アピールなんて、ミュージシャンのするの事じゃないわ」
「すみません……」
「謝る必要は無いわ。あなた達はあなた達でBAND活動でもすれば? きっとメジャー・デビューも出来るんじゃない? 私は御免だわ。さようなら」
レミはストレスがマックスの状態でスタジオを飛び出した――
「はぁ。街へ出れば脳がバグりそうなヲタ臭のキツイSOUNDだらけ……ウンザリするわ」
「お嬢さん? ちょっとCAFEで休まない?」
「はぁ? 私は今、気が立ってんの。ひとりにして」
「そんな事、言わないでさぁ。気が立っている時こそコーヒーでも飲んで落ち着いた方が良いよ。そう思わない?」
「思わない。ひとりにしてって、言っているでしょう? しつこくしないで」
「あぁ、悪かったね、じゃあね」
レミはイライラした自分を落ち着かせるために、結局、CAFEでコーヒーを飲むことにした。そして、冷静さを取り戻すと、生まれて初めてナンパされた事に気が付いた――
「なんて事、この私が生まれて初めてナンパされたというのに、スルーしてしまった上に、八つ当たりをするなんて……」
「フッフッフ」
斜向かいに座る男が笑った――
「何よっ!」
「また八つ当たりかい?」
「ほっといて」
「大きな声で独り言を言うからさ」
男は黒のスーツに真っ白なデタッチャブル・カラーのシャツに濃い紫色のネクタイを締め、ボーラー・ハットに薄紫のレンズ のロイド眼鏡を掛けていた。コーヒーを持つ手の袖口はダブルでカフ・リンクスが光っていた――
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