腹が減っては戦は出来ぬ?
空腹を満たせないのなら、せめてお茶でも飲もうと台所でお湯を沸かし、丁寧にお茶を淹れた――
「レミさん、お茶を淹れたお。どうぞ」
「ありがとう」
「ねぇ、レミさん。何か荷物が増えてね?」
「あぁ。アジトに行って持ち帰ったの」
「アジトなんてあんの? 格好良いお」
「大した事じゃないわ、物置みたいな物よ。まぁ、だから助かったんだけどね」
「あれは何?」
「そのハード・ケースはギター」
「このバッグには何が入っているん?」
「バッグの中には買ってきたRECORDと……」
「ねぇ、見ても良い?」
「良いわよ」
「あ。何か、色々入っているお。この砲弾型のは何?」
「それはマイク。ブルース・ハープに使うの」
「この箱の奴は?」
「それはWEの真空管。壊れ易いから丁寧に扱って」
「初めて見たぉ……このラジオは何なん?」
「あぁ、それ? 昔、彼氏に貰ったの」
七海は元カレに貰ったラジオを大切にしていると云う事は、気持ちがまだあるのだろうと思った――
「思い出の品って事よな? ねぇ、レミさんの彼氏ってどんな感じの人?」
「どんな感じ? そうねぇ……とても優しい人だった。そして強かったわ」
「ふーん。ねぇ、そんな彼氏と何で別れたん?」
「何で? 死んだからよ」
七海は予想外の展開に言葉を失った――
「殺されたの。だから、思い出の品じゃなくて形見なの。分かった?」
「あぁ……変な事聞いちゃって、ごめんなさい……」
「え? 良いのよ。もう、とっくに傷は癒えているから。気にしないわ」
「…………」
レミは俯く七海を見て、気不味い空気を変えようと思った――
「ねぇ、七海ちゃん。そのラジオ、点けてみて」
「あ、うん」
七海は、昔のラジオの取り扱い片を知らないので手間取っていた――
「ONにしたら、アンテナを引っ張るの。そして角度を変えて受信するの」
‶ ザァ―――――――――ッ、キュルキュル、ピーー、ザァ―――ザァ―――――――――ッ――――――ッ ″
「ダイヤル1374よ」
「あい」
‶ 天の国から生放送っ! ご機嫌なナンバーをお送りする二時間、飛ばして行くぜっ! 一曲目はBIG・HARMONY・SPIRITSで、SWEET・SOUL。どうぞ ″
「わぉっ! 何か、聞いた事が無い感じの曲だお……」
「そうね。地上では聞く事の出来ない音源だから」
「ねぇ、レミさん、何かやって」
「何かって言われても……とりあえずアンプを温めて」
「うんつ!」
好奇心旺盛な七海が瞳を輝かせて云う物だから、レミも仕方なく応じた。その頃、めぐみは家路を急いでいた――
「あぁ、お腹が空いたよぉ……しかも、食材を持っているのは私。作っている間に餓死しそうだよ」
何時もの通りを曲がると、異変に気付いた――
「あれ? 何か、凄い音がするけど、この辺にライブハウスでも出来たのかしら」
その音の発生源が自分の部屋だと気付くのに時間は掛からなかった――
「おいおいおい、嘘だろ。ただいま。ただいま、たぁ、だぁ、い、まぁ――っ!」
‶ ギャイ―――――――――――ンッ、グオ――――ォ―――ン、タラリラ、テレレロ、カッ、キャァ―――――――――――――――――ンッ、キィ――――――――ン、ゴンゴンガッゴ、キュイ――――――ンッ! ″
「めぐみお姉ちゃん、お帰りっ!」
「お帰りなさい」
「七海ちゃんもレミさんも、近所迷惑も甚だしいよっ!」
「だって……ちょっと位、良いじゃんよ――ぉ」
「心配しなくて良いわ。この音は私と七海ちゃんとあなたにしか聞こえていないの」
「えぇっ! そうなの?」
「ねぇ、そんな事はどうでも良いから、早く夕飯にして」
「あぁっ、そうだおっ! めぐみお姉ちゃん遅くなるなら、言ってくれっつ――のっ!」
「うぐっ、何故か私が責められてるう――っ!」
夕飯はチャーハンとラーメンと餃子だった――
「こ、こっ、こんな日に、夕飯が皮から作る手作り餃子って一体……」
「しょうが無いじゃんよ――ぉ、冷凍ご飯を始末するのに丁度良いから、チャーハンにしたんだお。チャーハンだけじゃ物足りないから手作りの餃子にしたんよ」
「ラーメンは?」
「めぐみお姉ちゃんがチャーハン食ってると喉が詰まるって言うから。思いやりだお?」
「あなた達は仲が良いのねぇ。私も何か手伝うわ」
「んじゃ、チャーシュウをお願いするお」
「あら、麵は打たないの?」
「レミさん、あっシはパン屋で働いているんよ。麵は粉物繋がりで、あの竹中製麺の平打ち縮れ麵を入手出来るんよ」
「そう。分かったわ」
七海はバラ肉をクルクルと巻くと、タコ糸で縛り上げてレミに渡した――
「ほい。焼いてちょ。めぐみお姉ちゃん、さっさとキャベツ刻んで、絞ってっ!」
「だって、やっと今、生姜が終わった所なのに言うんだもんなぁ」
肉厚の餃子と豚バラレタスチャーハンとチャーシュー麵が出来上がったのは深夜に近かった――
「冷凍ご飯を始末するために、労力掛け過ぎじゃね?」
「しょうが無いじゃんよ――ぉ」
「いいえ。この餃子、生姜が効いていて、とっても美味しいわ」
「どれどれ、うんっ! 旨すっ! 七海ちゃんのレシピに狂い無し」
「チャーハンもバラ肉がゴロゴロ入っていて、レタスがシャキシャキしていて最高」
「そうなんですよぉ。美味しいから、ついガツガツ食べて喉が詰まるんですよぉ」
「このラーメンもチャーハン餃子に相性バツグンね。ちょっと、あっさりし過ぎに感じたけど……」
「普通に作る醤油ラーメンだと結局、喉が渇くんよ。チャーハン・スープよりも旨味とコクが有りつつ、サッパリしているのが狙いなんよねぇ」
「縮れ麵にスープがよく絡んで美味しいわ」
「おいしさの秘密は奥能登の揚げ浜式製塩なんよ。ミネラルがたっぷりで、そこいらの塩とは訳が違うんよね」
「はぁ――――っ! 美味しかった。お腹が空き過ぎて、全身に染み渡るよ」
「本当ね。体内から熱が上がって来るこの感じが最高だわ」
「ジンワリ汗をかいた所でお風呂ね。あっシはその前に後片付けだお」
ふたりが風呂から出ると、後片付けを終えた七海が風呂に入った。めぐみは風呂上がりのコーヒー牛乳を飲もうと冷蔵庫の扉を開けた――
「何をっ! コレじゃ、意味無いじゃん……」
冷倉庫の中にはチャーシューの残りが保存容器に密閉されて仕舞って有り、冷凍庫の中には冷凍ご飯の代わりに餃子がギッシリ入っていた――
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