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考えたら負けなんです。

 喜多美神社は神聖な空気と慌ただしさに包まれていた――


「五穀豊穣っ!」


「祈年祭っ!」


「国の繁栄っ!」


「祈年祭っ!」


「皇室の安泰っ!」


「祈年祭っ!」


「国民の幸福っ!」


「祈年祭っ!」


「ちょっと、ピースケさん。記念祭は明後日なのよっ! 気合れてっ!」


「はいっ!」


「めぐみさんも、腹から声を出して、丹田に力を込めるのよっ!」


「はいっ! 厳しいけど、典子さんと紗耶香さんが平常運転だと、何故か心が落ち着くのよねぇ」


「でも、めぐみ姐さん。ランニングが必要でしょうか?」


「考えたら負け。スタミナを蓄えるのみっ!」


「めぐみ姐さん迄、そんな事を云うなんて……」


「黙ってやりなさい、男の子でしょうっ!」


「それって、あっ! ノー・ハラかぁ……」


「そうよ。でも、不思議な事も有るわよね。皆、元気で明るいし楽しそう。うふふ」


「性犯罪が無くなり、風俗店も無くなりそうな勢いですからね。結局、ハラスメントなんて人間を不自由にさせるだけだったのでしょうか?」


「さぁね。もう直終わりだからさ、その後どうなるのか私には分からないよ」



 祈年祭に備え気合十分な神職と巫女達を遠くから見つめる黒い影が有った――


「あれが縁結命エニシムスビノミコトかぁ。明るく朗らかな爽やかさんって事かぁ。ふざけやがってっ! あぁ云う、好感度が高い女子を見ると腹の底から怒りが湧いてくるぅっ! 今に妬み嫉みの恐ろしさを教えてやるわっ! 覚悟しなさいっ!」


 黒い影が喜多美神社を去って行く頃、レミは電車に乗って渋谷に向かっていた。お目当てはTOWA・RECORDSで最新の音楽を試聴する事だった――



「電車の乗り方は変わったけど、他はそれ程変わりは無いわねぇ……」


「お嬢さんっ!」


「はっ! 遂にナンパ初体験か? この私が獣のような男に獲物として目を付けられたと云う事ね」


「あの、セルリアンタワー東急ホテルって、どう行けば良いんですか?」


「ちっ、期待させて、道尋ねるなっ! こちとら久し振りのシャバなんだよっ!」


「すみません……」


「あのねぇ、建物じゃ分からない。住所は?」


「桜丘町……」


「あ。だったら反対側。246を渡って右手よ」


「有難う御座います」


「ったく、女連れで昼間っからホテルで……あぁ、考えたら負け」



 TOWA・RECORDS店内にて――




「いらっしゃいませ。お客様、何かお探しですか?」


「はぁ? 此処はCDショップでしょう? 便利グッズでも探している様に見えるのかしら?」


「いえ、すみません。何かお力になれればと思いまして……」


「力になる? 面白いわね。それなら、本物のsoundを演奏する最新のplayerを紹介して」


「はいっ! 今直ぐお持ちしまぁ――す」


 店員が張り切ってセレクトしたCDをレミに披露した――


「ふむふむ。まぁ、最新のJ-POPでも聞いてみよう……うぐっ、何だコレは? はぁ、相変わらずねぇ」


「気に入って頂けましたか?」


「ダメね」


「でも、若者にめっちゃ、人気なんですよぉ」


「私も若者なんですけど?」


「あうっ、すみません……」


「あなたのチョイスは分かったわ。けど、どれもこれも煩いだけ。リズム音痴が選ぶクソ・ミュージック。いえ、リズム音痴が喜ぶゴミ・ミュージックと言った方が正解ね」


「えっ、ミリオンですよ」


「売った数など、幾らでも改竄出来るでしょう? あなた、ヒット・チャートなんて信じているの?」


「でも、やっぱ人気が有って、多くのお客様に買って頂いておりますので……」


「商業音楽の闇ね。日本の音楽をダメにしたのは田辺と渡辺。リズム感が無さ過ぎて、なぁ―――――ぁんも、出来ゃしない癖に『俺たちは今は偽物だけど、何時か、本物になろう』なんて格好付けて。とうとう偽物のまんま本物の気取りよ」


「でも、プロのミュージシャンが、偽物とかって……おかしく無いですか?」


「はぁ? 偽物を本物だと言い張っているのがTVを中心としたマス・メディアよ。同じ事務所のタレント同士でお互いをヨイショしているのが分からないの? そんな物に毒され騙され買わされているのは聴く耳の無い愚か者よ。バック・ビートも出来ずして、何がJ-POPなの? クッソダサい、煩いだけのズンドコ・ロックにひっくり返ったシティポップなんて恥ずかしいから辞めて欲しいの」


「でも……だったら、これなんか如何ですか? 凄い疾走感があって爽快ですよ」


「疾走感? 誤魔化す様な速弾きは何の意味も無いし、歌詞も下らない単語の羅列だわ。私が失踪したい位よ」


「だったら、これなんて如何でしょう? 超絶テクで玄人好みの一枚ですよ」


「はぁ。何も分かっていないのねぇ。超絶技巧は日本人にはウケるみたいだけど、結局、楽器を使った曲芸よ」


「…………」


「もう良いわ。シンプルでシッカリとしたgravityを感じさせる。音の波形の中でバッチリと決まったsoundを求めているの。サヨナラ」


「有難う御座いました……」



 レミはTOWA・RECORDSを後にすると、昔から有る中古レコード店を尋ねた――


「いらっしゃい」


「ちょっと、見て良いですかぁ?」


「どうぞぉ」


 レミは超速でRECORDのジャケットを閲覧した――


 ‶ スコ、スコ、スコスコスコスコ、スコ、スコスコ、スコスコ、スコスコスコッ! ″


「店長、見て下さいよアレ」


「むむっ! 出来るなっ!」


「あんな速さで、分かるんですかね。ぷぷっ!」


「馬鹿モンっ! 良いか、良く見てみろっ! 超速で引き抜いてジャケットを確認しながら、落下する直前に次のジャケットで支えて衝撃を与えない手際の良さ、RECORDを大切に扱う心構えと作法……只物ではない」

 

「て、店長っ!」



 ‶ スコ、スコ、スパッ! スコスコスコスコ、スパッ! スコスコ、スコスコ、スパッ! スコスコスコッ! スパッ! ″



「コレ下さい」


「ハイ。畏まりました……」



 店長はレミの差し出したRECORDを手に取ると、ゴクリと喉を鳴らした。アナログ音源のチョイスと輸入盤は全て当時のFM局に配布されたレア物だった――






お読み頂き有難う御座います。


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