恐怖の爆音!
部屋の片隅で、小さな紅いパイロット・ランプが光るTUBEアンプに心を奪われ、釘付けになっていた――
‶ ジイィ――――――――――――――――――――――ンッ″
「ねぇ、めぐみお姉ちゃん、だいぶ熱持ってるお?」
「ぉあ? 放って置きなよ、勝手に弄ると怒られるよ」
「めぐみお姉ちゃん、このギター、マジ、カッケー。これ繋ぐと音が出るん?」
「さぁ? 知らないよ。触ったら、ぶっ殺されっぞっ!」
七海は、鬼の居ぬ間に何とやら……めぐみの忠告に耳を貸さず、ギターとアンプを繋いだ。そして、ストラップを肩に掛けると、ネックの弦に挟んだピックを手に取り、軽いストロークでギターを弾いた――
‶ グゴォァ―――――――――――――――――アァ―――ァ、ギャイ――――――――ンッ、ワォァンワ――――ン、ワ―――――――ンッ! ″
「どっひえぇ―――――――――っ、凄い音っ! 痺れるう――――――ぅっ!」
「七海ちゃん、駄目だって……はっ!」
「触るなと言ったでしょう?」
めぐみと七海が振り返ると、そこにレミが居た。全身濡れたまま、一糸纏わぬ姿はターミネーターの様だった――
「うわっ! レミさんナイス・バディ……だけど、落ち着いて、服を着て下さい。七海ちゃんは、ちょっと、ふざけただけなんですぅっ!」
「どけっ!」
「あわわ。ごめんなさい、ちょっと、気になって、触ってしまったんよ、殺さないでっ! 許してちょ」
「ふんっ! 馬鹿ねぇ、安心しなさい。殺したりはしないわ。でも、勝手に触っちゃダメ。このギターに触るなと言ったのは、殺傷能力が有るからなの」
‶ さ、殺傷能力ぅ―――――――――――――っ!? ″
「えぇ、そうよ。嘘は吐かないわ。嘘だと思うなら、窓を開けて御覧なさい」
窓を開けると、寝静まった街の灯りが次々と点いて行き、町中の人を叩き起こしていた。そして、家屋、マンションから人が飛び出して大騒ぎになって行った――
「こ、これは一体?」
「レミさん、何が起こったん?」
「そのアンプから出た高出力の音の波動で、建物が振動してガラスが割れたのよ。開放弦で軽く撫でただけだからコレで済んだけど、Cコードなら、あの車はひっくり返って、Dなら、向こう側の木が倒れていたわ」
「えぇっ! そんな……威力が?」
「そうよ。七海ちゃん、あなたがもし下手に扱って、ハウッたら……」
「ハウッたら?」
「頭蓋骨が、その振動に耐え切れず、破裂して脳が飛び出して、今頃、死んでいたわ」
「あわわわわ……ガクブル」
「だから、人の忠告は聞くべきよ。分かった?」
「はぁぃ……すみませんでしたぁ……」
「そんなに落ち込まなくて良いわよ。お陰でアンプもギターもチェック出来たから良かったわ。さぁ、アンプの電源を切って、シールドは束ねて横に掛けて、ギターを元の所に戻して。寝るわよ」
レミは床に大の字になると、ごぉごぉと鼾をかいて寝てしまった――
「早っ!」
「七海ちゃん、私達もお風呂に入って寝ましょう」
めぐみは、七海と湯船に浸かりながら、宍戸レミが何者なのか不審に思っていた――
「めぐみお姉ちゃん、あの人も神様なん?」
「え? どうして」
「駿ちゃんの顔色が変わったお」
「あ、分かるんだ。そういうの」
「まぁね。レミさんって、豪快よな。何の神様なん?」
「音楽らしいんだけど……怪しいのよね」
「何が?」
「地上で何かやらかして、強制退去させられた札付きの女らしいから。事件に巻き込まれないようにしないと……」
風呂から上がると、正しい作法でコーヒー牛乳を飲んだ――
「ぷっは――っ! 最高っ!」
「旨すっ! さぁて、寝るとしよう……おや?」
寝ている筈のレミの姿が無いので、周りを見回すと、めぐみの部屋でパソコンを開いて作業をしていた――
‶ カタカタカタ、カタカタカタ、カタカタカタ、カタカタカタッ! ″
「ちょっと、レミさん。他人のパソコンを勝手に使わないで下さいよっ!」
「何よ。あなたってケチねぇ、減るもんじゃないし、直ぐに終わるわ」
「ムカつくっ!」
「めぐみお姉ちゃん。レミさん、何やってんの?」
「知るかっ!」
「ふたり共、うるさいわよ。メン募を忘れていたの、直ぐに済むわよ」
「メン募?」
「メンバー募集よ」
「バンドやるん?」
「モチよ」
「あっシもやりたいっ! 仲間に入れてっ!」
「初心者は付いて来れないわ。まぁ、考えておく……うむ、これで良しと。終わったわ。さぁ、寝るわよ」
‶ メンバー募集 当方、G.Vo ファンキーなb、真っ当なDr、ブギー叩けるp求む! 天上天下唯我独尊、完全マイナー志向。故にプロ志向、メジャー志向の商業音楽系、J-POPに代表されるドンチャンお囃子CITY-POP 、ズンドコ・ロック、お断り ″
「めぐみお姉ちゃん、コレじゃ、誰も集まらない気がするお……」
「放って置けば良いの。でも、七海ちゃんが音楽に興味あるとは思わなかったよ」
「ん、だって、あっシの周りはヤンキーばかりで、音楽やっている人が誰も居ないんよ。だから、バンドやっている先輩が居たら人生変わってたお」
「ふーん。まぁ、仲間に入れて貰えると良いけどね。おやすみ」
レミのいびきを聞きながら消灯して床に入った。暫くすると、レミのいびきがピタっと止んだ――
「思い出した」
「え?」
「ほぇ?」
「あぁ、ふたり共そのまま聞いて。言い忘れていたけど、私がババアと言われて怒るのはババアだからじゃないのよ」
「おぇ?」
「どっ!」
「ババアがババアと言われるのは当たり前でしょう? そんな事で怒るのは、大人気ないわ」
「ちょっと、何を言っているのか……」
「分からないお」
「私、こう見えて二十七歳だから。四十二歳じゃないって言っているの。分かった?」
「えぇ―――っ! にっ、二十七歳????」
「どう低く見ても、四十一歳だお、子供三人居そうだお?」
「そう。兄弟で歩いていても保護者に間違われるの。何時もお母さんって言われたのよ」
「あーねぇー、だって、そうでしょ?」
「そりゃそうだお」
「だから、ババア言う奴はぶっ殺すっ!」
「そこまで、言うっ!」
「老けてるって言っても、貫禄有るから良いんじゃね?」
「貫禄なんて要らないわ。私が欲しいのは男を虜にする魅力的な容姿。なのに、それを取り上げられ、代わりに音楽を与えられたの」
「はぁ……」
「でも、結局、レミさんは才能を与えられたんだお。だったら、良いじゃんよ――ぉ。何も無い人だって沢山いるお? むしろ、無い人の方が多いっちゅ――のっ! 贅沢だおっ!」
意外な事に七海の説教が効いたのか、レミはそれ以上、何も言わなかった――
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