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意地悪なのは、あなたです。

 ―― 二月十四日  友引 戊戌


「めぐみお姉ちゃん、何時まで寝てんのよ――ぉ。もう、朝だお」


「むにゃむにゃ……おはよう」


「朝食は作ってあっから、あっシは、先に行くよ。んじゃ、後はヨロシクっ!」


「あぁ……行ってらっしゃい」


 めぐみは、重い身体を起こし、顔を洗ってテーブルの上に用意された朝食を食べる事にした――



「おぉ。鯛めしの焼きおにぎりにあら汁とは結構、結構。浅漬けも旨す。今日は、スカート捲りに、お尻ペロンも覚悟は出来ている。どいつもこいつも、どっからでも掛かって来いやっ!」」



 めぐみは上機嫌で職場へと向かった。気合十分でペダルを漕ぐと、アッという間に職場に着いてしまった――


「あれ?」


 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「おざっすっ!」


「めぐみさん、お早う御座います」


「めぐみさん、おはようございますぅ」


「めぐみ姐さん、お早う御座います」


「う―――ん、なんだろうなぁ……」


「何でもありませんよ」


「どうして? 今朝は何時も通りの感じなんだけど、どーなってんのよ?」


「え? 慣れだと言ったじゃないですか?」


「私は全然、慣れてませんけど?」


「違いますよ。東京都民はもう、ノー・ハラスメントに慣れてしまって、スカート捲りもお尻ペロンも、もう、誰もしませんよ」


「あぁ、そゆこと?」


「そうです。最早、エッチでスケベな事は面白い事でも何でもありません。つまり、結果は同じと言う事です」


「はぁ?」


「ノー・ハラになって、皆が自由になったんですよ。今朝、魔人間の三人から聞いたのですが、一部では血の雨が降ったそうですよ」


「えぇっ! 血の雨って……」


「めぐみ姐さんはスケベな事ばかり気にしているようですが、パワハラは女性に限った事では無いでしょう?『お前に雇われている訳でも無けりゃぁ、奴隷じゃねえんだよっ! 表出ろやっ!』って。乱闘になったそうです」


「あわわ。マジで?」


「でも、結局、男同士ですね。帰りに赤ちょうちんで一杯やって仲直り。雨降って地固まるって事です。西野木誠は……やっぱり、凄い神ですよ」


「活力に満ちた人間に蘇ったって事か……」



 めぐみは神格の高い神の成せる業に敬服した。そして、竹箒を持って参道の掃除をしていると、あの気配を感じた――



「はっ!!」


 ‶ シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュ―――――――ッ! ″


「つねっ!」


「痛いっ!」


「ちょっと、あなた。昨日、私の旦那と会ったでしょう?」


「いやっ、会ったのではなく、降臨ですよ。天孫降臨っ! 浮気しているみたいな言い方は止めて下さいよ」


「何それ? あなた、馬鹿にしているの?」


「いやいや、馬鹿になんてしていませんよ。何も有りませんって」


「旦那が私の事、何か言っていたでしょう。ネタは上がっているの」


「いやっ、まぁ、そのぉ……」


「ケータイを見せてっ!」


「プライバシーの侵害です」


「怪しい」


 ‶ ていっ! ″


 萌絵ちゃんは、めぐみの腕をねじ上げて背後から懐に手を入れてケータイを取り上げた――



「証拠を押さえてボコボコにしてやるんだからっ!」


「連絡先の交換なんてしていませんよ。返して下さい」


「ダメよっ! あなた、SNSで私の悪口を拡散しているでしょう? 絶対に許さないからねっ!」


 萌絵ちゃんの思惑は外れ、証拠は何も出て来なかった――


「あれ……?」


「だから言っているでしょう? SNSなんてやっていないし、言い掛かりは止めて下さいよっ!」


「だって……」


「あのですね。萌絵ちゃんのそう云う被害妄想と自意識過剰で自虐的な所が西野木誠に嫌われるんですよっ! 浮気のひとつもしたくなって当然なんですよっ!」


「ふぅわ――ぁ。随分とハッキリ言うじゃないのっ!」


「もっと、思いやりの心を持って下さいよっ!」


「つねっ! つねっ! つねっ!」


「痛いっ! 痛いっ! 痛い―――っ!」


「悔しいっ! 皆で、私をのけ者にするのね……スン、スン、ヒック」


「泣いても無駄。その手には騙されませんから」


「あなたって、意地悪ねぇ。こんなに苦しんでいる私を嘲笑うなんて」


「こっちのセリフですよっ!」


「良いわ。高い高いお山に祀られ、存在を無視され続ける私を、どうそ笑うが良いわ……」


「まぁ――た、悲劇のヒロインになってる。何が何でもヒロインの座は譲らないんですね」


「違いますぅ、何をやっても、私はヒロインなのっ!」


「はいはい」


「今日の所は勘弁してあげるわ。じゃぁ、またね」



 ‶ キラキラキラ、シャララララ――――ン、クルクル、キラ――――ンッ! ″



「あぁ、行っちゃった……鬱陶しい程の派手な演出。もう、勘弁して」


 めぐみは拝殿に昇殿すると本殿に向かった――


「おぉ。めぐみちゃん、良く来たのぉ。まぁ、お茶でも飲んで、ゆっくりして行くが良いぞ」


「ちょっと、素戔嗚尊スサノオノミコトっ! 木花咲耶姫コノハナサクヤヒメを何とかして下さいよっ!」


「おや? 何とかして下さいとは?」


「私のミッションの邪魔ばかり。意地悪ばかりするんですよ? あんなに神格の高い女神なのに最低ですよ。私に付き纏わない様に言って下さい」


「はて、そんな事はわしの口からは言えんのぉ」


「だって、ストーカーですよ? 迷惑防止条例違反ですよ? 放置して良い訳が無いですよっ!」


「あ――ぁ。そういう事か。分かった」


「分かって貰えて嬉しいです。じゃあ、ヨロシクっ!」


「まぁ、待て。めぐみちゃん、瓊瓊杵尊ニニギノミコト木花咲耶姫コノハナサクヤヒメのすったもんだも恋愛の内じゃ」


「何っ!?」


「もう分かったであろう? ふたりの神の恋愛を修復するのも、めぐみちゃんのミッションでも有るのじゃ。まぁ、大変じゃろうが応援しておるぞ」


「え? 人間だけじゃなくて? 神様のすったもんだも、この私が? 冗談じゃないですよっ!」


「これこれ。冗談なんかじゃないぞ。そもそも、木花咲耶姫コノハナサクヤヒメが下山して来たのはめぐみちゃんの『縁結びの力』の成せる業。標高の高いお山の上の冷え込んだ空気と、冷め切った夫婦関係をほっこりと温めて再生するのがめぐみちゃんの役割よのぅ」


「う、嘘だぁ……」



 めぐみは自分の神力で災いを呼び込んだと思うと、全身の力が抜けて座り込んだ。そして、この先、萌絵ちゃんに絡み続けられるのかと思うと、暗澹たる思いで一杯になった――







お読み頂き有難う御座います。


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