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天孫降臨なのだ。

 VRゴーグルの電源を入れて、周囲を見渡したが、何も変わりが無かった――


「ん? 何も見えないよ」


「画面の中のアバターにタッチして、起動するんだ」


「これね。ほいっと」


 起動をすると目の前に仮想現実の世界が広がった。そして、西野木誠が現れた――


「ようこそ、真実の世界へ」


「えっ! 仮想現実じゃないの?」


「おいおい、めぐみちゃん。真実の姿を見せると言っただろ? 人間の本性が全てマルっと分かるのだ」


「真実の姿って……」


「さぁ、案内しよう」


 西野木誠は、めぐみの手を取って、ひとっ飛びで駅のホームに降り立った――


「此処は、悪名高き埼京線の朝の通勤ラッシュじゃないの」


「見よっ! もはや此処に痴漢など居ないのだっ!」


「何ですって? あっ、あのぉ……あの頭の上のアイコンは?」


「タッチしてみるが良い」


 めぐみは、通勤客の頭上のアイコンにタッチした――


「あぁっ! 昨晩完了って出ているけど? これは……」


「つまり昨日の夜。日付を超えた辺りから合体しているのだっ!」


「えぇっ! じゃあ、あの女の人は……?」


「明け方の……つい先程までヤッていたのだ。言わせるなっ!」


「合体って言いなさいよっ! 下品ねっ!」


「ほら、そうやって、直ぐにムキになる。下品だと思い込まされているだけだ」


「はぁ?」


「男女が求め合い、愛し合う事は自然な事だ。何が下品だと云うのだ?」


「朝からヤッてるとか、下品ですよっ!」


「カッカするな。男と女が下品でスケベな事をしなければ子孫繁栄は無いぞ? それでも良いのか?」


「それは、良くないけど……」


「あれを見よっ!」


「あぁっ! おなかの中にBABYがっ!」


「そうだ、その通り。フッ、本人は未だ気付いていないがなぁ。キュンキュンする純愛から合体しての――――ぉ、出産だぁ。子は国の宝。金銀財宝よりも素晴らしい本当の宝なのだっ! 日本列島を宝で埋め尽くし、みんな笑顔で暮らすのだっ!」


「あ。何か、神様らしい事を言っている……」


「良いか、良く聞け。最早、痴漢をする意味など無い。皆、満たされているのだぁ―――っ!」


「あうっ……」


「そして、民俗学的に性崇拝は重要なのだ。性的な行為をタブーにすることによってアンダー・グラウンド化し莫大な利益を上げている悪党共の思う壺なのだ」


「あぁ……」


「東京に痴漢無しっ!」 


「な、な、何と……」


「おっと、めぐみちゃん。君は優しいなぁ……あぶれる物の心配をしているな。だが、童貞やブサメンの心配なら御無用。筆おろしも、ゲテ物喰いも、非モテ系女子も、皆ハッスルしているぜっ! これで風俗店も廃業だぁ」


「ハッスル言うなっ! でも、廃業って? 歌舞伎町も吉原も?」


「勿の論だ。女を利用して利益を得る男達も、女の武器で荒稼ぎする女達も、今日からはリクルート活動した方が良いって事さ」


「何だか、凄いけど……そんな上手い話があるかしら?」


「そんな上手い話? おいおい、オレを誰だと思っているんだぁ……このオレは……神なんだぜっ! 人間では成し得ない全方位完璧な事を軽々とやってのける神の中の神、瓊瓊杵尊ニニギノミコトなんだぜっ!」


 西野木誠はめぐみのVRゴーグルの場面を一般家庭に切り替えた――


「どうだ? 見るが良い。お母さんは肌艶良く、朝からご機嫌で朝食を作り、子供達はそんなお母さんが大好きになるっ! そして、ひとり寂しく駅で蕎麦をすすっていたお父さんは、家族と出来たての味噌汁を飲み、張り切って仕事に行くのだ。そして、帰宅すると夕飯のおかずが一品増えている。晩酌をしてからのぉ――――っ! 合体なんだなぁ。コレが」


「良い事尽くめだよっ!」


「そう。その通り、皆、明るく楽しく朗らかに生きて行くのだっ! 家内安全、五穀豊穣、畜産、国家安泰、厄除け、富貴栄達、良縁成就まで、御利益を一気に与える。これぞ天孫降臨神話の復活なのだっ!」


「やるなぁ……」


「めぐみちゃん。しつこい様だが、恋愛、合体、出産の好循環を作り出し加速させるのだから悪い話じゃないだろ?『告白したらぁ、君の事は、妹の様に思っていたんだぁ……ゴメン。なんて言われたらぁ、この恋が終わってしまうかもしれない……私、そんなの嫌っ! 終わりたくないのっ!』みたいな? 君の言うキュンとする恋愛も良いが、そんな時間は無いのだ。分かったな? それでは、さらばだっ!」




 めぐみは、VRゴーグルを外し、これ迄の日常と真実の姿を突き合わせて、人間が解放されている事を理解した――



「ただいま」


「めぐみお姉ちゃん、お帰り」


「ごめんね、何も買って来なかったよ」


「あ? 大丈夫。食材なら、ホレ」


 冷蔵庫の中は既に肉、魚介、野菜で満杯だった――


「あぁっ! あんがと」


「まぁな」


「今日の夕飯は……もしや?」


「鯛めしだお。ほんじゃ、炊くかんね」


「最高っ!」


 七海が炊いていると部屋中が鯛の香りで充満した――


「おうっ。この香りが溜まらんのよねぇ」


「出汁で吸い地も作ってあっから。楽しみにしてちょ」


「わーい。ところで七海ちゃんは、何も被害に遭わなかった?」


「うん。まぁ、ちょっかい出して来たら、ぶっ飛ばすだけだお」


「そっか。まぁ、何も無くて良かったよ」


「何も無くは無いんよ。何時もパンを買いに来るおばちゃんが、機嫌よくチップくれたり。何つっても、一番驚いたのは髪はひっ詰めで、スエットにダウンを着たパンの耳を貰いに来るケチケチ・ババアが、化粧バッチリで、アクセサリーなんか着けちゃって。おまけに香水まで付けちゃって。まるで別人よ?『何時ものヤツ』って言われて、何の事か分からなかったんよ。急に女になっちゃって、ビックリしたお」


「ふーん」


「でも、ビックリはしたけど普通じゃね? まぁ、ラブホの渋滞はハズいけどね」


「あぁっ! やっぱ、混んでいるんだ?」


「そりゃあ、もう、環七、環八は車が動かないから大騒ぎだお。その上、一般車が渋滞で並んでいる内に『じゃあ、俺達も』って。その気になっちゃった連中が最後尾に並ぶから、渋滞はグングン伸びるんよ」


「マジで?」


「とうとう、我慢出来ずに車の中で、おっ始めるカップルが続出だお」


「ヤングがハッスルってか?」


「路駐の車が揺れているんだお? モーレツだお?」 


「そりゃ、大変だぁ」



 

 めぐみは、西野木誠の神力の強さに圧倒されていた――






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