東京BINBINN物語。
西野木誠の神力で、東京がハラスメント解禁になったら地獄絵図が展開すると思いきや、皆、楽しそうで元気な事にめぐみは驚いた――
「そんな馬鹿なっ! ちょっと、そこの大人達っ! 子供に変な歌を教えないで下さいっ!」
「おやおや? 変な言い掛かりは止めて下さい。私達は小学生にしっかりとした性自認をさせているだけです」
「はぁ? だからって、そんな……」
「LGBTの人達の活動は応援するのに、私達は駄目なんですか?」
「いやぁ……」
「男の子も女の子も仲良く、歌って踊って楽しく過ごしているだけですよ?」
「誰かに強制したり、刷り込みなんかしていませんよ? 男の子が男の子で、女の子が女の子だと何がいけないのでしょうか?」
「いや、そんな、スケベな事を……」
「スケベなのは、あなたの心でぇ――――すっ!」
めぐみが、反論しようとしているその時、男の子が背後からオッパイを鷲掴みにした――
「きゃぁ―――――あっ!」
「お姉ちゃん、オッパイ大きいね」
「コラっ!」
「きゃっほ―――――――いっ!」
めぐみが、はしゃぐ男の子を捕まえると、大人達に囲まれた――
「子供のしたことにムキになるなんて、大人気無いですよ?」
「許してあげて下さい」
「減る物じゃないんだから。ねっ!」
「かぁ―――っ? 呆れた。もう、結構ですっ!」
めぐみは、人間にムキになっても仕方が無いと諦め、職場へと向かった――
「おのれ、西野木誠めっ! こんな事が許されてたまるかっ! ドエロ変態野郎によるエロエロ天国なんて冗談じゃないよっ!」
喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――
「はぁ……皆さん、お早う御座います」
「めぐみさん、お早うっ!!」
「おっはよう、ございますぅ、でぇ――――すっ!」
「めぐみ姐さん、お早う御座います……」
「ピースケちゃん、典子さんは元気だし、紗耶香さんはハイになっているよ」
「西野木誠の神力による物です……」
「この神社の中まで?」
「はい。先ほどまで、神職の者とパイパイ、チンコロリン、ツンツン、ニギニギ、ペロンペロンと……朝からもう、大はしゃぎなんですよ」
「なんてこった!」
「しかし、めぐみ姐さん。神力とはいえ……皆、楽しそうで和気藹々としていますよ? 笑顔が絶えないです。男が元気だと、こうも世の中が明るくなるものなんでしょうか?」
「うーむ、確かにみんな元気だし、ストレス発散している様に見えるけど……このままで良い訳が無いよ……」
「いやぁ、僕は良いと思いますよ。痴漢被害、性的虐待を一気に消し去り、性に開放的になって、気分アゲアゲなんですから」
「何か、嫌だなぁ……」
「でも、確か一週間限定ですよね? まぁ、その内、気にもならなくなりますよ。慣れですよ慣れ」
「もう、ピースケちゃんまでそんな事言うの。慣れたくないよっ!」
日も傾き、一日の仕事を終えて帰宅する時、めぐみは『冷蔵庫の中が空っぽ』だと七海に言われた事を思い出した――
「いけない、何かしら買って帰らないと餓死ずるよ」
めぐみは、スーパーに立ち寄ると、お尻を触れたりスカートをめくられたりするのではないかと疑心暗鬼になり憂鬱になった。そして、街中を通らずに多摩川沿いに自転車を走らせる事にした――
「はぁ。川沿いの風は冷たいけど、それでも、スケベな男に絡まれるよりは断然壮快だよ」
めぐみが鼻歌を歌いながら先へ進んで行くと、妙な人影が土手で蠢いていた――
「おや?」
「ダメよっ、ダメダメっ!」
「良いじゃないかぁ……」
「こんな所じゃ嫌っ!」
「じゃあ、ホテルなら良いの?」
「ダメよ……」
「ねぇ。何処のホテルも満室で、ビッグ・サンダー・マウンテン並なんだって、だから此処で良いだろ? オレのビッグ・サンダー・マウンテンは噴火寸前なんだよっ!」
「嫌っ!」
「待って!」
めぐみは、女性が乱暴されるのを見過ごす訳にはいかなかった――
「ちょっと、あんた、止めなさいっ! 嫌がっているでしょうっ!」
「何だよ、邪魔すんなよ……どけっ!」
めぐみは、男を一本背負いで土手の下に投げ飛ばした――
「ぎゃぁ―――――――っ!」
「ふんっ! お嬢さん、もう、大丈夫ですよ」
「ちょっと、あんたっ! 何が大丈夫よっ! 怪我でもさせたら責任取って貰うからねっ! 篤君、大丈夫? 怪我してない?」
「痛たた。大丈夫……」
「お楽しみを邪魔しないでよっ!」
「だって……」
‶ ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ、ガサガサササ ″
「えぇっ?」
めぐみは、騒ぎに気付いたカップルが、モグラ叩きの様にあちこちから顔を出し、こっちを見ている事実に愕然とした――
「あんだよ。デバガメかよっ!」
「おい、邪魔すんなよ、良い所だったのにぃ」
「女の癖に、覗きなんて、はしたないわねぇ」
「そぉーよっ、男が居ないからって、嫌ぁ―――ねぇ」
「チッ、行こうぜ」
めぐみは、良かれと思ってした事が大顰蹙を買うだけに留まらず、デバガメ認定された事に心が折れた――
「あぁ、もうダメ、もう無理。これこそが、神の与えし試練なのか……トホホ」
めぐみは、泣きの涙で自転車を漕ぎ、家路を急いだ。すると、天空から一筋の光りが地上を照らし、西野木誠が現れた――
「はっはっはっはっは。めぐみちゃん、無駄な抵抗は止めた方が良いぜ」
「おのれ、西野木誠っ! スポットライトを浴びてスター気取りで登場とは恐れ入りますねっ!」
「何だい? どーしたって言うんだい? これは歓迎すべき事だろ?」
「はぁ? 私は清く正しく美しく、ロマンティックな純愛路線が希望なのっ!」
「フッ。甘ちゃんだなぁ。はっはっはっはっはっ!」
「何が可笑しいのよっ!」
「切なくてキュンキュンする恋愛も、いじらしく涙ぐましい思いも……時間の経過と共に変化し続け、最終的には合体するのだっ!『男と女はふたりでひとつ』って事だ。OK?」
「何が『OK?』だっ! 節操の無い、女ったらしの遊び人がっ!」
「おっと。何度も言うようだが、男を悪者にするのは止めて貰おうかっ! 男ひとりじゃぁ……何も出来ない。女が居て初めて成立する、愛の物語なんだぜ」
「はぁ? 女も悪いって言いたいの?」
「それ程までに女は魅力的であり、男の魂を鼓舞する存在なんだと言っているのさ」
「責任転嫁は卑怯よっ!」
「分かって無いなぁ……ならば、コレを」
「コレは? 何かしら?」
「コレは、真実の姿を映し出すバーチャル・ゴーグルだ」
「何ですって? ゼイリブみたいな? マトリックスみたいな奴?」
「まぁ、そんな所だ。これで全てが可視化出来るのだ。確りと見てみるが良いぜ」
めぐみは、西野木誠に手渡されたVRゴーグルを装着した――
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