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でっかい青春っ! 掴んでみませんか?

―― 二月十三日 先勝 丁酉


「めぐみお姉ちゃん、おはよっ!」


「おはよう。七海ちゃんは朝から元気ねぇ……ふわ――ぁ、眠い。つーか、疲れが取れていないのよねぇ。ほんで今朝の朝食は?」


「めぐみお姉ちゃん、冷蔵庫の中、空っぽじゃんよ―ぉ。何も無いからベーコンエッグだお。んで、サラダ、味噌汁、コーヒー付」


「うむ。良き良き」


「つっても、めぐみお姉ちゃん、ベーコンをブロックで買うのは良いけど、中途半端に残されると切るのがムズイんよー。厚過ぎると肉感が出過ぎるし、薄いと何喰ってっか分かんねぇ――し」


「そうなんだよねぇ……おっと、ジャガイモのお味噌汁が、どストライクっ!」


「まあなっ!」


「ん? 充分に給水したキュウリのスライスに、シャキシャキのレタス、フライド・オニオンにマヨネーズは自家製かぁ……やるなぁ、七海ちゃんっ!」


「だって、良い卵だもん。ハイ、お待たせ」


「いただきまぁ――すっ! う―ん、このトロりとした卵黄っ! 半熟をキープするためにベーコンでヒート・ブロックしたなっ! むむっ! ジワリと火を通す過程でベーコンから溶け出した脂が、卵白をカリカリに仕上げているっ! この香ばしい香りと食感っ! そして、差し込む朝日と混然一体となって、美しい朝の情景を際立たせているっ!」 


「朝から、めんどくせーっちゅーのっ! さっさと、食べてちょ」


「はぁ――いっ!」


 

 めぐみは一気に平らげた――



「めちゃ旨かった。七海ちゃんご馳走様」


「フッ。空腹が一番のご馳走とは良く言ったもんだお」


「さぁ、行くかい?」


「YESっ!」



 めぐみが、七海の自転車に被せる様に止めていた為、先に道路に出して跨って待機して居る時だった――



  ‶ しゅっ! ぱっさぁ――――――――――っ !″



「きゃぁ――あっ!」


「桃色おパンツ見えちったっ! きゃっほ――――――いっ!」


 中学生と思しき少年にスカートを捲られためぐみは激怒した――


「こらっ! この、マセ餓鬼っ! 大人をからかうんじゃないよっ!」


「ひゃっほ――――――――いっ!」


 少年は笑いながら全速力で去って行った――


「めぐみお姉ちゃん、大丈夫?」


「おのれ、あんな中坊にからかわれるとは、クソっ!」


 めぐみは大通りに出て、やっと異変に気付いた――


「ねぇ、七海ちゃん……この賑わいと熱気はなんだろ?」


「アレじゃね?」


 七海の指さす方に目をやると『No Harassment in Tokyo!!!』の真っ赤な横断幕が見えた――


「あぁっ! そうだった、忘れていた……さっき、中坊にスカートを捲られたのも、西野木誠の神力のせいで間合いが取れず不覚を取ったと云う事か……ぐぬぅ、何としてでもこの神力を打ち破って平和を取り戻さなければならんっ!」


「つっても、何だか、みんな楽しそうだお?」


「えぇ?」



 めぐみは辺りを見回し愕然とした。何時もは駅へ職場へと急ぐ人の群れは、だれも無口で、車の走行音だけが無機質に響ているだけだった。だが、西野木誠の神力で朝の挨拶はお尻ペロンに置き換わり、通勤途中に仕事を忘れてナンパしている男達に呆れた――



「こ、こんな馬鹿なっ!」



 目の前を横切る女子大生が信号待ちをしていると、禿げ散らかした爺が後ろからそっとお尻を撫でた――


「さわさわ、ナデナデ……」


「ふっざけんなぁっ! この、クソ爺――――ぃっ! うぉりゃぁ――――――あっ!」


 

 ‶ パァ――――――――ンッ、ドスッツ! ボクッツ! バシッ! ″



「うぎゃぁ―――――っ! ご免なさい、助けてぇ――――――っ!」


 禿げ散らかした爺は、一目散に逃げて行った――


「ん? ちょっと、あなた達、何見てるのよ。見世物じゃないですよ」


「あっ、いやぁ、災難でしたね。でも、強いからビックリしたんですよ」


「えへへ、まぁね。全日本空手、女子の部、全国三位のこの私に舐めたマネしやがって……あぁっ! でも、何だか、スッキリしたぁ――――――っ!」


「えぇっ!?」


「だって、いやらしい目でジロジロ見られて、変な想像をされてニヤニヤされる位なら、この方がよっぽどマシよ。あなた達も男をぶん殴ると気持ち良いからやってごらんなさいよ。じゃあねっ!」


 女子大生は痴漢上等、鉄拳制裁で迎撃した事に大満足で去って行った――


「じゃ・あ・ね。って、どーなってるのよ」


「めぐみお姉ちゃん、どーも、こーもないお。皆、元気ハツラツだお? やる気満々、笑顔だお? 楽しい気分で明るい未来だお」


「七海ちゃんまで、そんな。まさかまさかの、痴漢天国やないかぁ―――――――――いっ!」


 七海は笑い、めぐみは呆然としていた。すると、そこへ一台の車が停まり、ハザードを点滅させると、運転席から声を掛けて来た――


「ヘイヘイヘイっ! そこの可愛いおふたりさん。今から僕と湘南までドライブしない?」


「はぁ? アホかっ! あんた、これから仕事でしょう?」


「真面目かっ! 空を見てご覧よ。こんなに良い天気なんだよ? お日様テッカテカだよ? 仕事なんて忘れてさぁ、遊ぼうよっ! だって、僕たちは若いんだからさ。でっかい青春っ! 掴んで握って、吸ってみないかい?」


「掴まねぇ――し、握らんわっ! ボケッ!」


「OK、僕はしつこくしないよ。可愛いおふたりさん、又、声掛けるけど悪く思わないでおくれよっ! じゃあねっ!」


 

‶ ブォン、ブォン、ブォ――――――――――ンッ ″



「しっかし、どいつもこいつも……大人がアレじゃ困ったものよねぇ」


 早朝ナンパ族は颯爽と去って行き、めぐみは七海と別れて職場へと向かった。すると登校中の小学生がスクール・ゾーンを仲良く歩いているのが見えた――



「はぁ……小学生はきちんとしているよ。まったく、スカート捲りなんて小学生がする事を大の大人がするんだから嫌になっちゃう、大人がスケベじゃ示しが付かないよ。何て言い訳する気なのかしら? 児童ポルノ、児童買春なんかが流行ったらどーする気なんだよっ!」


 

 めぐみの思いを余所に、小学生は吸い込まれる様に公園に入って行き、集まっていたお友達と合流した――


「さぁ、良い子のみんなっ! 行くわよぉ――――――――っ!」


「わぁ―――――――――――――いっ!」


 子供たちが歓声を上げると、軽快な音楽が公園に響き渡った――


「ぱいの、ぱいの、ぱいっ?」


「ちんちろりんっ?」


「ぷりん、ぷりん、ぷりんっ?」


「ぶーら、ぶらっ?」


「ぱいの、ぱいの、ぱいっ!」


「ちんちろりんっ!」


「ぷりん、ぷりん、ぷりんっ!」


「ぶーら、ぶらっ!」


「ぱぁ――いの、ぱいの、ぱい、ぱい、ぱいっ!」



 めぐみは、小学生の男女がお互いに触りっこを楽しんでいるのを見て、膝から崩れ落ちた――







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