No Harassment in Tokyo⁉
西野木誠の神力に引き付けられて集ったオーディエンスは熱狂していた。それは、狛江の何処にこれだけの人が居たのかと思うほどの人数だった――
「ちょっと、西野木誠っ! 私の答えになって無いでしょう? 男のスケベな欲望を満たそうなんて、やっぱり、あなたは女の敵よっ!」
「フッ。ひよっ子だなぁ……」
「何ですってっ!」
西野木誠は、めぐみに背を向けオーディエンスに向かって訴えた――
「皆の者、良く聞けぇ―――ぃっ!」
‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ ″
「昔の人は言った。男女七歳にして席を同じゅうせずと……そして、昭和になると男はオオカミと言われ、男女がふたりきりになると云うのは、そういう関係だと周知した。そして平成、牙を抜かれたオオカミ達は、自信を失い引きこもってしまったっ!」
‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ ″
「だが、令和の男達よっ! 明日からお前達はオオカミなんかじゃあないっ!」
‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、″
「お前は虎だっ! 虎になるのだっ!」
‶ ウオォ―――――――――――――ッ! ″
「めぐみ姐さん、まるで虎の穴ですよっ!」
「だから、答えになって無いっつ――のっ!」
「そこの女共よっ! 男が虎になったら食われると恐怖する必要は無いっ! それは、お前らにとって、むしろ朗報だっ!」
‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ ″
「男性から相手にされないと嘆く、そこのお嬢さんっ!」
「はいっ……」
「明日から君はモブじゃないっ! 君という一人の女を命懸けで奪い合う男を選別するのだっ!」
「えっ? 私がぁ? 本当ですかぁ。由美子嬉しいっ!」
「セックスレスの、そこの奥さんっ!」
「えぇっ! どうして分かったの……」
「もう寂しい夜はお終いだっ! 明日から、夜は眠れないぜっ!」
「いやぁん」
「おっと、そこのご婦人方。おばさん、ババアっ! そう言われて、言い返すのも大人げないと口を噤み、悔しい思いをしたのは今日で終わりだっ! 明日からは男が群がるっ! 忘れかけていた女を取り戻さないと、乗り遅れるぜっ!」
‶ キャァ――――――――――――――――――――ッ! ″
「ウインクなんかしちゃって、投げキッスなんかしちゃって、スター気取りかよっ!」
「フッ、めぐみちゃん。これで分かっただろ? これこそが、答えだっ!」
「分かんねぇ―――しっ!」
「青い青い。男の性欲は無限大っ! 生きる活力その物だっ! 男が何時だってビンビンでギンギンなら女は大満足で張り切って毎日を生きて行けるのだっ! それを封じ込め、性欲が有る事を恥じる様な空気を醸成する輩こそ邪神であり、悪神の仕業なのだぁっ! つまり、男の性欲がぁ、子宮を救うのだぁ―――――っ! 」
‶ ウオォ―――――――――――――ッ! ″
‶ キャァ――――――――――――――――――――ッ! ″
「めぐみ姐さん、これはヤヴァイですよ」
「ピースケちゃん、そんな都合の良い話ある? 愛は地球を救うみたいな?」
「オレが来たからもう、安心だと言っただろ?」
「自分の妻を満足させられない癖にっ! そんな男に、何が出来るのよっ!」
「あ、うぬっ…………」
「ちょっと、めぐみ姐さん。それを言ってはダメですよぉ。西木野誠が落ち込んでいるじゃ無いですかぁ……」
西木野誠は酷く落ち込み、痛々しさを感じさせた。だが、立ち直りは早かった――
「妻は夫とヤリたいがぁ――、夫は――ぁ妻とヤリたく無いっ! って唄知っているかい?」
「知るかっ! そんな、虫の良い事を言ってるんじゃないよっ!」
「なぁ、めぐみちゃん。分かるだろ? 木花咲耶姫だよ? ドMでドSの萌絵ちゃんだよ? 起つ以前の問題なのだっ! 男は萎えるっ! 鬱になるのだっ!」
「男の癖に、言い訳がましいなぁ……」
「そうやって、直ぐに男を悪者にするのは良く無いなぁ」
「だって……」
「いいかい、オレは萌絵ちゃんひとりの物じゃぁないんだぜ。それは、つまり、このオレは全ての女性の物だと云う事なのだっ!」
‶ キャァ――――――――――――――――――――ッ! ″
「めぐみ姐さん、西木野誠は、時にオーディエンスに呼びかけ、賛同を得ていますっ! 劣勢ですっ!」
「クソっ!」
「まぁまぁ。めぐみちゃん。明日からの東京に期待をするんだな。さらばだっ!」
西木野誠が天へ消えると、狛江の住民達も帰って行った――
「そして、誰も居なくなりましたね」
「まるで、夢か幻の様ね……」
「『明日からの東京に期待をしろ』って言ってましたけど……」
「期待なんか出来る道理が無いでしょうっ!」
「でも、聞いちゃったんですよね……」
「何を?」
「集まっていた女性達が怒るどころか、支持をしていたでしょう?」
「そう言えば……うん」
「高齢者は浅黒く精悍な姿に『いよっ、若大将!』って。他の中年のおばさん達は『ジュリーみたいにセクシーっ!』 『ショーケンみたいで格好良い』って。一瞬で抱かれたい男ナンバー・ワンに躍り出た訳です」
「女を捨てた昭和世代ならともかく、平成世代までウケていたけど……」
「その結論は、明日以降にハッキリするでしょう」
「明日からの東京は阿鼻叫喚だよ、地獄絵図が展開するに決まっているよ……」
めぐみは、明日からの東京が『痴漢、婦女暴行、性的虐待』のオンパレードになる事を思うと胸が苦しくなった。そして、食欲も失せてしまい、結局、何も食べずに帰宅した――
「ただいまぁ……」
「めぐみお姉ちゃんお帰りっ!」
「あ。七海ちゃん、来てたんだ……」
「うん。来ちゃ悪かったん?」
「いいや……」
「どうかしたん?」
「まぁね。七海ちゃん、明日から変態だよ」
「大変だって事?」
「そうとも言う」
「何がよ?」
「男が虎になるの。ケツの穴よ」
「マジで? リアル変態だお」
「だから、七海ちゃんも気を付けてね。何をされるか分からないからねっ!」
「どーゆう事?」
めぐみは、狛江駅で起きた西野木誠事件の経緯を七海に話した。すると、何故か急にお腹が空いて、七海の作ってくれたお茶漬けを美味しそうにサラサラと平らげた――
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