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男子諸君! ハラスメントを晴らすのだっ!

 めぐみは一日の仕事を終え、ピースケと共に帰路に就いていた――


「はぁ。しかし、ちょっと戦前に行った位で、こんなにゲッソリ……」


「めぐみ姐さん、その上、帰って来た途端に萌絵ちゃんですからね。そりゃぁ、疲れますよ。美味しい物でも食べて、ゆっくりお風呂に入るんでしょ? 今は休養が大切です」


「そうね。やっぱ、寄り道して美味しい物をたらふく食べるとしようっ!」


「おっ! それなら、お供しますっ!」



 夕暮れ時の街は、買い物客と帰宅途中の学生やサラリーマンで賑わっていて、寒さを忘れさせる程だった――



「さぁてと。どうしようかなぁ……」


「今夜のプランは?」


「うむ。超大盛の豚バラチャーハンに餃子を六個、それをタンメンで胃袋に流し込むか……はたまたビッグ・ハンバーグにドミグラスソースとホワイトベシャメルの合い掛けでレッドチェダーにシャンピニオンかなぁ……いやぁ、悩むなぁ……」


「でも、ハンバーグと云うより、超絶旨いコーン・スープが目当てだったりしませんか?」


「あっ! バレた? そうなのよねぇ……うーん」


 めぐみが優柔不断になってキョロキョロしていると、ピースケの目に飛び込んで来たのは西木野誠だった――


「めぐみ姐さんっ! アレは……」


「に、西木野誠っ? 此処で何をしてるのかしら?」


「何って、めぐみ姐さん。アレはどう見てもナンパですよ、ナ・ン・パ」


「おいおい……」


 西木野誠が声を掛けると女は振り向き、頬を染め目を潤ませた――


「ちょっと、ピースケちゃん。神力使ってナンパは酷くね?」


「いやいや。神力では有りませんよ……マジでガチでナンパしてますよ」


「うわっ! ケータイの番号交換しているっ!」


「どうやら、女性の都合に合わせたジェントルなナンパの様です」


「ナンパにジェントルもクソも有るかぁ―――いっ!」


「めぐみ姐さん。神力を使えばホテル直行待った無しっ! チョイ悪andイケオジ風で危険な男の色香を撒き散らしながら、実はジェントルで優しい……」


「キャップ萌えなのかっ!」


 西木野誠は後方のピースケとめぐみに気が付いた――


「おっと、また会うなんて奇遇だね」


「奇遇だなんて、悠長な。萌絵ちゃんに見つかったら大変ですよっ!」


「え? 萌絵ちゃんに鞭使ったら変態ですよ?」


「言ってねぇ―――しっ!」


「あっはっはっは、冗談だよ。そう、ムキになるなって。でも、めぐみちゃんはムキになった顔も、可愛いよっ!」


 ‶ キラキラキラ――――ンッ ″


「その浅黒い肌で白い歯を光らせんなっ! LEDでも入ってんのか? だんだん腹立って来たっ!」


「フッ。そんな風に怒った顔がまた愛くるしいねぇ」


 西木野誠が顎クイをしたので、めぐみは顔が真っ赤になった――


「止めて下さいっ! こんな所を萌絵ちゃんが見たら卒倒しますよっ!」


「心配御無用。オレは妻公認だから」


「何ですってぇ? 嘘をついてもダメですよっ! そうやって女を誑かして。あなたの女癖のせいで、どれだけ萌絵ちゃんが苦しんでいるのか分からないの? あんたなんて最低よっ! 女の敵よっ!」


 めぐみが思わず大声で叫んだ為、三人の周りには何時の間にか人垣が出来ていた。そして、ザワついた――



 ‶ ザワザワザワザワ、ザワザワザワ、ザワザワ ″



「めぐみ姐さん、注目の的になっていますよ」


「あら、いやだ……」


「このオレが女の敵だって? 逆、逆。分かって無いなぁ……ならば、こちらにお集まりの皆さんに聞こうではないか。そこのお嬢さん、あそこのイケメンが君に微笑みかけたら?」


「えっ、私ですか? えっと‥‥‥嬉しい? ドキドキする? 感じちゃう」


「ならば、あちらのブサメンが微笑みかけたら?」


「うぐっ……怖い、キモい、恐ろしい。この人、痴漢ですってなる」


「そう。つまり、それは差別だぁ―――――っ!」



 ‶ ザワザワ、ザワザワザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ ″



「だって、人間だから……誰だって好みも、感情もあるし」


「好みや感情で他人を侮辱し、傷付けても良いと云うのか?」


「いやっ、それは良くない事ですけどぉ……」


「好みや感情などと云う物は……移ろい易いものだ」


「でも……」


「良く聞けっ! 女共っ! この世の全ては神が創造物なのだっ! イケメンもブサメンもチビもデブも関係が無い。神の創造物にケチを付け、選り好みをし、あまつさえ 『生理的に受け付けない』とは何事だぁ―――っ!」



 ‶ ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ、ザワザワザワ ″



「そんな、無茶な……」


「『個性を伸ばす、個性を大切に』などと綺麗事を言いながら、神が与えし個性を軽んじるなど、言語道断だぁ―――――っ!」



 ‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ ″



「めぐみ姐さん、何時の間にかオーディエンスの数がハンパじゃないですよっ!」


「ありゃ、これ、どーなってんの?」



 ‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ。ゴゴォ、ゴォ、ゴォ、ゴォゴォ―――――――ッ ″



「男子諸君っ! 毎日毎日、ハラスメントにハラハラしているんじゃぁないかっ!」



‶ ウォ――――――――――――――――――ッ! ″



「オレが来たから、もぉ――――――ぅ、安心だぁっ!」



‶ イェ――――――――――――――――――ィッ! ″



「明日からは、セクハラ、パワハラ、モラハラ、全てのハラスメントを神力によって晴らぁ―――すっ!」



 ‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ ″



「あ、あのぉ。す、すみません。ハラスメントを晴らすって……具体的にはどう云う事なんですか?」


「うむ。良い質問だぁ。つまり、明日からの一週間は何をやっても良い。全てが神によって許されるのだっ!」



 ‶ ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ、ザワ ″



「それなら、総務部の良子さんのお尻を触っても?」


「モチOK!」


「じゃあ、綾香先生のオッパイを触っても怒られませんか?」


「あぁ。怒られるどころか、まいっちんぐぅ―――――だぁ!」



 ‶ ウォ―――――――――――――ッ! ウォ―――――――――――――ッ! ウォ―――――――――――――ッ! ウォ―――――――――――――ッ! ″



「ピースケちゃん、野郎共が、調子ぶっこいてるよっ!」


「めぐみ姐さん、あれを見て下さい。その一方で、強引な男の姿に女性達がうっとりとした目で見つめていますよ……恐るべし、西木野誠っ!」


「ありえへんって……」



 めぐみは、欲望に忠実で性欲の権化となった西木野誠に圧倒され、閉口した――











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