待ち人来る、思い人あり。
めぐみは、ふたりが正装して出迎えている事を不思議に思った――
「ようこそ、めぐみ様ぁ」
「お久し振りですわぁ」
「な、何よ、そんな恰好で? ヤケに手厚い歓迎ね」
「うふふふふふふふ……」
「きゃははははははは……」
「あんた達、気味が悪いわよ……」
「めぐみ様ぁ。さぁ、この面会許可書にぃ、サインをして下さいねっ!」
「あぁ、コレ? えっと、この面会者の欄で良いのね?」
「はぁ―――――い」
めぐみがサインを書き終えると、夕子がすかさず取り上げた――
「はい、貰ったぁ―――――っ!」
「よっしゃ――――っ!」
「あっ。あんた達、何か企んでいるわねっ!」
「ふんふん。もう、サインを頂きましたのでぇ、ネタバレしますとぉ」
「秋元様の旦那様はぁ、未だ完全な死者では―――ぁ、無いんですねっ!」
「完全じゃないって、どー云う事?」
「実はぁ、ちょっと、問題が有りましてぇ、天の国では完全な死者として登録されていないんですねっ!」
「で? まさか、それを私に解決しろと?」
「えへへへ」
「へけっ!」
「ダメダメ、そんな可愛い子ブリっ子しても無駄。兎に角、君子さんの旦那さんに会って、迎えに行って貰わなきゃ……って、もしや?」
「その、もしやなんですぅ――――っ!」
「ヨロシクお願いしまぁ――――すっ!」
「ヨロシクって……」
「めぐみ様ぁ。君子様の旦那様はぁ、思いを残したまま死んでいるのでぇ、完全じゃ無いじゃないですかぁ?」
「その思いをぉ、果たしてぇ、綺麗サッパリ地上生活に別れを告げてぇ、完全な死者として登録しないとぉ、お迎えには――――ぁ、行けないんですねっ!」
「わぁ――ぉ。そう来たか……完全な死者として登録されていないからお迎えには行けない、何も出来ないと云う訳ね……」
「はいっ!」
「へけっ!」
「あぁ……ねぇ。んじゃ、帰る」
「ダメですよぉっ!」
巫女twin’zは慌ててめぐみの前に立ちはだかった――
「どいてっ! あのさぁ、迎えに来て貰えれば解決すると思った私の間違いだから。最適解はコレじゃ無かったの。ほな、さいならっ!」
めぐみが軌道エレベーターに向かって走り出すと、巫女twin’zは神楽鈴を鳴らした――
‶ シャリ―――――ン、シャリ―――――ン、シャリ―――――ン ″
すると、辺りは真っ白い雲に覆われて何も見えなくなった――
「ちょっと、あんた達。何をするのよ、何も見え無いじゃないのっ!」
「うふふふふふふふ。うふふふふふふふふふ」
「きゃははははははは、あはははははははは」
どうっと風が吹いて白い雲が消えると、めぐみは「死者のゾーン・分室」の前に立っていた――
「巫女twin’zめっ、図りやがったなぁ……」
めぐみに気付いた分室の事務員が入り口の小窓を開けて声を掛けた――
「ちょっと、そこのあなた。登録ですか? 面会ですか? 引き取りですか?」
「あぁ、面会ですぅ……」
「誰と? 早くしてよ、忙しんだからさぁ」
「あぁ、えっと……」
「許可書はっ!」
「あぁっ、サインはしたのですが、巫女twin’zに取り上げられまして……」
「え? 巫女twin’zの案件? ふんっ、それを先に言いなさいよっ! なら、確認済みだからサッサと中へ入って。あっ、手短にお願いしますよ。長っ尻は御免ですからねっ!」
「はい、分かりましたぁ……チッ、更年期かよ、ババア」
‶ バキュ―――ンッ! ズダァー―――ンッ! ドゴォ―――――ンッ! ″
「ひい―――ぃっ!」
「何か言った?」
「いや、何も……」
「チッチッチ。聞こえてるわよっ! お前さん……命拾いをしたねぇ? 初めてだから大目に見てあげるけど、ババアに『クソ』付けた奴等は全員、墓石の下でおねんねよ……でもね、今度『ババア』と言ったら、その可愛い顔に風穴が空くよっ!」
「はっ、はい、すみませんでしたぁ……」
めぐみは、分室の脇の扉を開けて中へ入った。そして、天の国にもこんなにクセの強いババアが居る事に驚いていた――
「ふぅっ。しっかし、今時コルトSAAを抜く? しかも、早撃ちに拘ってカスタムしたスペシャル・オーダーの逸品だよ、あのバ……」
‶ バキュ―――ンッ! ″
「ひぃっ! ババロアが食べたいって言おうとしただけですぅ」
「ババロア? ババアじゃないのねっ! じゃぁ、許してあげるわ。それから、私の名前は宍戸レミ。レミさんって、お呼びなさいっ! 分かったわね?」
「分かりましたぁ。おっかねえなぁ……」
「あのね。秋元は、茶色いハリス・ツイードのジャケットを着たあの人よ。サッサとお行き」
「あっ、はい。有難う御座います」
めぐみは、ツンデレババアに殺される前に此処を出なくては、君子の旦那の思いを果たせないと思った――
「あのぉ、秋元保さんですか?」
「はい。秋元保は私ですが。あなたは?」
「申し遅れました、私は鯉乃めぐみと申します。君子さんの事でお話が有るのですが?」
「君子は私の妻ですが、何か?」
めぐみはコレまでの事情を手短に話した――
「そうですか。癇癪持ちになって、周囲に八つ当たりをしているとは思いませんでしたよ……さぁ、早く迎えに行ってやらないと」
「いやっ、君子さんを迎えに行って欲しいんですけど……それは、死者にしか出来ないのです」
「えぇ? 死者って、私はとっくに死んでいますが?」
「秋元さん。死者は使者でも有るんですよ。何か、思いを残したまま死にましたね? その思いが果たせないと、天の国では死者の登録が出来ないのです」
「そうなんですかぁ? あっ、そうか、分かったっ! それで私は先祖や友人達と会えないのですね?」
「はい。なので、そのぉ……思い残した事を、話して頂けませんか?」
秋元は口を真一文字にして瞼を閉じた。そして、暫く考え込んで大きく息を吸って鼻から「ふ――んっ」と吐いた―
「実は、君子には思い人が居ましてね……」
「思い人って……?」
「許嫁が居たんですよ」
「許嫁って……本人の意思を無視して親同士が決めた物ですよね?」
「ええ。でも、ふたりは相思相愛だったんですよ。君子の実家は菓子司、老舗の和菓子屋でねぇ。そこに丁稚奉公に来た笹岡正次郎と云う者を、君子の父さんは甚く気に入って、跡取りにすると決めたんです」
「まぁ。よほど、気に入られたんですね」
「えぇ。そりゃあ、もう、息子が三人居たのにも関わらず、そう決めたんですからねぇ。何でも、口減らしで東北の片田舎から出て来たそうなのですが、底抜けに明るい性格と、どんなに辛い仕事ても音を上げないど根性に惚れ込んだそうです……」
めぐみは、君子の「思い人」が秋元の心に深く刻まれている事を、不思議に思った――
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