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早く迎えに来ておくれ。

 ―― 二月十一日 大安 乙未


 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「おざっすっ!」


「めぐみさん、お早う……」


「めぐみさん、お早う御座いますぅ」


「めぐみ姐さん、お早う御座いますっ!」


 めぐみは、何時もの様に朝の挨拶をしたが、何故か典子の元気が無かった――


「ちょっと、ピースケちゃん。典子さん元気が無いみたいだけど……昨日あれから何か有ったの?」


「めぐみ姐さん、二次会も大盛り上がり大会で、スーパー・ハイ・テンションでしたよ」


「なら、何で典子さんはあんなに元気が無いのよ?」


 そこへ、紗耶香が割って入った――


「めぐみさん、典子さんはぁ、朝一番でぇ、昨日の売り上げのぉ、確認をしたんですよぉ」


「ああっ。思ったほどではなかったとか?」


「めぐみ姐さん、昨日の人出は例年の十五倍、全てがSOLD―OUTですよ?」


「それなら、売り上げは良かったんじゃないの?」


「そうなんですけどぉ、そうじゃないんですよぉ」


「はぁ?」


「典子さんはぁ、売り逃した事をぉ、悔やんでいるんですよぉ」


「エグイなぁ……」


「準備が完璧ならぁ、後、三百万かぁ、五百万行けたかもしれないってぇ、自分を責めているんですよぉ」


「うむ。旺盛な責任感が己を苦しめているのですね」


「もう、お金儲けにぃ、憑りつかれているんですよぉ」


 今度は典子が割り込んだ――


「皆さんっ! この雪辱は祈年祭で果たしますからねっ! 私っ、負けないからっ!」



 日も傾き始め、冷たい北風が参道を吹き抜けると、黒塗りの車が喜多美神社の駐車場に停車した。降りて来たのは麗華に頼まれて君子を送り届けた瞳だった――



「こんにちは。めぐみさんは居るかえ?」


「あっ、瞳さん。こんにちは」


「ちょっと話が有るだよ」


「はい……」


 瞳は何時に無く神妙な面持ちだった――


「あのぉ、瞳さん。昨日は有難う御座いました……話と云うのはその事……ですよね?」


「うむ。めぐみさんは物分りが良いだ。話が早いだよ」


「君子さんは、あの通りの癇癪持ちだから、瞳さんも……大変だったでしょう?」


「うんにゃ。オラには、なんて事はねぇだよ」


「え? そうですか? う―ん、年齢的に近いからですかねぇ……」


「めぐみさん、君子さんに比べりゃぁ、オラはまだ若いだよっ!」


「あっ、ごめんなさい」


「がっはっは。謝らなくても良いだよ」


「瞳さん、てっきり私は君子さんが癇癪を起して手が付けられなくて困っているのかと思っていましたが……話と云うのは?」


「うむ。それが……昨日、看病していると『もう大丈夫ですから、お引き取り下さい』って、何度も何度も申し訳なさそうに頭を下げるものだから、仕方無く帰る事にしただよ」


「えぇ。それが?」


「ところが、オラは家を出て車で走り始めてから気が付いただよ。体温計やら鎮痛剤なんかを入れた小さなカバンを忘れてしまっただ。そんで、慌てて引き返して取りに戻っただよ。そうしたら……あの、君子さんってぇお人は、仏壇の前で手を合わせていただよ」


「何か問題でも?」


「『お父さん、早く迎えに来ておくれって』って言っていただよ」


「あらららら……」


「それだけじゃねぇだ。あのお人は、泣いていただよ……」


「どうしよう……」


「めぐみさん。オラの見立てはよぉ……気丈に振舞っているけんども、あれは嘘だな。憔悴しきっていて苦しそうだっただよ。泣き顔を見られまいとする仕草がそれを伝えていただよ。ありゃぁ、放っておくと……何をするか分からねぇだよ。オラは心配だぁよ。めぐみさん、君子さんの事を、麗華お嬢様にも『くれぐれも宜しく』と頼まれちまったからよぉ……気に掛けてやってくれろ。頼むだよ」


「あっ、いやぁ……私が、ですか?」


「他に誰か居るかえ?」


「……分かりました」


「うむ。やっぱり、めぐみさんは物分りが良いだよ。オラもちょくちょく覗いてやっから、よろしくな。ほんじゃぁ、帰るだよ。さいなら」



 瞳は神恩感謝をして参道を去って行った。めぐみは「気に掛けてやってくれ」と言われても、どうしたら良い物かと思案した――


「参ったなぁ……打つ手なんか無いしなぁ……君子さんに会っても、なんて声を掛けて良いのやら。共通の話題も無いし……迂闊に話をしたら、逆にコテンパンに叱られそうで怖いしなぁ。出来れば会いたくないんだよなぁ……そうだっ! 君子さんはおしどり夫婦だったらしいから、旦那さんに会って『迎えに行って下さい』と頼むのが最適解だよ」



 めぐみは懐のケータイを取り出して天の国に連絡をした――



 ‶ ピロリロロン ピンッ! ようこそ、chatGPTへ。さぁ、新しい時代の扉を、今直ぐ開けようっ! ″



「この下り居る?」



 ‶ はぁ――い、Navigatorはぁ、chatGPTのマスコット・キャラクターの『巫女twin’z』でぇ――――――すっ! 地上名はぁ、夕子と、弥生でぇ――――――すっ! ″



「あんた達、もう、分かったから、知ってるから。そんな事より、秋元君子さんの旦那さんが死者のゾーンに居る筈だから、面会をしたいの。許可を出してちょっ!」



 ‶ はぁ――い、えっと、秋元様の旦那様とぉ、面会ですねっ? 畏まりましたっ! 今、確認しまぁ――すっ! ″



  ケータイから巫女twin’zの内緒話が薄っすらと漏れて聞こえた――



 ‶ どうする? どうもこうも、もう良いでしょ? めぐみさんが何とかしてくれるよ。 そうね、この際だから、もう良いよね ″



「お――い、あんた達、何話しているの? 聞こえているよっ!」



 ‶ えっと、はい。確認が取れましたっ! 何時でも軌道エレベーターに乗ってぇ、来て下さいねっ! ″


 ‶ お待ちしておりまぁ―――――すっ! ″



「OK、まぁ、何でも良いよ。じゃあ。後で行くからヨロシクっ!」



 めぐみが仕事を終えて軌道エレベーターで天の国に到着すると、白い小袖の上に千早を羽織り、頭には前天冠まえてんかんを着け、長い黒髪を後ろで絵元結にした巫女twin’zが出迎えた――





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