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主婦の怒りはジワるのよぉ。

 木花咲耶姫コノハナサクヤヒメと仲の良い珠美は酷く落ち込んで、まるで自分が傷付いている様だった――



「まぁ、親友のためとは言え、あんたが私に頭を下げるとはねぇ……」


「めぐみ姐さん、瓊瓊杵尊ニニギノミコトの女癖を治す事は出来ないのでしょうか?」


「はぁ? 出来る訳が無いでしょうよっ! 兎に角、萌絵ちゃんとは出来るだけ関わりたく無いの。『また意地悪をしに来るから。ヨロシクっ!』なんて、勘弁して欲しいのよねぇ……」


「申し訳ない……」


「だからぁ。別に、あんたが謝る事じゃないでしょう?」


 両手で顔を隠して蹲り、今にも泣き出しそうな珠美と、冷めた目で見るピースケ――


「あっ、何……? ふたりして、そういう目で見るんだぁ……なーんか、私が悪いみたいな? 薄情者決定戦総合優勝みたいな? 何だか、だんだん腹が立って来たっ!」


「ビンゴっ! それっ! 今のその感じが、主婦の萌絵ちゃんの心境なんだよなぁ。分かって貰えて良かったぁ」


「勝手に丸く収めんなっ! 大体ねぇ、気に入らないなら離婚すりゃ良いでしょう? 子供じゃあるまいし、周りに迷惑掛けんなっつーのっ!」


「いやいやいやいや……いくら何でも離婚は無理ゲー。出来無いっしょ」


「何が? 今時、離婚なんて日常茶飯事、ペライチの紙切れに判を押すだけでOKよんっ!」


「そんな、軽く言わないでよ……」

 

「緑のインクでスパッとお別れよぉ。後は、冷めた紅茶を飲み干して、ふたりでドアを閉めて、ハイ、それまでぇよぉ――」


「ふざけやがって、この野郎っ! 泣けて来るぅ。うえぇ―――――んっ!」


「泣くなよ、男だろ?」


「女だわっ!」


 珠美の目が真剣に怒っていたので、めぐみも意地悪な自分を反省した――


「まぁまぁ。また、意地悪に来たら相手くらいしてやんよ。心配すんなって……」


「本当にぃ?」


「おぅ。だけど、基本的に関わりたくないから。萌絵ちゃんの家庭の事情は聞かなかった事にしてね」


「うん。分かった」



 一時、緊張した場面が有ったとは言え、萌絵ちゃんのお陰で初午祭は大盛況の内に終わった――



「皆さぁ――ん、お疲れさまでした。正確な数字は明日になるけどぉ、全てが完売、SOLD-OUT! 増税、増税、又、増税の令和の今っ! 喜多美神社はひとり奇蹟の急成長っ! ハッキリ言って、儲かって、まぁ――――――――すっ!」


「うぇ――――――――いっ!」


「笑いがぁ、止まらないんですよぉ!」


「想像の斜め上を行ってますね。凄いっ!」


「皆さん、『勝って兜の緒を締めよ』気を緩めずに、この調子で祈年祭まで突っ走るわよっ!」


 

 ‶ イエ―――――――――――――――――――――――――――ィッ! ″



 典子に連れられて打ち上げに行くと、何時もの居酒屋では無く、高級なステーキハウスでシャトーブリアンと伊勢海老と共に極上のワインが振舞われた。何時もなら上機嫌になる食いしん坊のめぐみだが、萌絵ちゃんと君子の事が気になって心から食事を楽しむ事が出来ないまま帰宅する事となった――




「あれ? 真っ暗だ。七海ちゃんは来ていないのか……あぁっ『打ち上げで遅くなる』って言ったのは私かぁ……ふぅ」


 部屋に入ると異臭がした――


「うあっ! 生ゴミ出すの忘れてたよぉ。はぁ……何やってんだかなぁ」


 部屋着に着替えて洗濯機を回しつつ、お風呂にお湯を溜めながら、洗濯物を取り込んだ――


「あーぁ。軽く夜露で湿っているし……」


「めぐみお姉ちゃん、ただいま」


「おっつ、七海ちゃん。お帰りっ!」


「早かったね」


「うん。二次会は参加しなかったの」


「ねぇ、打ち上げは、松井亭でステーキだったんでしょ? アレは? 何処? 早くぅ、お腹空いちゃったお」


「ほぇ? アレって何? 何の事やらサッパリ」


「松井亭のビフカツ・サンドっ!」


「はぁ……」


「まさか……!?」 


「あぁ……そう云えば紗耶香さんが『お土産が有る』って言っていたけど……お腹一杯だから断っちゃった」


「えっ、嘘だろっ! ちょっ、手ぶらかよっ! やってらんねぇ――しっ! 松井亭のビフカツ・サンドは究極にして至高、その希少性から通常のメニューには載って無いんだお? 特選コースを食べた人しか、お持ち帰りの権利が無いんだおっ! この貴重な機会を逃すなんて……信じらんないおっ! 使えねぇ――なぁ、アホかぁ―――――っ!」


「だって……」


「もう、良いっ! めぐみお姉ちゃん、お風呂入っている間に陳珍楼で豚まん買って来て」


「私も、一緒に風呂に……」


「こっちは、朝から何も食ってねぇっつ――のっ! あぁ、夢にまで見た松井亭のビフカツ・サンドを食べながら美味しいコーヒーでも飲んで、まったりするのを楽しみにしていたのになぁ……」


「分かりました。買って来ますぅ」



 めぐみは、炊事、洗濯、掃除にゴミ出し、買い物に苦情の対応まで毎日こなす主婦の気持ちを理解した――


「萌絵ちゃんも大変なんだなぁ……その上、旦那が外で遊び放題じゃ、尚更かぁ……あっ、今、何時だろ? おっと、もう、こんな時間かぁ……」


 その時、めぐみは閃いた――


「そうだ、このクロノ・ウォッチで時間を戻そうっ!」


 時間を設定すると自転車にブルートゥースで繋がった――



 ‶ CONNECTED! ″



「おぉっ! 自転車で行けるのね。ラッキー」


 設定の最小は「ひと漕ぎ一日」だったので一瞬で着いた。こうして、めぐみはビフカツ・サンドを手に帰宅した――



「うっわぁ―――――ぉおっ! 陳珍楼の豚まんかと思ったら、松井亭のビフカツ・サンドだぁ―――――っ! ひゃっほ――――いっ! やった―――っ! めぐみお姉ちゃん、明日はホームランだおっ!」


「フッ、まぁな。一応、神様だから。私、やるときゃ、やるんで」


「美味ひぃ――――――――――いっ! グラタンコロッケバガーみたいな全部粉の嘘物とは別次元だおっ! 七海っ! カンゲキぃ―――――――――っ!」


「うーむ。確かに牛肉をパン粉で揚げてパンで挟んでいる訳だが……コレは旨いっ! 溢れ出す肉汁をたっぷりとソースを含んだ衣が迎え打ち、混然一体となり、さりげなく辛子バターを塗った食パンが牛脂の香りを優しく包み込んでいる……こ、コレは、別腹案件だぁ――――っ!」


「A5ランクの牛の旨さを堪能するには、意外とビフカツ・サンドが良いんだって、父ちゃんが言っていたんよねぇ。マジ、鉄板だぜ」



めぐみは主婦の萌絵ちゃんの立場を理解しつつも、七海との食事が息抜きになり、一気にメンタルが回復しているのを感じていた――








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