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銭湯で戦闘モードにさようなら。

 美織はアパートに帰る前にコインランドリーに寄って、汚れた作業着を洗濯中に銭湯に行く予定だった――


 洗濯物を放り込み、コインランドリーを一歩出た時「総長!」と声がして振り返ると、そこには七海と自転車を引いためぐみが居た――


「七海! 元気そうだなっ、パン屋はどうだ? 辛いか? どうでも良いけど、総長って呼ぶなっ、解散したんだからよっ!」


「総長、会いたかったよっー、でもさぁ、あいつ等が捜し回っている。あっシも駅前でフクロにされて、金を盗られそうになったよ……ヤバいよ」


「チッ、工事で全国回ってんのに、久しぶりにヤサに戻ってみればそんな事かよ。しつこい野郎だ、確りケジメつけてやるから安心しろっ! けど、七海を狙うとは許せねぇなぁ、大丈夫か?」 


 七海は指を差した――


「めぐみ姉ちゃんが、やっつけてくれたの。全員、投げ飛ばしたんだよ!」


「こんばんは。初めまして、鯉乃めぐみと申します。よろしくお願いします。お噂は七海ちゃんから聞いております。総長さんは面倒見が良いですね」


 美織はめぐみの立ち姿に只物では無いと感じた――


「こんばんは。って挨拶がカテぇーな! あたいは相田美織。こっちこそ、よろしくな! 七海の面倒見てくれてあんがとよ、でも、総長って呼ぶのは止めてくれ、もう解散したんだから……」


 七海は美織の顔真似をして言った――


「一度しか言わねぇーかんな! もう一度言ったら、ぶっ飛ばすゾっ!」


「そんな顔して言わねーよっ! もう総長じゃねぇーんだからよっ! めぐみさんの前で恥ずかしいだろっ! あっははは」


 そう言って笑っていたが、めぐみが放つ殺気のオーラを敏感に感じていた――



 何人かの少年が街に戻った美織がコインランドリーにいる事を仲間に連絡し、遠くから見張っていた――


 少年達はコインランドリーが防犯カメラを増やした事を知っていて、映像から足が付くことを恐れ、襲撃をしなかった――


「仕事帰りで、今から銭湯に行くからさ。七海、またな! めぐみさん、さよなら」


 美織は七海とめぐみに別れを告げその場を去った――


 そして、暗闇に向って吠えた――


「何をチョロチョロやってんだ、小僧っ! 隠れてんじゃねぇーよっ! 出て来い!」


 少年達は三人組で、ふたりは美織にビビッて硬直したが、ひとりが前に出て来た――


「久し振りだな、総長! こっちの動きをお見通しとはな……お前、指名手配されてっから、もう逃げらんねぇーゾ! 覚悟しろ!」


「はっはっは! 誰が何時、逃げたんだよっ! はあぁ? 逃げたのはテメェーらの方だろうがっ! 勝手に話作ってんじゃねぇ―ゾ、タコ!」


 その迫力に、少年達は逃げられない恐怖に落ちた――


「おい! お前ら。あのチキン野郎に言っておけっ! 相田美織は逃げも隠れもしねぇ! 何時でも勝負してやっから! 指名手配だリターン・マッチだの、調子に乗ってんじゃねーゾっ!」


 少年達は速攻で逃げて行った――



 美織は銭湯に着くと、一日の汗をシャワーで流し、身体と髪を洗い、大きな風呂に身を浮かべた。そして、同時に喧嘩の立ち回りを思い浮かべてイメージ・トレーニングをしていた――


「あの野郎、チョッと街を留守にしたら調子に乗りやがって、七海に手を出すなんて、絶対に許せねぇ、仲間の前で『ごめんなさい』させて『二度と手出しはしません』て言わせてやっから、待ってろ!」


 そう言って、大きな風呂に頭まで沈めた時だった。瞼を閉じているのにめぐみが見えた――


 慌てて、大きな風呂から顔を出し、辺りを見回したが、めぐみは居なかった――


「めぐみさん……って、一体何者なんだろう? あの殺気は何だったんだ? あれが無かったら、彼奴等あいつらにも気が付かなったと思うと……ヤバい感じがハンパ無い。勝てる気がしねぇつーか、喧嘩する気にもならない相手だ。何だろう、あの感じ……」



 大きな風呂で充分、身体を温めると露天風呂に浸かった――


「ふぅーっ! 極楽、極楽。」そう呟いて空に目をやると、美織は耕太の事を思い出してしまった。星達がキラキラと輝いて美織の恋を応援して居る様だった。一瞬で「恋する乙女」に戻ってしまった――


 怒りの喧嘩モードからトキメキの恋愛モードに入ってしまったら、喧嘩には勝てない事を身をもって知っていたから、耕太の事を忘れ、振り切ろうとした。



 しかし、それは――無駄な努力だった――


 露天風呂から出て、改めて身体と髪を洗うとシャボンの泡が耕太に見え、脱衣所で身体を拭いて扇風機にあたれば、風の音が耕太の囁きに聞こえた――


 用意しておいた綺麗な服に着替えると、銭湯を出て呟いた――


「喧嘩無用! ……とはいかねぇんだよ。勘弁してくれよっ! 恋心!」


 天空の星達がキラキラと輝き、笑っている様だった――




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