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薔薇じゃなくて、桜だろっ!

 興奮した老婆が意識を失い倒れた事に周囲の参拝客はどよめいた。そして、君子を知る近所の人達は「遂に逝った」と確信した――


「皆さん、御心配は要りません。気を失っただけですから直ぐに意識も戻ります。そこの巫女さん、このお方を社務所へ連れて行って休ませて下さい」


「あぁっ、はい……」


 めぐみはピースケに君子をおんぶをさせると急いで社務所へ向かった。すると、参拝客は皆、木花咲耶姫コノハナサクヤヒメの美しさに目を奪われ、優しい気遣いにうっとりして君子の事などすっかり忘れていた――




「よっこいしょっと。ふぅ……」


「ピースケちゃん、お疲れ様」


「めぐみ姐さん、お婆さんでも意識を失うと重たいものですねぇ……」


「今直ぐ、お水を持ってくるね」


 ピースケは君子を座敷に寝かせると、座布団を折って枕にした――


「意識が戻らないと飲ませられないよね……」


「しかし、このお婆さん、何だかもう死んでいるみたいですよ……」


「縁起でもない事、言わないでよ」


「てっきり、前頭葉の萎縮からキレ易くなっていると思っていましたけど……」


「そうね……キレるって云うより何かが憑り付いて発狂しているみたいだったよ……もう、ボケちゃっているのかな?」


「いいえ。ボケるどころか、その逆です。心の奥に封印した記憶が、何かがトリガーとなって鮮やかに蘇って、怒りが爆発してしまうようです」


「なるほど。それなら理解出来るけど……」


 その時、意識を失っていた君子が動いた。それは、青褪めて冷たくなっていた身体に一気に血が通い始めた様だった――


「うぅん……」


「あっ! めぐみ姐さん、意識が戻りましたよっ!」


「ほいほい、お水お水」



 ‶ ゴクッツ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。はぁぁ……  ″



「お婆ちゃん、確りっ!」


「あぁ……此処は何処だい? どうしてあたしゃ……こんな所に……」


「お婆ちゃん、此処は、喜多美神社の社務所ですよ。意識を失って倒れたから此処へ運んで来たんですよ」


「そりゃぁ、済まないねぇ……何も覚えちゃいないよ……御迷惑をお掛けしました……」


「あぁっ! まだ、動いちゃ駄目ですよ」


 そこへ、心配した麗華がやって来た――


「君子さんの具合は如何ですか?」


「あっ、麗華さん。たった今、意識が戻りましたよ」


「ありゃ? あんたは……確か……」


 めぐみとピースケは意識が戻った君子の記憶まで戻り、再び激怒するのではないかと恐れた――


「随分と興奮していたので心配しましたが顔色も良いし、もう、大丈夫そうですね。よろしければ、お車を呼びますけど?」


「御心配頂き有難う御座います。お心遣いに感謝致します……でも、大丈夫。きちんと立って歩けますから。皆さん、どうも有難う……」


 立ち上がろうとした君子だが、よろけて麗華の肩に摑まった――


「無理をなさらないで。めぐみさん、瞳さんに車を用意して貰いますから、君子さんを宜しくお願い致します」


「はい。さぁ、君子さん、車が来るまで此方で横になっていて下さい」


「済まないねぇ……」


 

 麗華は既に泣き喚く子供を宥め、若者達を慰めて帰宅させていた――


「めぐみ姐さん、麗華さんって何者なんでしょうね。鮮やかと言う他ないです」


「何つーか、出来る女よなぁ。格好良いんだよねぇ……」


 めぐみが麗華に感心をしていると、突然、只ならぬ気配を感じた――


「はっ!」


「鯉乃めぐみっ!」 


「うっわぁっ! こ、木花咲耶姫コノハナサクヤヒメっ!」


「何が『格好良いんだよねぇ……』だっ! 激昂する老婆の魂を抜いたのはこの私っ! 参拝客が冷静な心を取り戻したのもこの私の力なのっ!」


「あぁっ、そうなん?」


「つねっ!」


「痛っ!」


「見る目無いわねぇ。つねっ! つねっ! つねっ! つねっ!」


「痛っ!痛っ!痛っ!痛い――――――っ!」


「ふんっ! 誰かと思えばそこに居るのはペーペーの更に格下の最弱神、ピースケじゃないの。まぁ、ポンコツ同士仲がよろしくって。つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ!」


「痛たたたたたたた、痛い――――――っ!」


「ふっふっふ……この程度の女神に意地悪するのは暇つぶしには丁度良い。そうだ、良い事を思い付いたわ。鯉乃めぐみっ! この私にふさわしい地上名を名付けなさい」


「はぁ? 地上名なんて、自分で考えれば良いじゃないですか? お気に入りの名前を付けるだけでOKよんっ!」


「分かってないわねぇ……私ほどの女神になると名前を付けられる神が存在しないの。だから、あんたに名前を付けさてやるって言っているの」


「あ、いやぁ、謹んで辞退しまぁ――す。どーぞ、好き勝手に名乗って下さい」


「何ですって? この私に口答えをするの? あ――ぁ、そうなんだぁ。じゃあ、富士山噴火しちゃおっかなぁ……」


「あの、そんなに噴火したきゃ、すれば良いで……」


「めぐみ姐さんっ! 木花咲耶姫コノハナサクヤヒメの言っている事を翻訳しますと『私だけ地上名が無くって寂しい。皆と同じように地上名が欲しい。めぐみちゃん、お願いだから、私に可愛い名前を付けて』って言っているんですよ」


「ツンデレのきっつい奴だなぁ……なんなん?」


「さぁ、私の地上名は?」


「そうですねぇ……子授け、安産の神だから……近藤志津子なんてどーですか?」


「おっと、近藤志津子は、つまりコンドームをしない子、つまり避妊を怠り子供が出来ちゃいましたぁ。みたいな?」


「まぁ」


「あなたの頭の中ってガラクタだらけなのね。ポンコツらしいわぁ……つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ!」


「痛たたたたぁ―――――――――――いっ!」


「あんたみたいに草むらに名も知れず咲いている花ならば、ただ風を受けながら、そよいでいれば良いけれど、私は薔薇の定めに生まれた、華やかに激しく生きろと生まれたのっ!」


「あれ? どっかで聞いた事が有る様な……ジュテーム・オスカル的な? 生きとし生ける者全て平等なのに『おまーら、野花とはちげーんだよっ!』と言い放つ傲慢さ……傲慢薔薇子か茨野棘子なんて如何でしょう?」


「月並みで平凡と云うよりも、そのまんまじゃないの。平凡な人生は叶えられない身だけれど、私は薔薇の命を授かり、情熱を燃やして生きてく、何時でも。ダメよっ! つねっ! つねっ! つねっ!」


「痛たたたたぁ―――――――――――いっ!」



 めぐみは絡みづらい木花咲耶姫コノハナサクヤヒメに閉口し、げんなりした――







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