インチキちゃうがな、ホンマモンやで。
そっとベルベットの幕を開いて中を覗くと、頭から頭巾を被りテーブルの真ん中に置いた水晶に手を翳す占い師が居た。そのテーブルの上には見慣れぬ本が数冊と筮竹、タロット・カード、ダイス、手相を見るルーペが置いてあった――
「こんばんは」
「いらっしゃいませ。占いの黒テントへようこそ」
「見料三千円ですね? はい」
「ありがとさん。おおきに」
「あのぉ、今夜、私を占って頂きたいんですけど?」
「ちょっと、そこのお客さん」
「ほぁ? 誰か呼んだ? 気のせいね」
「ちょっと、ちょっと、ネーチャン、無視したらアカンでぇ。こっちやがな」
「あれ? じゃあ、これは?」
「見たまんまやないかい。人形や」
「えぇっ!?」
「看板見て、TVで話題の占い師が、今夜占ってくれると思ったやろ?」
「はい……」
「あんた。騙され易いなぁ……」
「騙すって?」
「あんなぁ。あんなもん、嘘に決まってるやんか? インチキやで」
「はぁ? インチキなら、お金返してよっ!」
「アカンアカン。返さへんでぇ」
「泥棒っ!」
「ど、ど、泥棒て。あんた、可愛い顔してキツイわぁ。泥棒ゆーたらアカンでぇ、ホンマにぃ」
「だって、自分でインチキだって言ったでしょう? お金返してよっ!」
「あんた。アホやなぁ……『あんたは騙され易い』って教えたやん」
「はぁ??」
「それだけで三千円払う価値有ったやろ?」
「何それ、それこそ、インチキでしょっ!」
「何ゆーてん。あんなぁ、これに懲りて、あんたは今後、一切、騙されなくなるやんか。そしたらな、めっちゃ得やんっ!」
「あぁ、そう云う事かぁ……」
「そうや……って、アカンアカン。あんた、もう騙されてるやんか?」
「あっ、そう云う事かっ!」
「せやがな」
「アホくさっ! 帰るっ!」
「まぁ、まぁ。慌てんと、ゆっくりしたらええやん? 話しでもしようやないか」
「話す事なんて有りませんよっ! 占ってみようと思ったのに、ガッカリっ!」
「あんた、イラチやなぁ……あのな、ホンマに占って欲しいん?」
「当然でしょ。でも、インチキ占いは御免です――ぅ」
「人聞きの悪い事、言わんといて。あんなぁ、わてはホンマモンの占い師やで。TVに出ている様なインチキ占い師とは、全然ちゃうよ?」
「え? ホンマモンの占い師って、どう云う事?」
「あんなぁ、占いって大抵、あなたの過去、現在、未来ゆうやんか?」
「はい」
「占いやで? 先を占う占いに過去と現在なんて、一個も関係あらへん。なぁ?」
「なぁ? って言われても、ホンマモンかどうかは怪しいわ」
「ホンマモンは辛いんやでぇ。ホンマモンのホンマの占いちゅうのんはなぁ、不測の事態を指摘するもんやねん。水難の相、火難の相、女難の相って聞いた事有るやろ?」
「はぁ」
「つまりや、それに気を付けて一週間を過ごすやろ。何も無かったらそれでええやんか? 何か有った時に『占いが当たったぁ!』って騒ぐ必要ないやんか? 良く当たる占い師ってなんやねんっ! ちゅう話や。なぁ」
「結局、インチキじゃん」
「失礼な事、言わんといて。あんなぁ『あなたの過去はどうやった』なんて誰でも言える。何とでも言えるやんか? 極端な話し『今日、お昼ご飯を食べましたね?』で、ええやん」
「ふざけんな」
「ちゃうちゃう、ラーメン食べたとか、カレーを食べたまで言わんやろ?」
「うん、まぁ……」
「そんでな『食べ過ぎましたね?』くらいは言うねん。そうするとな、何故か『ご飯を食べ過ぎましたぁ』とか『おかずを余計に食べちゃいましたぁ。凄い、当たってるぅ』とかぬかしてけつかるねんな。アホかぁっ! ちゅう話やで」
「で?」
「そんなTVに出ているインチキ占い師が言うねん『数年後、あなたは巨万の富を掴みます』って」
「おぉっ! 凄い、それそれ。そう来なくっちゃ!」
「ちゃうって、あんなぁ、巨万の富を掴んでいるのはおのれじゃぁ! アホンダラ、ボケ、カスゆうて」
「あぁ……」
「インチキ占い師はベントレーにショーファー付けて、自分はベンツ転がして、大豪邸に住んでるやんか? おかしいと思わへん? その金の出所は皆、お客やんか。そんでな、ホンマモンの占い師はこのザマや。わて、此処までテクシーやで。どうして? どうしたら良いん?」
「知るかっ! もう結構ですっ!」
「あんた、イラチやなぁ。なに急いでんねん、ほんなら、ちゃんと教えたる」
「おぉ……」
「ええか? しっかり聞かなあかんで。あんたにはなぁ、女難の相が出てる。でな、それも、かなり複雑なやっちゃ。紛争に巻き込まれる可能性が有るから気い付けや」
「あぁ、やっぱり。心当たりが有ります。分かりました……」
「なんや。やっぱ、知っとんたんかい」
「えっ?」
「あんたなぁ……最初に会った時から、人間に見えへん。何でやろ? ホンマは神様ちゃうか?」
「ドキッ!」
「せやからな、あんたが神様やったら『助けて欲しい』って思てん」
めぐみは、この占い師に霊力が有る事に驚いた。そして、占いはインチキでは無いと確信した――
「もし、私が神様だったら……見料高いよ?」
「なんぼ?」
「三億円っ!」
「殺生やわぁ……」
「まぁ、巨万の富もあの世には持って行けないから。案外、今のままで良いと思うよ。じゃあねっ!」
一日中、鬱々としていためぐみだが、占って貰うと何となく気が晴れた。そして、帰宅して七海と夕飯を食べて、一緒にお風呂に入っている時だった――
「めぐみお姉ちゃん。身体中、キスマークだらけだおっ! 遂に、兄貴とヤッたん?」
「ヤラね――よっ! これはキスマークじゃなくて、つねられた痕なのよ」
「つねられたって、誰に?」
「木花咲耶姫って女神」
「ちゃんとやり返した? 舐められっから、やられたら、やり返さないとダメだおっ!」
「それがさぁ、女神中の女神なのよ……やり返せる相手じゃ無いのよ……」
「女神中の女神っ! ふーん。神様の世界にも、そんな裏番みたいなスゲぇのが居るんだぁ……」
「うん。つねると言っても、人差し指と中指の第二関節でボディに打ち込みながら、ギュっと締めるの。痛いんだよぉ……もし、それが固めた拳だったら完全にノックアウトされていたよ……もう、次から次へ色んな事が起こるから、目が回るよ」
「現実は厳しいんよ。駿ちゃんの小説みたいに、筋書き通りには行かないんよねぇ。めぐみお姉ちゃん、背中流してあげる」
「あんがと」
めぐみは、明日に備えてやる気スイッチをOFFにして、泥のように眠った――
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