今夜、占ってみました。
めぐみは、その儚くも美しい姿からは想像も出来ない毒を吐く木花咲耶姫に困惑した――
「ねぇ。あなた地上では鯉乃めぐみって言うんでしょ?」
「あっ、はい……」
「良いわねぇ。ダブル・ネームで人間に成りすまして生活をエンジョイ出来て……そんな神様、見た事無いわぁ」
「あの、御存知無いのかもしれませんけどぉ、私の他にも建御雷神は竹見和樹として、火之夜藝速男神は火野柳駿として……」
「知ってますっ! 建御雷神は地上生活の中で鍛錬と修行をしているの。火之夜藝速男神は素戔嗚尊の命を受けてPRのためにラノベを書いているの。あなたみたいに、好き勝手に遊んでいる訳じゃないわっ!」
「私だって……」
めぐみは天国主大神の命を受けて地上で活動している事は言えなかった――
「あぁ―――ぁ、美人薄命なんて、ウンザリだなぁ……」
「あのぉ……」
「私はあなたに意地悪をするわよっ!」
「えぇっ! 私、何も悪いことしていないのに……逃げますっ!」
「おっつ、時間を操作しても無駄よっ!」
木花咲耶姫はクロノウォッチを操作して逃げようとしためぐみの左腕をねじ上げた――
「痛っ!」
「あらあら、これ見よがしに最新型のクロノウォッチを見せびらかして、好い気な物ねぇ? 私、あなたが気に食わないから、う――んと、意地悪をしますからねっ!」
「そんなぁ……」
「私ね、珠ちゃんに初午祭の手伝いをして欲しいって頼まれたの。また来るから。うふふふ」
‶ ひゅ――っ ひゅ――――――――っ ひゅ――――――――っ ひゅ――――――――っ ひゅっ ひゅっ ひゅ――――――――っ ひゅっ! ″
「ハッ、消えたっ!」
めぐみは、女神の中の女神らしく、正々堂々と意地悪宣言をした木花咲耶姫に清々しさを感じつつも先行きが不安になった――
「宣言するのが浅間神社かぁ……前途多難だなぁ」
「めぐみ姐さん、どうかしたんですか?」
「あっ、ピースケちゃん。ちょっと、ね……」
「さっきから呼んでいるのに、ボーっと空を眺めているから。皆、心配していますよ。せっかく、淹れたお茶が冷めちゃいますよ」
「あぁ、ゴメンね」
めぐみは、ピースケに事情を話した――
「そうだったんですか。まぁ、彼女の事ですからねぇ……」
「ん? 彼女って、ピースケちゃん会った事有るの?」
「勿論ですよ。僕の名付け親ですからね」
「えぇ――ぇっ!」
「お前なんかペーペーの更に下のピーピー。だから、ピースケで充分だって。『ぺ』の下なら『ポ』じゃないんですかって言ったら、平手打ちですよ。僕に神様らしい名前が無いのはそのせいなんです……」
「酷ぇ―――なっ!」
「まぁ、彼女のこれ迄を考えれば仕方が無いのかもしれません。瓊瓊杵尊とラブラブ・デートしている時に喜んで貰えると思ってサプライズで『おめでたの報告』をしたら、祝福どころか『それってさぁ、俺の子じゃ無いっしょ?』と言われて……」
「瓊瓊杵尊もクズよなぁ……」
「で、頭に来てガソリンぶち撒けて火を放って出産ですよ……」
「恐ろしいわぁ……無駄な意地の張り合い」
「なのに、今でも瓊瓊杵尊のカラオケの十八番はマイコーのビリー・ジーンなんですよ? しかも、超絶パフォーマンスのフリ付きで熱唱するんですからねぇ。木花咲耶姫もストレス溜まりますよ。はい」
「マジかぁ……」
「見た目は完璧な姿で美しく見える彼女ですが、内に秘めたる情熱の炎はハンパ無いんです。しかも、直接的に相手を攻撃するのではなく、自虐的且つ破滅的だから結果は悲劇なんですよ」
「正しく富士山噴火みたいな感じかぁ……」
「そうです。不死産イコール安産なんですがねぇ。彼女を怒らせると面倒ですよ」
「どうしよう。ピースケちゃん、木花咲耶姫は珠美と仲が良いみたいでさ、初午祭に来るって言うのよ」
「木花咲耶姫と珠美のタッグは最強です。そこに、麗華さんと君子さんまで来る事を想像すると、今更ながら、めぐみ姐さんの『縁結びの力』の凄さを感じますよ」
「照れるなぁ……」
「めぐみ姐さん、照れてる場合じゃないですよっ!」
突然、ピースケのケータイがブルブルと震え、懐から取り出すと弄り出した――
「あ。ピースケちゃん、新しいの買ったんだ?」
「えぇ。ちなみに最新のアプリで和樹兄貴の行動を見る事が出来るんですよ」
「見せて見せて」
アプリのGPSとカメラの操作で和樹のライブ映像が見れた――
「ペット用の監視カメラ、覗き見機能なんですけどね」
「ちょっと。それって、ヤバくね?」
「そりゃぁ、普通の男子ならヤバいですよ。でも、和樹兄貴の日常はコレですよ」
‶ うおぉ―――――――っ! 俺は負けないっ! アチョ、アチョ、チョッチョ! アタタタタァ――――――――ッ! ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ! ダダダダダァ――――――――ンッ! ″
「あらら……」
「今の状態を解説すると、朝一番で『仮面のライダー』と『燃えるドラゴン』のDVDを観てから、気合を入れてなり切ってトレーニングをしているんです」
「そんな事まで、分かるんだぁ……」
「勿論です。和樹兄貴のルーチンですからね。明日はオラオラオラオラオラァ――――ァッ! ですよ」
「あららぁ……」
日も傾き、仕事を終えためぐみは何時になく身体を重く感じていた。次から次へと湧いてくる難題に直面し疲弊し切っていて、考え事ばかりして自転車を漕ぐ気にもなれずに引いて歩いていた――
「はぁ―――ぁ。『意地悪します』って最悪だよ……おや?」
めぐみの目に留まったのは、占い師の看板だった――
‶ 今夜、占ってみませんか? TVで話題沸騰中の占い! 占い師があなたの未来を占いますっ! 見料三千円也 ″
「こんな所に占い師が居るなんて驚き……そうだっ! 地上の占いなんて土産話に持って来いだし、ネタとしても面白いな。気休めでも良いから占ってみよっかなっ!」
占い師は黒いベルベットの幕をビルとビルの間の狭い隙間に張り、中は見えない様になっていた。そして、その幕には金糸と銀糸でホロスコープの刺繍がしてあり如何わしさ満点だった――
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