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怒りの導火線。

 老夫婦が参道を後にすると、一同、腕を組みをして思案した――



「めぐみ姐さん、脳の老化で前頭葉が委縮すると、キレ易くなると言いますからね……」


「うーん『老いては子に従えず』を科学的に言うと、そう云う事のなのかぁ……」


「だからぁ、全部、典子さんが悪いんですよぉ」


「何で私よっ! キレ易いお年寄りのせいでしょうっ!」


「キレ易い、お年寄りのぉ、怒りの導火線に火を付けたんですよぉ、トリガーを引いたのは典子さん、地雷を踏んだのも典子さん、被害は私とめぐみさん。これじゃぁ、割に合わないんですよぉっ!」


「そう云う、こじ付けは止めなさいよっ! 紗耶香さんは嫉妬しているだけじゃないのっ! もう、嫌いっ!」



 紗耶香に捨て台詞を吐いた典子だが、言葉とは裏腹に率先して周辺のゴミ拾いと近所の皆さんへ謝罪をしていた――




―― 二月五日  大安 己丑



 〝 ザン、ザン、ザン、ザンッ、パンパカ、パッパ、パ――――ンッ! ザン、ザン、ザン、ザンッ、パンパカ、パッパ、パ――――ンッ! あ――ぁ、あ――ぁ、大日本っ、農業連合――ぅ、ダ、ダ、ダ、ダンッ! ″



 喜多美神社周辺の閑静な住宅街に鳴り響く大音響―― 


「典子さん、紗耶香さん、御覚悟をっ!」


「……大丈夫よ。心配しないで」


「責任はぁ、取って下さいよぉ」


「めぐみ姐さん、まるで討ち死にするみたいじゃないですか」


「珠美にあの老婆と麗華さんがバッティングするのよ。只じゃ済まない気がするよ」


「確かにバッティング・センターならホームラン級ですね。でも、類は友を呼ぶと言いますから、以外に似たキャラじゃないですか?」


「だから尚更、ヤヴァいんだよっ!」



 珠美は何時もの様に爆音を轟かせてやって来た。そして、路地を曲がり神社の横道に入ってくると、マイクを入れた――


「アー、テス、テスッ。久々の来日でぇ、え―――すっ! 分かる人だけで結構ですっ! どぉ――も――――ぉ、どぉ――も、でぇ――――す。ご町内の皆様ぁ、かぁんにちはぁ―――っ! やって参りました、鵜飼野珠美ちゃん、でぇ――――すっ! お元気ですかぁ――――っ? 私はぁ、元気でぇ―――――――すっ! OKっ! 窓から応援、有難う御座いまぁ――すっ! スエさん、毎度っ! トシさん、毎度っ! お梅さん、毎度っ! LOVE、and、PEACE! 有難う御座います、有難う御座いまぁ、あ―――すっ! マチ子婆ちゃん、おゲンコぉ――――っ! L・O・V・E、愛してまぁ―――――すっ!」



 珠美のトラックが神社の駐車場で店を広げると、近隣住民がどこからともなくワラワラと湧いて来て、黒山の人だかりになった――


「しっかし、珠美の奴、人気有るよなぁ……」


「めぐみ姐さん、新規顧客に若者が複数いる模様っ! 大惨事に発展する可能性がありますっ!」


「脅かさないでよ……」



 神社の駐車場は活気に溢れていた。しかし、一組のカップルが状況を一変させた――


「えぇ―――っ! 期待外れぇ。せっかく来たのにぃ。萌奈美、ガッカリ」


「ねぇ、おばさん。これしかないの?」


「今日持って来たのは、コレだけなんですけど……何か不足してますかぁ?」


「あのさぁ、レンジでチンする簡単な奴が無いじゃん」


「レンジ調理も可能な食品は、コチラと、コチラに有りますけどぉ?」


「これって只の食材じゃん」


「はい。そうですけど、何か問題でも?」


「はぁ? こんなデカい奴じゃなくてさぁ、一人前、個包装の便利なアレだよ」


「便利なアレ?」


「調理加工済みでレンチンで直ぐに食える奴の事言ってんのっ!」


「加工食品はロンダリング・フードと言われてまして、材料の産地偽装、添加物や加工方法など……」


「おばさん、気が利か無いね。わざわざ来ているお客様に感謝する気持ちとか無いの?」


「ヒロシ、もう良いよ。行こう」


「うん、そうだね。萌奈美、付き合わせてゴメンな。おばさん、コンビニを見習ったら? 時代の空気を読めないって……最悪だよ。プッ」


 成り行きを鳥居の陰から見守っていた全員が凍り付いた――


「めぐみ姐さん、ヤヴァイです」


「バッカプルがぁ、振り向き様にぃ、プッて吹いたのがぁ、命取りなんですよぉ」


「ねぇ、めぐみさん。何とかしてぇ……」


「何とかって、言われても、どーにも……」


 カップルは珠美の逆鱗に触れ、お多福顔が能面の面子を通り越して般若になるその時、口を開いたのは君子だった――


「ちょいと、お前さん達。待ちな」


「なぁに。お婆ちゃん?」


「聞き捨てなら無いねぇ」


 いくらバカップルとは言え、老婆がカンカンに起こっている事だけは理解が出来た――


「近頃の若いモンは自分が気に入らないとすぐにケチをつけやがる。アレが無いだのコレが無いなどと…笑わせるんじゃないよっ! こっちは戦前、戦中、戦後、東京大空襲を命辛々、生き延びて、食うや食わずの中を生き抜いて来たんだっ!」


「だって……そっちはそっち、こっちはこっちだよ。お婆ちゃん、そんなに怒ると……」


「ふんっ! 唐変木とコンコンチキが仲良く手を繋いでお似合いだよ。だけどね、口答えなんざ十年早いんだっ! ご近所さんのために重たい作物をわざわざ運んで来てくれた人に『感謝する気持ちが無い』とは何だいっ、感謝する気持ちが無いのはお前さん達の方だろっ! 日本人は昔っから、お互い様なんだ、お前達ぁ、それでも、日本人かっ!」


 叱られ慣れていない、萌奈美は涙腺が崩壊した――


「でも、僕達だって……」


「おい。『コンビニを見習え』って言ったね。目上の人が健康と安全のためにと丁寧に説明しているのに聞く耳を持たず『気が利かない』とは何だい? 持って来てくれたのはお百姓さんの汗の結晶だっ! それを何だと思っているんだいっ! コンビニなんざ、年寄りに向かってポイント・カードだ、画面をタッチしろだの鬱陶しいんだっ! その上、わざわざ足を運んだお客に袋代をせびりやがる」


「それは、SGDsの取り組みなんだよ。お婆ちゃんが知らないだけ……」


「ほう、お前さん、随分と生意気な口を聞くじゃないか? そんなに物知りなら、教えて貰おうじゃないか? コンビニの店内にはプラスチックの容器に入った商品が山積みだ。なのに袋だけが別なのは何故なんだい?」


「そ、それは、だから……」


「だから何だい? ハッキリっ、お言いっ!」


 とうとう、追い詰められたヒロシの涙腺が崩壊した。そして、成り行きを鳥居の陰から見守っていた全員が頷いた――







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