笑う門には鬼来る。
喜多美神社は神聖な空気と静寂を取り戻していた――
「わっせ、わっせ、せか、せか、よいしょっ!」
「後片付けが―――ぁ、忙しいっ!」
「夕子さん、弥生さん。お茶を淹れたから社務所で休んで来てね」
「はぁ―――いっ!」
巫女twin’zは手を止めて、社務所へ向かった――
「しっかし、嵐の様な凄い盛り上がりだったなぁ……」
「めぐみ姐さん、規模こそ神社レベルでしたが、あの盛り上がりはスーパー・ボウルのハーフ・タイム・ショーを超えていましたよっ!」
「恐るべし『夕子と弥生』」
「副作用が怖いです」
「ふたりとも、話している暇が有ったら手を動かして下さいっ! 夕子さんと弥生さんのお陰で、御守りも絵馬も即完売、用意した御朱印帳も御札さえ品切れになったのよ」
「典子さんはぁ、お金の事ばっかりなんですよぉ」
「紗耶香さん、白状するわ。調子に乗って発注したけど……在庫の段ボールの山を見て思ったの『コレ、売れなかったらどうしよう』と。ハッキリ言って、ビビってたのよっ! ところが蓋を開けてみれば、アッという間に販売予測を超えたのっ! やっぱり、神様は私達を見守ってくれているのよっ!」
「典子さんはぁ、都合良く、解釈し過ぎなんですよぉ」
「フッ、紗耶香さん。言いたい事はそれだけかしら? 確かに今回の戦略にはひとつだけミスが有った。でも、それは……売上金が金庫に入り切らないと云う事なのよっ!」
‶ おぉぉ―――――――――――――ぉおっ! ″
「フッフ。来年は、駐車場で『一陽来福のサイリウム』を販売する戦略だから。皆さん宜しくねっ! はぁ――っ、忙しい、忙しい」
‶ 儲かりまっか? ぼちぼちでんなぁ。はぁ、やりよるなぁ。ほぅ、やりよるわぁ。セイッ! じぇに、じぇに、じぇに。じぇに、じぇに、ロケンローっ! ″
典子は似非関西弁の変な歌を歌いながら社務所へ戻って行った――
「金庫に入り切らないって、儲けてまんなぁ……」
「めぐみさん。そのうち、罰が当たるんですよぉ」
「いや、紗耶香ちゃん。典子さんの戦略はヲタ共のハートをクリティカル・ヒットしたんです。その証拠に夕子ちゃんは三千五百トゥンク、弥生ちゃんに至っては三千八百トゥンクです」
「ピースケちゃん、トゥンクって何よ?」
「ヲタ共のトキメキの数です。アプリで計測しましたから」
「はぁ? じゃぁ、私は?」
「あ。残念ですが……めぐみ姐さんも紗耶香ちゃんも三百ちょっとで、典子さんに至っては五十以下なので計測不能です」
「ざけんなっ!」
「めぐみさん。結局、若い子にはぁ、勝てないんですよぉ」
「です」
めぐみは二十歳以上と十代の歴然とした差に落ち込んでいたが、後片付けも終わる頃には立ち直っていた。そして、辺りはすっかり夕闇に包まれていた――
「お疲れさまでした」
「めぐみさん、遅くまでご苦労様でした。気を付けて帰ってね。あっ、夕子さんと弥生さんはタクシー呼んだからね。本当に、助かったわぁ。又、来年も宜しくねっ!」
「はぁ――いっ! 有難う御座いまぁ――すっ!」
「来年と言わずぅ、忙しいときは――ぁ、何時でも呼んで下さいねっ!」
「もう、本当に可愛いんだからっ。うふふふ」
「チッ、短期のバイトのクセに好待遇だなぁ、おいっ!」
めぐみが帰宅をして暫くすると、巫女twin’zがお土産を沢山買って帰って来た――
「ただいまでぇ――――すっ!」
「あ。お帰りなさい。夕飯、出来てるよ。だけど、自転車より遅いなんて随分寄り道したのね。そんなにお土産買ったの?」
「はいっ! お菓子に化粧品にゲームにコミック!」
「それとぉ、神官に頼まれた珍味と天国主大神様の純米大吟醸までぇ―――っ、大量購入しましたっ!」
「あんた達も色々と気を遣うのねぇ……あっ! そう云えば、神官から連絡が有るって言っていたよね? な――んも、連絡無いんだけど?」
「それはぁ……きっとぉ」
「何か、言えない事情が有るんですねっ!」
「言えない事情って、何よ? こっちは、言いたい事が山程有るのにっ!」
「めぐみ様ぁ。心配しなくても必ず連絡がぁ、有りますわぁ」
「一応、伝言が有れば――ぁ、聞いておきますよっ!」
「あっ、そう? 聞いてくれる?」
巫女twin’zは、ニッコリ笑うと懐からケータイを取り出して、アプリを起動し、動画モードをオンにした――
「あ、あっ。映ってる? えっと、こんにちは。地上名、鯉乃めぐみこと、縁結命です。えー、ねっ。地上勤務も十カ月が経ちました。っで、私って『恋の女神』じゃないですかぁ? これからは……もっと、こう、キュンキュンする? ロマンチックな? 恋愛のお手伝いをして泣ける感じの? 感謝される仕事がしたいと思いますのでぇ、宜しくお願いしまぁ―――すっ!」
めぐみの動画のメッセージを撮影し終わると、巫女twin’zは帰る準備をし始めた――
「それではぁ、めぐみ様――ぁ」
「色々、お世話になりました――ぁ」
「あっ、ちょっと、あんた達。もう帰るの? 夕飯は? 泊まって行きなよ……」
「お気持ちだけぇ、頂きまぁ――――すっ!」
「さようなら―――――ぁっ!」
‶ ガチャ、キイ――――ッ、バタンッ! ″
「あ―――ぁ。帰っちゃたぁ……」
―― 二月四日 仏滅 戊子
喜多美神社は参拝客で賑わっていた――
「これが、絵馬バトル効果かっ‥‥‥」
「めぐみさん、相乗効果でぇ、色んなヲタが来ているんですよぉ」
めぐみと紗耶香は、対応に追われていた――
「あっ、あの、巫女さん。夕子と弥生のふたりが居ないんですけど?」
「はい、節分祭のお手伝いをして頂いただけでして……」
「チッ、つまんねぇの」
「ババアに用は無い。撤収っ!」
ヲタ共はガッカリして去って行った――
「腹立つわぁ……ババア? 誰が? 私達?」
「めぐみさん、大人の女はぁ、眼中に無いんですよぉ」
「童貞拗らせたキモヲタの分際で生意気だっちゅ――のっ! お前らの筆おろしの日は一生来ないっビ――ムっ! ビビビビビ―――――――――ッツ!」
「ははは。めぐみさんの復讐が、面白いですよぉ。あははは、はははは」
「紗耶香さん、ツボってますね? まぁ、笑うしか有りませんからねっ!」
ツボ笑いの紗耶香と、はしゃぐめぐみに、冷や水を浴びせるような声がした――
「笑い事じゃぁ無いんだよ……」
「ですよね。うら若き乙女を捕まえてババアとか、笑い事じゃ……無い?」
めぐみが振り返ると、そこに居たのは鬼の形相で仁王立ちの老婆だった――
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