再会は福と成る。
喜多美神社は節分祭の熱気と歓喜の声で賑わっていた――
―― 鬼問答
ドン、ドン、ドンと太鼓の音――
「そこどけ、そこどけ、そこどけぇ―――ぃ!」
鬼が神前に飛び上がり、鹿杖にて床を叩くと、神官が両手を広げて、鬼が神殿に上がるのを防いだ――
「不思議なる者、みえて候。何者ぞ、名のり候らへ。早く、名のり候らへ―――ぇ」
「それがしに候か?」
「早く、名のり候らへ――っ!」
「見るも、聞くも、そら恐ろし。それ、赤き息『ほっ』とつけば、七日七夜の病となる」
「それ、青き息『ほっ』とつけば、疫病となる。よって節分毎に、まかりいでぇ、人の命をねらい候……むはははぁ」
「鬼は内と、声がしたぁ。よって、まかりいで候」
MCの夕子と弥生が両手を広げて笑顔で号令を掛けた――
「はぁ―――いっ、皆様ぁ、御一緒に―――――ぃ!」
‶ 言わぬ、言わぬ―――――ぅっ! ″
「がうぅ、腹ぺこだぁ、腹ぺこだぁ――――あっ!」
「悪しき鬼どもだ、おのが住家にあらず、もとの山へ帰り候らへ――――っ!」
神官がスルメを与えると夕子と弥生が更に号令を掛けた――
「それ、追い出せ―――――ぇ!」
‶ 鬼は外っ! 鬼は外っ! 鬼は外っ! 鬼は外っ! ″
「もっと、大きな声で――――ぇ」
‶ 鬼は外っ! 鬼は外っ! 鬼は外っ! 鬼は外っ! ″
「YESっ! 皆様ぁ、もっと、強く―――――――――ぅっ!」
‶ 鬼は外っ! 鬼は外っ! フッフ―――ゥ! 鬼は外っ! 鬼は外っ! ハイッ! 鬼は外っ! 鬼は外っ! フッフゥ―――――ッ! ″
神官が桃の弓と、いり豆にて鬼追いをすると、追儺の豆つぶてに鬼達は『ゆるさせ……給へ――――――ぇ』と叫びながらて逃げて行った ――
「皆様のぉ、お力で―――ぇ」
「鬼は、退治出来ましたぁ―――――――っ!」
‶ うおぉ―――――――――――――おっ! パチパチパチパチパチパチ ″
盛り上がって来た所で、市長と自治会長を先頭に狛江出身の有名人に続いて、大森文子とひろ子が出て来た。豆まきの体勢が整うと、場の空気は、一気に過熱して行った。そして、囃子、大拍子の軽快な調べにのって夕子と弥生が踊り出た――
「さぁ、それでは皆様―――――――ぁ」
「『福の神の舞』行くわよ―――――――っ!」
‶ うわぁ―――――――――――ぁいっ! パチパチパチパチパチパチ ″
「東のっ、空高くぅ―――――――っ!」
「はいっ!」
‶ 福は内っ! 福は内――――――――――ぃ ″
ひろ子は豆をまき始めると、楽しそうな人々の笑顔の中に秀夫の姿を見た。眼に映る亡き夫の姿を夢か幻のように感じていると、豊田が大きな声で名前を呼んだ――
「ひろ子―――っ!」
名前を呼ばれると、その懐かしい声に瞳を潤ませた――
「あなた……」
両手を振って泣きながら笑顔の豊田と、泣きながら笑顔で豆をまくひろ子の再会。その光景にめぐみは貰い泣きをしていた――
「ピースケちゃん、典子さんの演出も良いけど、死神さんの演出は感動的だよっ! ぐっすん、すん、すん」
「なるほど……これ迄の苦しみも悲しみも消し去り、新たな年を蘇った御主人と再び夫婦で迎える様にエスコートする演出とは……どうやら僕は、死神さんを誤解していた様です」
「巫女twin’zは地上に遊びに来たフリをしつつ、タイミングを見計らっていたのよ」
「なんて優しいんだっ! 一年の締め括りが最高じゃないですかっ!」
‶ トンツク、テンツク、ピーヒャラ 、ピーヒャラ。トンツク、テンツク、ドンドンドンッ、カッカッカッカ ″
「ピースケちゃん、なんか始まるみたい……」
「あっ、四方固めの祝い『上の舞』を舞うみたいですね……」
「夕子と弥生の歌謡ショーみたいになっているよっ!」
「草も木も――ぉ」
‶ 夕子ちゃぁ――――んっ! ″
「我が大君の国なるゆえっ!」
‶ Let’s Go、Let’s Go、弥生ちゃぁ――――んっ! ″
「いづくに悪鬼のっ、すみかなるらぁ―――んっ!」
‶ L・O・V・E! 夕子と弥生ぃ――――――――――っ! ″
「出雲の国の大国主命っ!」
「このところにて、ひとさし御舞ずるにて候っ!」
「大八しまー――ぁ、つくりかためし?」
‶ 大国主命っ! ″
「YES! いもせを結ぶ、福の神――――ぃ!」
「いでや宝をまいらせん―――――――っ!」
‶ トンツク、テンツク、ピーヒャラ 、ピーヒャラ。トンツク、テンツク、ドンドンドンッ、カッカッカッカ ″
「さぁ、皆様ぁっ! 九つまでぇ―――っ、行きますよぉ―――――――――っ!」
「御一緒に――――――ぃっ!」
「ひとつ?」
‶ ひろった、その豆で――――ぇ! ″
「にで?」
‶ にっこり、恵比寿顔――――っ! ″
「さんに?」
‶ 杯飲みまわし――――ぃ! ″
「よっつ?」
‶ 世の中良さように―――――ぃ! ″
「いつつ?」
‶ 出雲の大社―――――――っ! ″
「むっつ?」
‶ 無病息災に―――――――ぃ! ″
「ななつ?」
‶ 何事、なきように―――――――ぃ! ″
「やっつ?」
‶ やたらに、徹き散らし―――――ぃ!″
「ここのつ?」
‶ 子供に、拾わせて――――――ぇ! ″
「とうで 当氏子中の皆様に―――――ぃ!」
「本年の、宝を―――――ぉ、授け申すぅ――――――――――っ!」
祝い詞を奏上し、小槌より金銀財宝を一同に撒き授け、追儺の神事をとり修めた。そして、夕子と弥生が握手会から授与所へ誘導する典子の戦略は見事に成功し、喜多美神社は空前絶後の大繁盛だった――
「典子さん、絵馬は完売しましたっ!」
「御守りもぉ、残り僅かなんですよぉっ!」
「良いわよ。手が空いたら、御朱印帳に総力を結集するのよっ!」
「はいっ!」
何時しか氏子の姿は消え、喜多美神社は静寂を取り戻していた。そして、再会を果たした豊田夫妻が授与所にやって来た――
「めぐみさん。こんなサプライズが有るなんて、思っても見なかった……ありがとう」
「いいえ。私じゃありませんよ。礼を言うなら、死神さんと此処に居るふたりに……」
「夕子さん、弥生さん、本当にありがとう」
「ひろ子様ぁ。災い転じて福と成すっ!」
「復讐が福になって帰って来てぇ、良かったですねっ!」
「めぐみさん、妻がお世話になりました。こうして蘇って、第二の人生をひろ子と共に歩んでいけるのは、あなたのお陰です。夕子さん弥生さん、気付かせてくれて有難う。そして、死神さんに、感謝を伝えて下さい」
「末永くお幸せに」
めぐみと巫女twin’zは、深々と頭を下げ、仲睦まじく手を繋いで参道を去って行く豊田夫妻を見送った。さっきまでの節分祭の熱気と賑わいが遠い日の出来事の様に思えていた――
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