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鬼が外なら福は家。

 ―― 二月一日  先勝 乙酉


 朝になり、めぐみが目を覚ますと巫女twin’zは既に朝食を準備していた――


「おや? 御御御付けに炊き立てのご飯の良い香りが……あら? 塩鮭と明太子、焼き海苔、納豆に卵焼き、糠漬けと梅干しかぁ……日本の朝だね――ぇ」


「お早う御座いまぁ―す。めぐみ様ぁ。朝食の御用意がもう直ぐ出来てますのでっ」


「顔を洗って来て下さいね――っ」


「あぁ。はい……どうも、有難う御座います」



 めぐみが用意された朝食を美味しそうに食べていると、巫女twin’zはサッサと着替えて遊びに行く準備をしていた――



「後はぁ、宜しくお願いしますねっ」


「行って来まぁ―――すっ!」


「あぁっ、行ってらっしゃい、気を付けてね……」



 ‶ ガチャッ、キィ―――ッ、バタンッ! ″



「はぁ。巫女twin’zは楽しそうねぇ……こんな、朝早くから出かける元気に敬服するよ。でも、美味しかったぁ。ご馳走様」




 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――



「おざっす!」


「めぐみさん、お早う」


「お早う御座いますぅ」


「めぐみ姐さん、お早う御座います。今日は元気ですね」


「気合入ってんでっ!」


「皆もめぐみさんを見習ってね。それからね、後でアルバイトの子を紹介するからね」


「本当にぃ、助かりますよぉ」


「来てくれると良いですけどね……」


「あら? ピースケさん。ふたりなら、もう、とっくに来ているわよ。社務所で打ち合わせと着替えをしているのよ。それから、あなたは先輩になるんだから確りしてねっ!」


「あっ、はい。さーせん……」



 ふたりの巫女が社務所から神職の者に連れられて授与所にやって来た。まるで鏡にでも映っている様に全く同じタイミングで歩く姿に息を飲んだ。身長は百六十センチ、艶の有る綺麗な黒髪にすっと通った鼻筋。奥二重で切れ長の目には霊力こそ宿っていたがキラキラした瞳には無邪気さが残っていた――



「あ、どーも、皆さん。お早う御座います。ちょっと、聞いて下さい。こちらのおふたりが、今日から節分祭までお手伝いをして頂く事になりました。それでは、自己紹介をして下さい」


「はいっ! 今日からお世話になります、如月夕子きさらぎゆうこと申します」


「はいっ! 今日からお世話になります、如月弥生きさらぎやよいと申します。へけっ!」


「おふたりは双子なんですよね?」


「はいっ! 私達ぃ、ふたり合わせて――ぇ、夕子と弥生でぇ――――――すっ!」


 

 ‶ わぁ―――っ、可愛い――っ! パチパチパチパチ ″



「こちらが典子さん、そして、紗耶香さん、めぐみさん。それとピースケ君です」


「初めましてぇ。私達、一生懸命頑張りますのでぇ」


「御指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致しまぁ―――すっ!」



 ‶ わぁ―――っ、超可愛い――っ! 大歓迎よっ! パチパチパチパチ ″



「では、皆さん。私は社務所に戻りますので。じゃあ、後は典子さん。宜しくお願いしますね」


「はい。それでは夕子さん、弥生さん。節分祭の準備をするから、この箱を持って付いて来てね」


「はぁ――いっ!」


「お仕事、お仕事、頑張りまぁ―――すっ!」



 めぐみは、巫女twin’zが『初めましてぇ』と言って、わざとらしい笑顔を向けた事にもイラっとしたが『夕子と弥生』の地上名で一気に喜多美神社の人気者アイドルに上り詰めた事が一番ムカついていた――




 ―― 豊田の事務所にて



「ふぁ――――あ、ふぅ。もう朝か……こんなソファでも良く寝れた。久しぶりの地上だからなぁ……」



 豊田は寝ぼけ眼でぼんやりと事務所の中を眺めていた。すると、昨日まで動いていた時計が止まっている事に気付いた――



「おや? 昨日は動いていたのに……そう云えば、あの日の朝も時計が止まっていて、買い置きの電池が見つからなくて困ったんだよなぁ……」



 豊田は乾電池を取り出そうと備品棚の扉を開けた――



「おや? 乾電池が無いじゃないか……まぁ、時間に追われてる訳でもなし、どうでも良いか……」



 備品棚の扉を閉めて、ソファに腰を下ろし改めて事務所の中を眺めると、カレンダーが平成のままの事に気が付き愕然とした。立ち上がって窓辺に行き、外の景色を眺めると、令和の時間が流れていた――



「もしや、この事務所の中は、あの日で時間が止まっているのか? 確か、あの日、乾電池を持っていたのは‥‥‥」



 女子事務員の引き出しを開けると、案の定、買い置きが有った――



「やはりそうだ。単に堀内の存在が消えただけでは無さそうだな……」



 豊田は、書棚や資料を点検した後、自分のデスクの引き出しの中を確認したが、特に変わった所は無かった。そして、デスク・マットの下に隠した鍵を取り出して金庫を開けると、そこには無くしたはずの黒革の手帳が有った――



「この手帳はあの日、出張先で失くした物だ……この手帳が今、此処に有ると云う事は……やはり時間が止まっているんだ」



 黒革の手帳には『あの日』の朝に届いた手紙が何通か挟んであった――



「そうだ電車の中で目を通そうと思って持ち出したんだ」



 差出人を見ると、何時ものDMや政治団体からの物で、中を確認する事も無くゴミ箱へ放り込んだ。そして、一通の見慣れぬ手紙を手に取り、差し出し人を確認すると、堀内卓也と記されていた――




「ん? 卓也君からだ……」




 ‶ おじさん、僕の事を覚えていますか? 実は、お願いが有ってこの手紙を書きました。お父さんは、おじさんを殺す計画を立てています。僕はその話を聞いてしまいました。お父さんが殺人犯にならない様に、東京駅で特急には乗らないで下さい。資金援助の話はおじさんを誘き出す罠で、ホームで複数人で突き落とす計画です。仮に、そこで失敗しても宿泊先のホテルで薬を飲ませ、ドアノブにネクタイを巻き付けて首を吊った事にするそうです。どうか、逃げて下さい。お父さんを人殺しにしないで下さい ″



「くっくっく。あ―――――はっはっは。俺は何て間抜けなんだっ! 最初から騙すつもりで罠を仕掛けていたのか……どうりでタイム・カードが無い訳だ、奴らが堀内の間者かんじゃだったとは……クソッ、本当の事を蘇ってから知るなんて……情け無い」


 


 豊田は自分の行動を振り返り、社会貢献の名の下に外にばかり幸福を求め、家の中に幸福を求める事が出来なかった自分と対峙した。功成り名遂げて好い気になっていたが、現実は『渡る世間は鬼ばかり』で、擦り寄って来る人間に翻弄され最愛の妻を不幸にしていた事に気付かされ、慚愧の念でいっぱいになっていた――









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