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夜の訪問者。

 豊田は事務所に閉じ込められた事で猛烈な不安に襲われたが、直ぐに立ち直った――



「何だろう……この感覚。こんな不安な気持ちになる事さえ、懐かしい……ストレスさえ、生きている実感となって血潮の流れる感覚が戻って来ている様だ‥‥‥」



 豊田は西日が差す窓辺に立ち外の景色を眺めた。手を繋いでスキップしている巫女twin'zを見送りながら、足繁く通っていた老舗の鰻屋が無くなり、とんかつ屋になっている事。何時の間にか周辺に大きなビルやマンションが建っている事に、時間の流れを感じていた――



「自分が生きて来た証って何なのだろう? 考えてみれば、何一つ無いじゃないか……ふぅ――ぅ」



 豊田は深く大きく溜め息を吐いて、先程まで巫女twin'zが座って居たソファに横になり、ぼんやりと天井を眺めた――



「三日間、此処で何をしろと云うのだろう……」



 事務所の中を見回しても特に変わった所は無かった。だが、柱時計が突然『ボ――ン、ボ―――ン』と鳴ったかと思うと、葬式の時のひろ子の泣き顔がフラッシュ・バックして来た――



「うわぁっ! あの日……自殺した、あの日。あの日の事を思い出さなければ前に進めないのだろうか? どうしても思い出せない……此処に何か手掛かりが有るのだろうか?」



 豊田はソファから立ち上がると、会議室のドアを開けた――



「特に変わった事は無い様だが……」



 大きなスチール製の戸棚を開けると整然とファイルが並んでいた。だが、背表紙に書いてあるはずの名目が何も書いていないので不審に思って手に取った――



「おや? 中身が無いじゃないか? コレも? コレも? 何もファイルが閉じていないではないか……一体、どう云う事だ」



 豊田は手に取ったオレンジ色ファイルが堀内との海外プロジェクトに関するファイルであることを思い出した――



「自殺の原因だった堀内が存在を抹消されて蘇った今、その全てが消えて無くなったと云う事だろうか? そうか、そう云う事か……」



 豊田は何かに気付き会議室を飛び出した。そして、社員のタイムカードをチェックした。すると、社員のタイムカードが幾つか無くっている事に愕然とした――



「やはり、そうだ。堀内との海外プロジェクトに関わっていた社員のタイム・カードが無くなっている……」



 豊田は自分の仕事場である『社長室』の中に入った――



「此処で自分の存在証明を探せと云うのか……まぁ、良い。時間は有るさ」




 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――



 めぐみは一日の仕事を終え帰路に就いていた。そして、何時もの角を曲がると駿のベスパが有る事に気が付いた――



「おぉっ! 駿さんが来ているなら夕飯は作らなくて済みそうねっ、ラッキーっ!」



 めぐみは階段を駆け上がり、ドアを開けた――



「ただいまぁ――っ!」


「めぐみお姉ちゃんお帰りっ!」


「めぐみちゃん、お帰り。そして、お疲れさん」


「いやぁ。駿さんのベスパが停まっているのが見えたら、お腹がグゥッとなっちゃってさぁ」


「めぐみお姉ちゃんは、食いしん坊だお」


「ねぇ、七海ちゃん。この香りは……」


「あっシが焼いたパンが売れ残ってぇ」


「僕は貰い物の白ワインが余っていてね」


「んで、今夜はチーズ・フォンデュだお」


「ひゃっほ――――いっ! 本格的なフォンデュ鍋まで用意して頂いて。うふふふふ。アルプスの少女ハイジ的な? スイスの山小屋に居る気分で頂きまぁ―――――すっ!」



 七海と駿が注意をするより早く、めぐみはバケットにチーズをたっぷり絡めて口中に入れた――



「熱っ―――――――――いっ、あちちだよ、あっちいよ」


「だからぁ、慌てる乞食は何とかだお。チーズ、舐めたらあかんぜよっ!」


「だってチーズ舐める料理だし」


「意外に熱いし、口の中が大変な事になるから、ふぅふぅして食べるんだお」


「はぁ――い」


「あはは。めぐみちゃん、バケットが大き過ぎただけさ。この位小さくして、ちょっとチーズを潜らせれば、OKだよ」


「本当だ。良い感じ」


「ウインナーも有るお。ジャガイモは追いバターだお」


「旨すっ!」



 三人で楽しく食事をしていると、突然、チャイムが鳴った――



 ‶ ピンポーン。ピンポーン。ピンポーンっ! ″



「おぁっ? 宅急便?」 


「めぐみちゃん、お客さんみたいだよ」


「こんな時間に一体誰だよっ!?」



 めぐみは不審な来訪者に警戒しつつ立ち上がった――



「こんばんはぁ――――――っ!」


「ん? 聞き覚えの有るこの声、しかもユニゾンって事は、まさか……」



 のぞき窓からそっと外を見ると、巫女twin’zが立っていたのでドアを開けた――



「ちょっと、あんた達どうしたの?」


「お邪魔しまぁ―――――すっ!」


「あぁっ! ちょっと……」



 巫女twin’zは、めぐみの脇を掠め、速攻で部屋に上がり込むと、ふたりに挨拶をした――



「駿様。七海様。初めましてぇ。巫女twin’z、でぇ―――――すっ!」



 駿と七海は見慣れぬ訪問者に驚いた。だが、めぐみは更に驚いていた。何故なら、巫女twin’zのふたりが何時もの巫女装束では無く、ギャル系のファッションで決めていたからだった――


「めぐみちゃんにギャルの友達がいるなんて、知らなかったよ」


「えぇ、まぁ……そのぉ」


「めぐみお姉ちゃんのお友達なん? んじゃ、こっち来て座んなよ。チーズ・フォンデュでもブチかますと良いぜっ!」


「はぁ―――いっ! お言葉に甘えてぇ―――っ」


「遠慮なくぅ――――っ、頂っき、まあぁ―――――すっ!」



 用意して有った具材は、超速で無くなって行った――



「あんた達、遠慮無さ過ぎだよ……」


「めぐみお姉ちゃん、大丈夫だお。具材ならまだ有るお」



 七海は立ち上がると、台所に行き冷蔵庫から食材を取り出して調理を始めた。めぐみは天の国に居る筈のふたりが何故、地上に居るのか不審に思っていたが、この時は未だ死神が豊田を蘇らせたとは、思っても居なかった――






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