Time Limit は三日間。
巫女twin’zは豊田に準備をさせている間に自宅に戻り、身支度を整えてから再び死者のゾーンへ迎えに行き、共に地上に向かう予定だった――
「わっせわっせ、忙しい」
「せかせか、あわわ、慌ただしい。ふぅ」
「歯ブラシ、タオル、化粧水」
「OK!」
「着替えにパジャマ、抱き枕」
「抱き枕はダメっ!」
「はぁい」
「るるぶにマップル、何より一番、地上の歩き方。持った?」
「YES!」
「行くよっ!」
「は――――ぁい!」
―― 死者のゾーン
「豊田様。どうかしましたかぁ? 顔色が悪いですわぁ」
「どこか具合でも悪いのですかぁ?」
「いやぁ……そのぉ、妻に合わせる顔が無いと言いますか……今更、どの面下げて会うんだと」
「『蘇り』に自問自答は不要ですわぁ」
「大丈夫ですよぉ。うふふふっ」
豊田は巫女twin’zに両脇から腕をロックされて死者のゾーンから出ると、玉砂利を踏み締めて軌道エレベーターの前に着いた――
「このエレベータは?」
「これはぁ、天の国と地上を結ぶ軌道エレベーターですわぁ」
「豊田様はぁ、自殺だったので乗った事が無いと思いますけどぉ、病気や事故で死んだ場合はぁ、お迎えが来てぇ、これに乗って天の国に来るんですねっ、へけっ」
軌道エレベーターに乗り込むと、一気に地上に降りて行った。豊田は不安で一杯になり巫女twin’zに尋ねた――
「あの、先程、自問自答は不要と言われましたが『蘇り』とは……」
「御説明致しますわぁ。えっと、ですねっ。今回の『蘇り』はぁ、おふたりとも記憶が残ったままでぇ、豊田様を騙した堀内の存在が抹消されたんですねっ。なので、なので、関係者は生きていますがぁ、堀内の記憶は一切、御座いませんのでぇ、もし再会してもですねっ、別人の様になっている場合が御座いますので―――ぇ、御注意をっ!」
「はぁ……あの、ちょっと、ややこしいですね」
「大丈夫、直ぐに慣れますわぁ」
「うふふふふっ」
軌道エレベーターは無慈悲に地上に到着した――
「おや? あの……此処は、私の個人事務所が入っているビルですが……」
「はい。御自宅は売却しましたよねっ?」
「本当にぃ、残念ですわぁ」
「えっ、堀内の存在が無かった事になったのなら、自宅も売却をしていないはずでは有りませんか?」
「御自宅はぁ、堀内の借金返済のために売却したのでは有りませんよねっ?」
「あっ……確かに、直接的には堀内の借金返済では有りませんが、結論から言えば彼への返済が滞ってはいけないと思って……」
「思ってとかぁ、無しですっ!」
「覆水盆に返らずと申しますわぁ」
「でも……」
「デモもへったくれも有りませんわぁ」
「うふふふふっ」
豊田は『蘇り』は覆水盆に返らずに非ずと、心の中では納得がいかなかったが、仕方なくビルの中へ入り、階段を上って二階の事務所のドアの前に立った――
「豊田様ぁ。さぁ、どうぞ」
「お入りくださいませっ!」
「はぁ……はい。言われなくとも勝手知ったる自分の事務所ですから……」
豊田はポケットから鍵を取り出し、解錠して事務所の中へ入った――
「あっ、巫女さん。今、お茶を淹れますから其方のソファにどうぞ」
「はぁい」
「有難う御座いまぁ――す」
豊田は給湯室でお湯を沸かし、丁寧にお茶を淹れて差し出した――
「どうぞ。粗茶ですが……」
「有難う御座いまぁ――すっ」
「良い香り。いただきまぁ――すっ」
‶ あぁ――ぁ。美味し――――――いっ! ″
「うん。本当に美味しい」
「私達はぁ、人間の飲むお茶を口にするのはぁ」
「初体験なんですねっ」
「そうですか。でも、不思議ですねぇ、何年も前に買ったお茶なのに……味が変わっていない……このお茶も蘇ったと云う事ですね。あはは」
「豊田様ぁ。実はぁ、この事務所の中はぁ、以前とは変わっている所が有りましてぇ」
「それを確り調べて、御自分の人生を間違いの無い物にして頂いてから――ぁ、新しい人生がですねっ、スタートするんですねっ」
「はぁ……てっきり、もうスタートしている物とばかり思っていましたが、違うのですね?」
「違うんですよぉ、はい」
「それでですねっ。その作業にはぁ、Time Limitが有るんですねっ」
「Time Limitですか? 厳しいんですね?」
「新しい年の始まり迄にぃ、解決して頂きたいんですねっ」
「今日は三十一日ですよねっ、二月三日に日付が変わる時迄の三日間なんですがぁ、今日はスタートが遅かったのでぇ、二月三日の早朝迄、サービスをしておきますわぁ。へけっ!」
「新年って‥‥節分って事ですね?」
「YES!」
「ではぁ、頑張って下さいねっ!」
巫女twin’zは、お茶を美味しそうに飲み干すとソファから立ち上がり、出て行こうとしたので豊田は焦って呼び止めた――
「ちょっと待って下さい、私は此処で一人で作業をしないいけないのですか? それから、作業をしないとどうなるのですか? そして、おふたりは何方へ?」
「はぁ――い。豊田さんの事は豊田さんしか分かりませんのでぇ、お手伝いは出来ませんわぁ」
「そして、作業をしない場合とぉ、出来なかったり、間に合わなかったりした場合わぁ」
「場合は??」
「これから先の人生がぁ、苦難と困難に見舞われる事が予測出来ますわぁ」
「えぇっ! そんな、大事な作業なのですか?」
「う―――ん、大事と云えば大事なんですけどぉ、あまり深刻に考えなくて良いんですねっ」
「苦難も困難も人生の楽しみのひとつですからぁ。まぁ、間違い探しみたいな物なので気楽に楽しんで下さいねっ!」
「間違い探し……ですか?」
「コンプリートして、快適な人生をGETして下さいねっ!」
「それでは、私達はコレで失礼しまぁ―――すっ!」
戸惑う豊田に巫女twin’zはエールを送り出て行った。そして、ドアが閉まると外側から怪しい物音がした――
‶ ガチャガチャ、ガッチャン! ″
「あの音は、まさか?」
豊田は慌ててドアを開けた。すると十センチ程開いたが、その隙間から見えたのは鎖と南京錠だった――
「何て事だ……閉じ込められてしまったぞ」
豊田は三日間の監禁生活を覚悟した――
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