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不帰の淵。

 堀内は意味の分からないまま革の袋の中から『言霊』を取り出した――


「このガラス玉が何だと言うのだ?」


「それはあなたの言霊ですよ」



 死神がそう言うと言霊は音を立てて割れた――



 ‶ ピシッ、バリバリパリ――――ンッ! ″



 そして、音声が再生された――



 ‶ あの馬鹿面を見たか? 全く、騙されているとも知らずに人を騙しているつもりになっているのだからお笑い草だ。はっはっは ″



「こ、これは……あの日の」


「堀内さん。あなた、裏切りましたね……いいえ。裏切ったのではなく、最初から騙す計画だった。亡くなられた豊田さんの名誉のために申し上げますが、彼はひろ子さんが仰る通り、あなたを騙すつもりなんて全く有りませんでした。彼はあなたを本当に信頼していただけなのです」


「騙してなどいない。ビジネスの世界と云うのは非情なのだっ!」


「言い訳御無用。食うか食われるか……非情なビジネスの世界に慣れ切ったあなたは人を信じる事が出来なかった。豊田さんを信じてプラン通りに進めていれば、今頃あなたは真の成功と幸福を手にする事が出来たと云うのに……哀れですねぇ」


「そんな事が有るはずが無いっ!」 



 死神は堀内の首に縄を掛けた――



「さぁ、参りましょう」


「待てっ! 俺はこの国のために働き、社会貢献をして来た人間だぞ、こんな間尺に合わない話が有るかっ!」


「残念ですが『やり甲斐の搾取』は社会貢献とは認められないのです」



 死神は首に掛けた縄を締め上げると、堀内の肩を押した。すると、魂と身体が分離し、身体は肉塊となって床に倒れた――


「さぁ」


「待ってくれ……おいっ!」


「堀内さん。あなたの様な社会的に地位の有る方の最後が如何わしいSMクラブでの事故死となれば……マスメディアは大喜びですよ」


「お前は何も分かっていない、やり甲斐の搾取だぁ? 彼奴らは必死で働いて困難を突破する事もせず、負ける事を恐れ、戦う事から逃げている卑怯者だっ! 思考停止なくせに、それを認めようともしないクズだっ!」


「市井に生きる小市民が卑怯者でクズですかぁ……」


「あぁ、そうだ。何の努力もせずに最初から諦めている。その癖、ささやかな幸せで十分だなんてぬかしやがる。大嘘だよ。人間は皆、欲望が服を着て歩いている様な物だ。正直に金と権力が欲しいと口に出して言わないのは自己保身のためだっ!」


「まぁ、あなたにとっては金と権力が全てなのでしょうねぇ……」


「近頃の若者見てみろっ! 自分の人生を他人に丸投げしておいてプライベートを充実させたいなどと言うが、結局、そのプライベートの趣味とやらで、まんまと金を巻き上げられているだけの間抜けの役立たずだっ! 俺は無能な連中に仕事を与え、国の為に役立てているのだ。搾取なんかじゃ、決してないっ! 役立たずの負け犬共を、この国の為に活用している国士なのだっ!」


 

 死神が何か言おうとするより早く『近頃の若者』に七海が反応した――



「馬っ鹿じゃねぇ――のっ! おい、オッサンっ! テメェーら、金持ちや権力者が空中戦で何をやっていようが、こっちは関係ねぇっつーのっ! 例えどんなにちっぽけでささやかでも、幸せを掴んだ奴が本当の勝ち組なんだよっ!」


「低能のクソガキがっ! 黙ってろっ!」


「ベぇ―――――だっ! んなこたぁ、小学生だって知っているっちゅ――のっ!」 


「まぁまぁ。七海ちゃんも落ち着いて下さい。堀内さん、熱弁を有難う御座いました。あなたの言霊で既に革の袋が一杯です。あっ。それから、此処にもうひとつ言霊が残っていましたよ」



 その言霊は死神の手の平の上で破裂した――



 ‶ 愚か者は常に騙せていると信じて疑わない。騙されているとも知らずに ″



「堀内さん。この言葉を、あなた様にお返し致します」


「‥‥‥‥‥‥」


「人は騙せても……神は騙せませんよ」


「そんなっ……」



 死神の眼差しは氷の様に冷たくなった――



「お嬢さん、死体に拘束服を着せて下さい」


「はいっ!」


「それが出来たら、七海ちゃんはチェーン・ブロックで釣り上げて下さい」


「うんっ!」


「ひろ子さんは電源を入れて粉砕機の準備をして下さい」


「は、はい……」



 死神は吊り上げるのを見届けると、堀内の首の縄を解いた。すると、魂は身体に吸い込まれる様に戻って行き元通りになった――



「ひろ子さん。これ迄、あなた様は大変お辛い思いをされて来ましたねぇ。さぁ、あなたの手で止めを刺して下さい」


「でも……」


「どうぞご遠慮なさらずに。但し、その苦しみも恨みも今日限りで忘れて頂きます。此処から先は『Point of no return』です。良いですね?」


「はいっ!」



 ひろ子は復讐を果たす為、吊り上げられた堀内を粉砕機の上にセッティングした――


「おっ、おいっ! 何をする気だ止めろっ! 止めてくれぇ――――――っ!」



 ‶ グワン、グワン、グワン、グワン、グワン、グワン、グワン、グワン、グワン、グワン、グワン、グワンッ! ″



「復讐の旅はコレで終わり……さようなら。堀内さん」


 ひろ子が固定したベルトを外すと、拘束服を着て芋虫の様になった堀内は粉砕機の中に落ちて、つま先から粉砕されて行き、最後に血だらけの頭部がローラーの間をピンポン玉の様に転がっていたが、暫くすると飲み込まれて行った――



 ‶ バキバキバキバキバキバキッ、ゴリゴリゴリゴリッ、グシャグシャ、グシャッ! ″



「快・感っ!」


 

 七海は最後の瞬間をめぐみに目隠しをされて見損なったが、結果は分かっていた―― 



「めぐみお姉ちゃん、これからどーなんの?」


「さあ……それは、死神さんに聞いてみないと分かんないよ……」


「めぐみさん、七海ちゃん。復讐に付き合わせてごめんなさいね。死神さん、有難う御座いました。もう思い残す事は有りません。人を呪わば穴二つ。どうぞ、私を冥府に連れて行って下さい」


「いいえ、その必要は有りません。御心配無く」



 めぐみは殺人事件の犯人としてひろ子が逮捕されると思った――



「ねぇ死神さん、あんな奴、冥府に連行して無間地獄を味合わせてやればよかったのに。どうして?」


「お嬢さん。堀内さんはつまり……この世には存在し無かった事になったのです」


「えぇっ?!」


「彼の家族に罪は有りませんし、何よりSMプレイを嗜好する様な殿方にとって、無間地獄はご褒美になりかねませんからねぇ……」


「ぷっ!」


「きゃはっ!」



 ‶ あ――――はっはっはっはっは、あっはっはっはっは ″




 ひろ子の復讐劇は死神の登場によって、大爆笑で幕を引いた――







お読み頂き有難う御座います。


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