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想像か妄想か?

 めぐみは事態を理解したが、何から手を付けて良いのか全く分からなかった――


「阻止しろって言われても……どーすりゃ良いのか全く分からないよ」


「うむ。松永ひろ子の行動を監視する必要が有るのぅ」


「そう言われましても、私にも仕事が有りますし、こればっかりはねぇ……御勘弁を」


「なぁに、昼間は良いのじゃ。問題は夜。ひろ子がSMクラブで仕事をしている時の監視が必要なのじゃなぁ」


「SMクラブで? 監禁のぞきプレイ? みたいな?」


「うむ」


「うむ。じゃねぇ――――わっ! アホかっ! 出来るか―――――いっ! メンが割れてんだよっ!『あら? めぐみさん。あんたも好きねぇ』って言うわけないでしょうがっ!」


「まぁまぁ。そう慌てんでも良いぞ。気分転換に遊びにでも行ってみたらどうじゃ?」


「どんな気分転換だよっ! 遊びにって……」



 めぐみは『ひろ子のSMクラブに遊びに行くとしたら……どうすれば良いのだろう?』と、想像を巡らしていると、素戔嗚尊スサノオノミコトもその姿を妄想していた――



「コラッ! 何、ニヤニヤしてんのよ、このエロ親父っ!」


「ぐふっ」



 めぐみはこれ以上話をしても無駄だと思い、授与所に戻った――



「典子さん、紗耶香さん。お尋ねしたい事が有るのですが?」


「何かしら? 鬼やらいの事?」


「典子さん、違いますよぉ。豆まきにはぁ、狛江ババアとぉ、世田谷婦人がぁ、バッティングするんですよぉ。東西横綱の対決はぁ、松永様の圧勝なんですよぉ。だからぁ、めぐみさんはぁ、それを心配しているんですよぉ。ねぇ?」


「いやっ、それは初耳です。でも、文子さん的にプライドが傷付くとか?」


「そうなんですよぉ、私的にはぁ、ピリピリしているんですよぉ」


「紗耶香さん。めぐみさんにかこつけて自分の事ばっかりっ!」


「典子さんがぁ、ボーっとしているからぁ、気が気じゃないんですよぉ」


「まぁまぁ。あのぉ、私が教えて欲しいのは神事の事ではなくて『SMクラブってどーなんですか?』って事なんですけどぉ?」



 ‶ えぇぇ―――――――ぇっ! SMクラブぅ――――――うっ! ″



「めぐみさんっ! まさか、松永様にスカウトされたとか?」


「めぐみさん、それはぁ、ヤヴァイ奴ですよぉ。ミイラ取りがぁ、ミイラになってしまうんですよぉ!」


「いやいや、そんな事は有りませんよ。只、SMクラブに見学って云うか、遊びに行って、見よっかなぁ―――って、思っただけですよ」


 猜疑心の塊になった典子と紗耶香は、より一層疑惑を深めた。そして『めぐみさんって、変態プレイを嗜好するドS? はたまたドM?』と、妄想の塊へと変化するのに時間は掛からなかった――



「ちょっ、ふたり共そんな目で見ないで下さいよっ! 何だかなぁ……」


 素戔嗚尊スサノオノミコトだけならまだしも、典子と紗耶香に相談する事で却って自分の首を絞める結果になってしまい、めぐみは落ち込んだ。そして、ふと、外に目をやると御神木の影に半身を隠したピースケが生暖かい視線を送っているのに気付いた――


「あぁ―――――っ! もう、どいつもこいつも、上っ面だけで判断しやがって、薄っぺらい、ペラっペラの人生を生きている人達には分かって貰わなくて結構ですよぉ―――――だぁっ! ふんっ!!」



 めぐみは一日の仕事を終えて帰路に就いた。身を切るような寒さの中、自転車をひたすら漕いだ。角を曲がり部屋を見上げると明かりが点いていた。そして、入り口に駿のベスパが停まっているのを確認した――


「YES! 七海ちゃんと駿さんが来ているのなら部屋の中は暖かいな。良かったぁ。は―ぁ寒い、寒い。あっ! でも……お取り込み中だったらどうしよう? 気不味いよなぁ……って、何で私が私の部屋に入るのに気を遣わなきゃなんないのよ、もうっ!」


 ‶ コンッ、コンッ、コンッ! ″


「ただいまぁ。めぐみちゃんです、今帰りましたぁ。あっ、ゆっくりで良いよ。慌てないでね」


 ‶ ガチャッ、ゴンッ! ″


 めぐみはドアを開けずに外から声を掛けて様子を窺ったつもりだったが、速攻でドアが開いて頭をぶつけた――


「めぐみお姉ちゃんお帰り。何、変な独り言、言ってんのよ――ぉ、自分の部屋に入るのにノックは要らないぜっ! ヤベぇ奴が来たかと思ってビビったじゃんよ――ぉ」


「あ痛たたぁ。七海ちゃんただいま……」


「めぐみちゃんお帰り。夕飯が出来ているよ。さぁ、風邪が入るから早く入ってドアを閉めて」



 ‶ あ――っはっはっはっはっは。ははははははははぁ、きゃはははははは ″



「めぐみちゃん。それは、とんだ災難だったね」


「朝からフルボッコですよ」


「あっはっはっは。こりゃ可笑しい。はははは」


「もう、駿さん。そんなに笑わないで下さいよっ!」


「いやぁ。笑ってゴメンね。でも、めぐみちゃんとSMクラブが、あまりにも似合わないからさ。あっはっははっは」


「SMクラブに似合うも似合わないも無いでしょうよっ!」


「いやぁ。何て云うか、もっと薄幸で内向的な感じで、影の有る色っぽい女性は男が放っておかなかったりするんだけど……クックック」


「まぁ――た、笑ってる。うーん、色気かぁ……確かに、私なんかより典子さんや紗耶香さんの方が色気が有るしなぁ……おまけにSMクラブの話をした後。見返すと、ふたりの私を見る目が潤んでいるんですよ。私の視線にハッとなって頬がぽぉっと赤くなるし……」


「だって、めぐみちゃんの事を知らないからさ。あっはっは。めぐみちゃんが鞭を持ったら最強だろ? 想像しただけで可笑しくって。あはは」


「全然、可笑しくないですよっ!」 



 七海はキッチンで夕飯の準備を整えると、ふたりに声を掛けた――

 


「お菓子食っても、ご飯を食べてね。今日の夕飯はビーフ・ストロガノフ・ロシア風だぉ」


「おぉ。七海ちゃん、気が利くなぁ。ロシア風?」


「白いんだお」


「あぁっ、本当だぁ……いただきます。旨っ! 七海ちゃんは良いお嫁さんになるよっ!」


「マジで? きゃはっ!」


 七海とめぐみは駿をチラ見した――


「あっ、そういう仕返しは無しだよ」



 ‶ あ――っはっはっはっはっは。ははははははははぁ、きゃはははははは ″



 めぐみは七海と駿と楽しく食事している事にしみじみと幸せを感じていた。だが、頭の片隅ではひろ子のSMクラブの事が気になっていた――








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