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復讐の挽歌。

 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「おざっすぅ……」


「めぐみさん、お早う御座います」


「おはようございますぅ」


「めぐみ姐さん、お早う御座います」


「あのぉ。私事で遅くなって、申し訳ありませんでした……」


「あら? めぐみさん。良いのよ、松永様から連絡が有ったわ『親切な巫女さん』だって。私も鼻が高いわぁ」


「典子さんはぁ、ひとの手柄をぉ、自分の手柄にするのはぁ、止めて下さいよぉ」


「何よっ! 松永様が『私の日頃の指導の賜物ですね』って言って下さったのよ? ふんっ! 紗耶香さんこそ直ぐに嫉妬するんだから。この、焼餅焼きっ!」


「あ―――ぁ、私が一生懸命、焼いたお餅をぉ、横取りして食べたのはぁ、典子さんじゃないですかぁ。何にでもぉ、食い意地が張り過ぎなんですよぉ」


「まぁまぁ、おふたりとも。喧嘩しないで下さい……」


「あれ? めぐみ姐さん。今日は元気が無いですね。体調でも悪いのですか?」


「もうね、朝一番で用事を済ませてしまおうと思ったのが運の尽き……話が重くって」



 めぐみは、ひろ子に聞かされた事を皆に話した――



 ‶ えぇ―――――――ぇえっ! 島流しぃ――――っ! 売春行為ぃ――――――っ! ″



「めぐみさん、それって……」


「あぁ、良いんですよ。ひろ子さんは『皆にも話しておいてねっ!』って」


「でもぉ、松永様はぁ、どうしてぇ、それを?」


「ひろ子さんはコソコソ噂をされるのが大嫌いなんですって。んで『変な噂を流される位ならカミングアウトした方がよっぽどマシよ。その方が清々するわっ!』って。だから、世間に知られた方が良いんですって」


「うぅ―――む。女の人と云うのは謎です。謎多き女のカミングアウトが新たな謎を生み出しました。男には真似出来ません、度胸が凄いです。しかし、あの小さな身体の何処にそんな力が有るのでしょうか……謎だぁ」


「何処? ピースケちゃん。それって下ネタでしょう。女の又に力と力で」


「めぐみ姐さん、努力は下ネタじゃありませんよっ!」


「まぁ、女の人生。童貞のピースケちゃんが理解するにはまだ早いわね」


「早漏じゃありませんっ! もう、からかわないで下さいよっ!」


「ほら、やっぱり下ネタ」



 ‶ あははは。うふふふふふふっ ″



 めぐみは拝殿に昇殿すると本殿へ向かった――



「おぉ。めぐみちゃん、久しぶりじゃのぅ。今、お茶でも淹れるから、そこに座りなさい」


「あの。コレを」


「何じゃ?」


「芋羊羹」


「おぉ、これはナイスじゃのぅ」


「松永様から頂いたの」


「松永ひろ子かぁ……」


「やっぱり、あんたは神様だねぇ。素行不良のエロ親父だとばかり思っていたけど、たまには神様らしい事もするのね。良い所あるじゃんっ!」


「松永ひろ子はのぅ、この神社で式を挙げたのじゃ。わしは、あの日の事を昨日の事の様に覚えておるぞ」


「へぇ。そーなんだぁ」


「嘘だと思っておるな? あれは大安吉日の春の日。本当に綺麗な花嫁姿じゃった…………」


「ふーん」


「ひろ子は今と違ってのぅ、若くてプリプリで、はち切れんばかりのムチムチ感が着物を着ていても分かる程でのぅ。何と言っても、わしの好みじゃったぁ……」


「良い話かと思って聞いてりゃ、このエロ親父っ! 花嫁をそういう目で見るんじゃないわよっ!」


「めぐみちゃん。何でもエロに結び付け過ぎじゃ。女と云うのはそれほどまでに魅力的だと言っておるのじゃ」



 素戔嗚尊スサノオノミコトは丁寧に淹れたお茶をめぐみに差し出した――



「ほぉ……お茶旨す。さっきは緊張と驚きから、きちんと味わえなかったけど……この芋羊羹は本当に美味しいわね」


「うむ。ところで、めぐみちゃん。用件は何じゃ?」


「あぁ、それならもう、済みました。用件は『ひろ子さんを助けてくれて有難う。素戔嗚尊スサノオノミコトを見直した』って、言いたかっただけだから」


「おや? いよいよ、あの話かと思たのだがのぅ……」


「ん? あの話って? 何々?」


「冥府からの使者じゃよ」


「あぁ。死神さん? えぇっ! 死神さんを知っているの? いよいよって、何が有るの? おせーてっ!」


「うむ。松永ひろ子は……」


「うん、うん。ひろ子さんが?」


「復讐の鬼になっておるのじゃ」


 めぐみは上機嫌で口に運んだお茶を真正面から素戔嗚尊スサノオノミコトの顔に向かって吹き出してしまった――



 ‶ ぶっはぁ――――――ぁ、げっほ、げっほ、ごっほっ! ″



「うわっ、めぐみちゃん、汚いのぅ……まぁ、許す」


「レロレロすなっ! 間接キスみたいでキモイ―――っ!」


 素戔嗚尊スサノオノミコトはタオルで顔を拭うと、何時に無く真剣な表情で話を続けた――



「松永ひろ子の復讐を終わらせるのじゃ」


「復讐って……何の事か分からないよ。ひろ子さんは誰に復讐しているの?」


「それはのぅ……全ての男じゃ」


「助平な男?」


「そうとも言う………違う違うっ! 松永ひろ子は、自ら経営するSMクラブに男達をおびき寄せ、腑抜けにして復讐をしているのじゃっ!」


「プレイをした男達が腑抜けになる? って事は、SMクラブとしては立派に機能していると云う事ね」


「違う違う違うっ! もう、めぐみちゃん。わしの口から言い辛い事を言わせようとするのは止めんかいっ!」


「楽しんで居る癖にぃ」


「まぁ、それも立派なプレイじゃがのぅ。だからっ! 違うと云うておるじゃろう」


「そんなのが復讐になるのかしら? 大体、助平な男がいけないのよ。自業自得じゃない?」


「めぐみちゃん。さっき言ったじゃろぅ。冥府よりの使者が身辺調査をして特定をしているのじゃ」


「あ。知らないんだ? 馬鹿だなぁ。死神さんは、ひろ子さんの旦那さんを追い詰めて自死に追いやった男を特定して冥府に連行するのっ! 復讐とは全く関係ないですよっ!」


「それがのぅ……死神よりも先に松永ひろ子が手を掛けたとしたら? どうじゃ」



 素戔嗚尊スサノオノミコトの一言に、暢気に構えていためぐみの顔は引き攣った――



「ど、ど、ど、どうもこうも無いよっ! ひろ子さんが殺人犯になっちゃうよぉ……ど、どうしよう」


「めぐみちゃん。それだけは何としても阻止するのじゃっ! 良いな」



 殺す事も殺される事も全く恐れないひろ子の心の闇の中――


 めぐみは幾重にも重なった悲しみの一番奥深くに横たわっているのは『怒り』で有る事を知り、ひろ子が復讐を生きるよすがにしている事を悟った――





お読み頂き有難う御座います。


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