男は皆、馬の骨。
めぐみは七海を泊めてあげる事にした。そして、何時もの様に自分の布団でスヤスヤと眠る七海の寝息を確認すると、良仁の枕元に立った。だが――
「取り込み中かぁ――――――――――いっ! エロ親父がっ! 仕方が無い。もうひと寝入りしてから再度お伺いするとしよう……」
めぐみは、暫く間をおいてから良仁の枕元に立った――
「良仁さん。良仁さん。起きてっ!」
「ん? 由紀恵……もう一回戦ってか?」
良仁は枕元の照明を点けた――
「あれっ! めぐみさんじゃぁないですか? こんな夜中にどうして? もう、こんな時間に勘弁して下さいよぉ……」
「こっちのセリフですよっ! 腕枕なんかしちゃって、好い気な物ねぇ。話を聞いて下さいっ!」
「えぇ? はぁ……」
良仁はめぐみの前で正座した――
「良仁さん。七海ちゃんは今、私の部屋で寝ています」
「あ、はい。めぐみさんの所に泊まりに行くと聞いて安心しておりましたので。何か……そそうでも?」
「七海ちゃんが泊りに来た本当の理由を御存知ですか?」
「本当の理由?」
「七海ちゃんは、もう子供じゃないんですっ!」
「あ、はい」
「そして、大人と言っても、まだ子供なんですっ!」
「えっと、どう云う??」
「つまり、良仁さんの子供だけどちびっ子じゃなくって、大人なんですけど、結局、子供なんです」
「めぐみさん、増々、分かりませんが……御用件は何なのでしょう?」
「えぇい、しゃらくせぇ! 要するにだぁ、子供にとって両親の合体は『気不味い』って言ってるんだよっ!」
「あうっ、バレてたかっ! どうして……」
「どぉ―――して? 胸に手を当てて良く考えなさい。私の胸じゃないっ! このエロ親父っ!」
「だって、めぐみさん。私も由紀恵も、声は一切出さない様にしていたんですよ」
「フッ。その事で、却ってお互いに興奮してしまい、何時しか激しい家鳴りを……皆迄言わせるなっ!」
「あちゃ――――っ! 俺とした事が、やっちまったか?」
「確実にヤッてます」
良仁は七海に知られていたと思うと急に恥ずかしくなり、下を向いて反省した――
「良仁さん。頬を赤く染めている場合じゃぁ、あ――りませんよ」
「すみません。でも、まぁ、健全な男ですから……」
「『不器用な男ですから』みたいに言ってもダメですっ!」
「…………」
「健全な男女の合体は大いに結構、OKです。でも、両親となれば話は別。由紀恵さんが欲しいのも、七海ちゃんが可愛いのも分かりますが、自分の欲望を最優先していたのでは困ります。慎んで頂きたいのです」
「そう言われましても、こればっかりは……」
「良仁さんっ! 年頃の娘を前に、それって教育上、どぉ―――なんでしょうねぇ?」
「そんなぁ、皆、ヤッているんですよ?」
「じゃあ、お伺いしますけど。七海ちゃんはロスト・バージン・カウント・ダウンです。七海ちゃんがヤッてヤッてヤリまくる様な娘になっても、文句は言えませんよ」
「文句って……七海はまだ子供です。早過ぎますっ! 第一、何処の馬の骨か判らん奴がですよ、七海をモミモミしたり、ぺろぺろ、レロレロしたりするなんて、絶対に許せませんっ! 想像しただけで腹の底から怒りが、いやっ、殺意が湧いてきますよっ!」
「良仁さん……つまり、かつてはあなたも馬の骨だった。間違い有りませんね」
「えっ?!」
良仁は、由紀恵を押し倒したあの日を思い出し……落ちた――
「良仁さん、欲望に取り憑かれてはなりません。あなたに器用な男を紹介しましょう」
「えっ! 超絶フィンガー・テクで有名な……」
「ちげぇ――――よっ、エロ親父っ! 大工だよ、大工っ! 確りした家に引っ越しなさいっ! 分かりましたね」
「はい。分かりました、そうします。有難う御座います」
「よろしい」
―― 一月三十日 先負 癸未
「七海ちゃん、おはよう。良く寝れた?」
「うん。ふあ―ぁ。久し振りに爆睡。良く寝たせいか、お腹が空いたお」
「朝食、出来ているよ」
「やった―っ! 頂きまぁ――すっ!」
「先に顔を洗ってね」
「はぁ――い」
朝食を済ませると、途中まで一緒に歩き、七海はパン屋に、めぐみは康平に会いに世田谷婦人の現場へ向かった――
「康平さん、お早う御座います」
「めぐみさん。お早う御座います」
「康平さん、ちょっとご相談が……」
「えっ!? おいらですか?」
「家を一軒建てて欲しいの」
「おや? 仕事の依頼とは有り難ぇ。で?」
「で? って?」
「はぁ? いや、建築事務所は何処で、現場はどの辺なんですかい?」
「いやぁ、まだ何も決まっていないんですけどね。直ぐ出来ますよね?」
「直ぐって、あのねぇ、めぐみさん。家を一軒建てるなんて事ぁ、そう簡単じゃあ無いんですよ。土地も購入していないんじゃ、どんなの建てて良い物やらサッパリですよ」
「とにかく、家族三人が仲良く暮らせる家を一軒。もう、言っちゃったんですよ。腕の良い大工を紹介するって。だからお願い、この通りです」
「そりゃ、めぐみさんの頼みと有らば、断わる訳には行かねぇ。喜んでやらせて頂きます。だから、そうですねぇ……まず土地を決めて貰って、庭が出来るか出来ないか。平屋か二階建て、もしくは三階建てか? ある程度、具体的な事が決まったら又、来て下さい。それじゃあ、おいらは仕事中なんで、失礼します」
めぐみは、康平が気を遣いつつ『顔洗って出直して来い」と言っている事を悟った――
「うふふふふっ」
「あっ! 世田谷婦人……じゃなくて、松永様」
「よして。ひろ子で良いわよ」
「あぁ、すみません」
「謝る事はないわよ。笑って御免なさいね。でも、お家を今直ぐ立ててくれだなんて。世間知らずなお嬢さんね」
「はぁ。急いでいた物ですから、康平さんに頼めば、直ぐに出来ると思ってしまったんです」
「そう。めぐみさんって言ったかしら? あなたは面白い人ね。良かったら上がってお茶でも飲んで行きなさい」
「あっ、お気遣い有難う御座います。でも、私もこれから仕事なんです。遅刻しちゃいますから……」
「大丈夫。神主さんには私が連絡してあげるから。さぁ、お上がんなさいな」
めぐみは、上品で気取ったところが全く無い、ひろ子の優しい声掛けに感謝しつつも一度決めたら一歩も引かない押しの強さを感じていた――
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